聖地巡礼については、ロケ誘致に前向きな自治体やスポットなどが増えたことも大きく、これが3つ目の理由。今やロケの誘致は、聖地巡礼の観光客を集め、地域産業が活性化し、地元住民を喜ばせるなどのメリットから注力する自治体が年を追うごとに増えている。実際、シーンに合わせたスポットの提案に留まらず、エキストラやケータリングなどの提供を申し出る積極的な自治体も少なくない。

ロケ誘致に前向きなのは自治体だけでなく、商業施設、飲食店、交通機関など多岐にわたり、それを支援する「ロケなび!」という仲介サイトも存在するなど、制作サイドにとってはロケ地の選択肢が広がる一方。互いのメリットを考えたとき、「架空の名前ではなく、そのままの名前で使えませんか」という話になるのは自然な流れだろう。「すでにドラマはロケ地と“ウィン・ウィン”の関係を築くタームに入りはじめている」と言っていいかもしれない。

■視聴者への説得力と安心材料に

4つ目の理由として挙げておきたいのが、異論をはさむ余地のない説得力を得るため。たとえば『エルピス』は、えん罪事件というセンシティブなテーマだけに、ディテールが重要となる。その点で実在する事件を参考にしたのは、限りなくノンフィクションに近いフィクションを作り上げたいからなのだろう。

「ネット上の批判を予防する」という意味でも、このような工夫は効果が期待できる。その意味で『エルピス』は「こんな設定はありえない」などの批判を回避できているのではないか。

  • 『エルピス -希望、あるいは災い-』に出演する(左から)眞栄田郷敦、長澤まさみ、鈴木亮平と、脚本の渡辺あや氏

最後に5つ目の理由は、視聴者に安心感を与えるため。事実、『ファーストペンギン!』は放送前に「実話」と打ち出しておくことで視聴者に「荒唐無稽な話ではありませんから、安心して楽しんでください」というメッセージを送っていた。

このところタイムパフォーマンス(※かけた時間に対する効果)にシビアな人々が増えている。それだけに、「実際にあったハートフルな物語ですから安心して楽しんでください」と保険をかけてあげることが効果的なのだろう。