ドイツ戦では左サイドバックとして先発した。しかし、攻守両面で圧倒され続け、前半33分にはPKを決められて先制された。迎えたハーフタイム。森保監督が戦術変更を告げたロッカールームに、長友やキャプテンのDF吉田麻也の言葉が響きわたった。

「これ以上は失点しない。0-1のままなら、絶対に何かが起こるから!」

依然として1点をリードされていた後半12分に、長友はドリブラーの三笘薫との交代を告げられた。日本の攻撃力をさらに高めるための森保監督の采配。三笘や同時に投入された浅野にエールを送り、戻ったベンチで人知れず心を震わせている。

「ベンチの雰囲気が本当に最高で。誰一人として勝利をあきらめていないし、チームの和というものを感じました。選手ならば当然、試合に出られなければ悔しい思いも抱くんだけど、それを持ちながらもチームのために一緒に戦う。嫉妬で味方の足を引っ張るのではなく、いま何をすべきかを一人ひとりが考えていたので」

長友が求める団結力が目の前にあった。長友は対照的な光景としてドイツのベンチを、日本の戦いが変えた光景としてハリーファ国際スタジアムのスタンドをあげた。

「ドイツ代表のベンチと日本のベンチは、雰囲気がまったく違っていましたよね。心をひとつにして戦っている姿が見ている人にも感動を与えたからか、スタジアムの雰囲気もどんどん日本寄りになっていった。日本のサポーターのみなさんも大勢来てくださっていましたけど、外国人の方々も日本を応援し始めた。人間は心で動いていると考えたときに、訴えるものがあったんですよね。日本は本当にいいチームだと。みんなで戦っていると。ひとつになった心が、見ている方々に感動を与えたんだと」

森保監督は攻撃的な選手をさらに投入する。長友が可愛がる後輩の一人、MF堂安律がピッチに入ったのは後半26分。長友から「絶対にヒーローになってこい」と背中を押された堂安は、わずか4分後に同点に追いつく起死回生のゴールを決めた。

8分後の38分には浅野が目の覚めるような勝ち越しゴールを決める。堂安と浅野、そして堂安のゴールにつながるプレーを演じたMF南野拓実の3人は、ベンチで声を張り上げながら「1点差のままなら絶対にいける」と異口同音に語り合っていた。

ベンチを含めた全員による、もっといえばスタジアム全体を巻き込んだ熱量をほとばしらせて手にした勝利。長友は「ちょっと痺れました」と感無量の表情を浮かべた。

「ベンチで喜ぶどころか、ちょっと倒れそうになっちゃって。血がのぼりすぎて、マジでクラクラしていました。そのぐらいに格別だし、いままでのW杯で一番うれしい勝利ですよ。それぐらい大きなことを成し遂げた。初戦の大事さというのは僕が誰よりもわかっているから、何がなんでもこの試合は勝ちたかった。みんなに熱量があって、みんなで一緒に戦った。感動するレベルでしたね。チームがひとつになる、みんなの心をひとつに繋げることが大事と言ってきたのはこれなんですよ。いやぁ、最高のチームだわ」

■次戦は27日コスタリカ戦「もう一度引き締めたい」

27日にはコスタリカ戦に挑む。過去6度にわたって日本が挑んできたW杯の軌跡を振り返れば、グループステージ初戦で勝ち点を獲得した02年の日韓共催大会、10年の南アフリカ大会、そして18年の前回ロシア大会はすべて決勝トーナメント進出を果たしている。

確率100%の軌道に乗っただけではない。W杯優勝経験チームからは3度目の対戦で、先制を許した試合では9戦目にして、ともに初めて勝利をもぎ取った。しかし、今大会はまだ何も成し遂げていない。一夜明けた24日には、長友はこんな言葉を残している。

「大事なのは勝ったからといって油断せずに、気持ちを切り替えなきゃいけないところですね。本当に素晴らしい勝利だったと思いますけど、次で負けてしまうと意味がなくなってしまうので。なので、もう一度引き締めたいと思います」

アメリカW杯出場を逃した29年前のアジア最終戦は、地名から「ドーハの悲劇」と命名された。一転して日本が放つ真っ赤な熱量が大国ドイツをも飲み込み、新たな歴史へと日本を導こうとしている。熱量の発信源をたどれば、赤髪姿の長友に行き着く。

「これで負けていたら『長友、調子に乗って』と相当な批判を食らっていましたよね。相当大きなリスクというか賭けでしたけど、やってきたことは間違っていなかった。自分を褒めるわけではないけれども、本当に上手くいっていますよね」

こう語った長友によれば、応援のためにドーハ入りしている夫人でタレントの平愛梨も「髪をちょっと赤っぽくしています」という。周囲を次々と巻き込み、無尽蔵でポジティブなエネルギーを共有しながら、長友の鉄人伝説はさらに紡がれていく。