『行列のできる相談所』『世界一受けたい授業』などの演出で知られる日本テレビ執行役員コンテンツ制作局専門局長の高橋利之氏が、29日にオンラインで配信されたビデオリサーチ主催の「VR FORUM 2022」に登壇し、番組作りにおける意識などを語った。

  • 日本テレビ執行役員コンテンツ制作局専門局長の高橋利之氏

高橋氏は、TBSテレビの中谷弥生取締役、サントリーホールディングスの水谷徹常務執行役員とともに、民放連の遠藤龍之介会長(フジテレビ副会長)が司会を務める「放送局はこの後どうなっていく? テレビの価値を最大化」をテーマにしたディスカッションに参加した。

コンプライアンスで表現できる幅が少なくなったと言われることについて、高橋氏は「コンプライアンスの部分で制限されることも確かにありますけど、その分技術的な進歩がものすごいんです。昔スポーツ(局)にいた頃は、『急いでロケ出してください』となったら、技術会社の人に大きなカメラ担いで、音声さん、照明さんに頼んでいた時代だったのが、今はスマホ1個持っていけばディレクターが簡単に撮りに行けるし、編集もテロップも簡単にできる。深夜の残業もしなくてもいいし、打ち合わせもリモートでできるから、僕の番組の音効さんは沖縄に住んでやってますからね。だから時代が進んでできることのほうが断然増えて、すごく効率的にやれるようになっているので、窮屈なことはちょっとありますけど、悪い話ばかりではないんです」と強調。

さらに、「来年、日本テレビが70周年なので過去の番組を振り返りで見てたら、最初のバラエティで『ほろにがショー』って番組があったんです。うちわで風船をあおいだり、氷の中から何か取り出したりするんですけど、その中で、早慶戦の早稲田の応援席で慶応の旗を振ったら5,000円あげますっていう『電波少年』がやりそうな企画があって、1人やる人がいたんだけど、当時の六大学野球連盟がめちゃくちゃ怒って、その直後に打ち切りになってるんですね。だから、その当時だってもちろんコンプライアンスとか、やっちゃいけないことって当然あったんです。『今はがんじがらめだ』とか言うけど、昔は昔なりに厳しいことはいっぱいあったんだろうなと思うので、今言い訳みたいに『コンプライアンス厳しいから』って逃げ道にしてないかなって。理解あるスポンサーの方々もたくさんいるので、とりあえずやってみるっていうことかなと思います」と見解を述べた。

また、番組予算が削減傾向にあることについて、「今年、ダンスの日本一を決める『THE DANCE DAY』という番組を企画させてもらったんですけど、これに関してはものすごい予算が付きました。それはたぶんですけど、やったことがなかったから。もしかしたらコケるかもしれないけど、学校でダンスが必修授業になってる中で、コンセプトは客を沸かせるダンスで日本一を決めるという初めてのことに挑戦すると、応えてくださるスポンサーの方や支えてくれる方がいて、もしかしたら『予算ない、予算ない』って言うのは、予算に見合うようなものを僕らが出せてないのかなっていう気もしていて。さっきのコンプライアンスと一緒で、言い訳にしていないかと。景気悪かろうが何だろうが、面白いものにはお金を出してくれたり、協力してくれるというのがまだまだあるなというのを、今回で実感しました」と紹介し、「どこかみんな逃げ道にしてるところがあるけど、それでちっちゃい企画とか、どこかと同じ企画でいいよということには、ならないんじゃないかな」と訴えた。

それを受け、TBSの中谷氏は「フジテレビさんの『silent』がTVerでの再生回数が素晴らしくて、すごいバズってるんですよね。ただ、世帯視聴率はそれほどではない。このように、コンテンツの価値がかなり過渡期なので、クリエイターさんがどこの指標を目指して頑張っていいのかなというところがあって、ちょっとかわいそうだなと思います」と同情。高橋氏は『silent』について、「面白いですよね。おじさんも泣きました(笑)」と打ち明けた。

  • (左から)中谷弥生氏、高橋利之氏、水谷徹氏、遠藤龍之介氏

ほかにも、若いクリエイターの育成について、高橋氏は「テレビを作る以上は、たくさんテレビを見てほしいなというのがあります。良い番組も悪い番組も両方見て、あとは自分が気づかないうちによその真似をしてることもないとは言えないので。料理人だったら、おいしいものをいろいろ食べたけど、これが一番おいしいですよって出すと思うので、テレビの人だったらテレビを見てほしい」と考えを披露。

加えて、「テレビ番組を放送することで、“我々はこんな番組を作ってるんですよ、みんなで一緒に作りませんか?”ってメッセージを送ることができるので、それは若いクリエイターを呼び込むことになると思うんです。僕はやっぱりテレビを作るときに、視聴率ももちろん大事ですけど、『これを見て若い子たちが、こういう番組を作りたいと思ってくれるかな』というのをみんな考えてほしいというのを言ってますね」と明かした。

中谷氏も「TBSスパークルという会社に、『最愛』を作った新井順子プロデューサーと塚原あゆ子監督がおりまして、彼女たち2人が作品を作ると、スパークルにはたくさんの女性のクリエイター志望がいらっしゃるんです。だからやっぱり、面白い番組を作っていくしかないと思います。そうして、いいエンタテインメントを作る人たちが1人でも多くテレビ業界に入って来ていただいて、コンテンツを作っていただければ」と期待。

高橋氏は「やっぱり新しいものを作りたいと思うし、今から40~50年前に正力(松太郎、日テレ初代社長)さんが『視聴者に見たいものを見せるんじゃない。見たことのないものを見せるのがテレビなんだ』とおっしゃっていて、それがもしかしたら日本テレビはチョモランマ(頂上からの生中継)だったり、世界陸上だったり、箱根駅伝だったり、24時間テレビにつながってるのかもしれない。どこかで見たことのない、やったことのないものはリスクがあるし、僕もいっぱい番組コケてますから、それでも新しいものにチャレンジできる場というのを若い人たちに提供していきたいなと思ってます」と話し、中谷氏も「最近の若い人たちは優秀な人が多いですし、配信やいろんなデバイスでコンテンツを作って発表できると思うので、できるだけ年次関係なくチャンスを与えていくことが重要かなと思っています」と共感した。

「VR FORUM 2022」は、30日、12月1日も開催。30日には元テレビ東京の佐久間宣行氏と電通グループの澤本嘉光氏による対談が配信される。