現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で主演を務める俳優の小栗旬。汚れなき眼を持つ純朴な青年から、武士の頂点へと上り詰めるダークヒーローへとシフトしていった北条義時役を演じ、また役者としての株を上げた。10月下旬に約1年5カ月にわたる撮影を終え、本作は小栗にとってどんな経験になったのか。今の心境を聞いた。
脚本家の三谷幸喜氏が、平安末期から鎌倉前期において、源平合戦や鎌倉幕府誕生、執権政治に至るまでの権力争いを、北条義時を主人公に描いてきた『鎌倉殿の13人』。
小栗のラストシーンを見届けた制作統括の清水拓哉氏は「もはや小栗旬ではない北条義時の、手負いの獣のような姿だった」とコメントしていたが、この日の小栗はとても穏やかな表情だった。「あの日、全部置いてきたので、すっかり日常に戻りました。本当に納得のいく終わり方をさせてもらったので、ひきずるような感覚もなく、スパッと切り変わった感じです」
クランクアップの翌日、小栗は三谷氏に「全部終わりました。やり切ってきました」とメールで報告したそうで、三谷氏からも「ご苦労さまでした」というねぎらいの言葉が返信されたという。
また、「時々、三谷さんから『あそこのシーンが最高でした』、『あの表情がすばらしかった』といったメールをもらったりしました。クランクアップ前日はものすごくソワソワして、小池栄子ちゃんと『ちゃんと眠れてますか?』というメールのやりとりをした流れで、三谷さんにも『眠れません』と送ったんです。そしたら三谷さんから『前日に言うことじゃないと思うけど、完璧な義時だったから、安心して明日を迎えてください』というメールをいただきました。『素敵なメッセージですね』と返したら『寝起きにしてはなかなか気の利いたことを書いたでしょ』と言われました」と笑顔で語った。
クランクアップ時には、現場で涙していたキャストやスタッフも多かったようだが、小栗も「僕自身も今まで経験してきたクランクアップとはまたちょっと違う感じでした。まだまだ続けていたいという気持ちと同時に、やっと終わったのだとほっとする気持ちもあり、ひと言ではなんとも言い難い心境でした」と振り返った。
『鎌倉殿の13人』は小栗を筆頭に大泉洋、小池栄子、山本耕史ら実力派俳優陣のアンサンブル演技や、史書『吾妻鏡』をベースにしつつも独自の解釈とアレンジをした三谷氏の巧妙なストーリーテリングが、多くの視聴者を熱狂させている。
小栗は、三谷脚本の魅力について「まず1つは、全編48回を通して、こんなに説明台詞が少なくて済んでいる脚本ってなかなかないなと僕は思っています」と称える。
「台本を読むだけで、そこで起きている物事と、それぞれの登場人物の台詞によって世界観が見えてくる。それでいて、1人がこんこんと長台詞をしゃべるようなシーンもあまりなくて。もちろん人物の名前を羅列するような台詞は大変でしたが、感情にそぐわない台詞や、余計だなと思うような台詞は一切なかったです」と感心しきりだ。
さらに、「偉そうにこんなことを言うのもなんですが」と恐縮しつつ「今回は本当に神がかっていたんじゃないかなと思うくらい、毎話毎話、脚本を読むのが楽しみでした」とこれ以上にない賛辞を口にする。
気になる最終回については「ああいう形で描いてくれたことがすごい」と内容を伏せたうえで感激をあらわにし「今回、三谷さんは大河ドラマをこよなく愛している方だってことが、伝わってきました。だから自分は大河ドラマを、三谷幸喜さんの脚本で演じられたことがとてもありがたかったです」と感謝する。
前半で、北条義時と共に物語を牽引したのが、大泉洋演じた源頼朝だが、頼朝亡き後の後半とで、現場の雰囲気に変化はあったのだろうか。小栗は「基本的にほぼ変わってない感じがしますが、前半の20回ぐらいまでは僕より年上の方が多かったのが、後半から急に僕が“お兄さん”にならなければいけなくなったので、正直、前半のほうが気が楽ではありました(笑)。若い俳優たちは背負わなければいけないテーマみたいなものがたくさんあって、できる限り環境を良くしてあげたいと思ってしまうので」と語った。
“気遣いのできる座長”として知られる小栗だが「主役をやるとそういう風に言われますが、結局のところ現場を作っているのはスタッフの皆さんであり、今回の『鎌倉殿の13人』で言うと、間違いなく演出の吉田照幸さんが作る現場の空気がそのまま撮影以外の場所でも浸透していました」と述べ、吉田組について「風通しが良かった。変な緊張感がないし、みんながそれぞれ持ってきたものを披露できて、ちゃんと意見が言えるような環境でした」と振り返った。