“日本のどこで働いてもOK”という「どこでもオフィス」をはじめ、多様な働き方に対応する制度を次々と打ち出しているヤフージャパン。2017年に、家族の育児や介護などを行う従業員を対象に、週休3日が可能になる「選べる勤務制度」を導入しています。月単位で申請や曜日変更・解除が可能、複数回の利用も可能というこの制度を、これまでに延べ約200名の社員が利用したそう。
今回は、子どもの中学受験サポートを始めとする“家の仕事”にあたるために、1年半「選べる勤務制度」を利用した社員に、“週休3日で働く”ことのリアルな実態を伺いました。
和田山さんが「選べる勤務制度」を利用したのは、2020年10月から今年3月までの1年半。子どもの中学受験と夫の単身赴任が重なり、さらにコロナ禍で学校のカリキュラムやオンライン授業のためのパソコン準備など、張り付きで対応が必要な「家の仕事」が激増したため、週休3日でそれらに対応することを決断したそうです。
「当時、会社は持株会社化や大型の経営統合案件を控えた重要な局面。私自身も初めて管理職に登用された頃で、業務は多忙を極めていました。それでも制度の利用を決断したのは、“ここで週休3日でも成果を出せれば、後に続く人のためにもなる”と、道を切り拓く思いからでした。その前から時短勤務も利用していたのですが、質の高いアウトプットを出し続けていたことで、“和田山さんなら短い労働時間でも普通以上の成果を出してくれる”という信頼のようなものは蓄積できていたと思います。
ただ、5日で仕上げていた仕事を4日で仕上げますし、さらに経営統合という社史に残るビッグイベントを控えていた時期で、通常時よりも分量、難易度ともに業務は爆増していました。月・火・木・金の業務中は、頭もキーボードも常に2~3倍速のフル回転。仕事も家事育児も質・量ともにハードルが上がって、それらに対応するためにパワーアップしたと思います」
コロナ禍以降は原則在宅勤務をしていた和田山さん。時短勤務かつ週4日という限られた時間の中で、量も難易度も上がった業務をこなすことが可能だったのは、コロナ禍を機に、会議運営をオンライン・ハイブリッドで行えるように業務フローを見直し、チーム全体で抜本的に業務が最適化・効率化されたことが大きかったといいます。
「取締役会の内容・手続きには法律や社内規程上の決まりごとが多々あるので、フローを変更・簡略化したとしても、きちんと条件をクリアしている設計にすること、役員がよりスムーズに意思決定できるようにすることは、苦労したと同時に工夫した点でもありました。
業務についてはオンライン化に伴うフローの見直しなどで効率化を図り、家事育児もリモートワークと組み合わせてなるべく無駄を省いて対応しました。例えば、受験に向けたスケジュール管理には、仕事でプロジェクトを率いるときに使用するWBS(Work Breakdown Structure)の仕組みを用いたり、逆に受験サポートで自前の教材を作成した時の視点は、現在、社内のコンプライアンス教材作成をする時などに活きています」
■典型的な【業務日】のタイムスケジュール (※時短勤務制度も併用)
6:00 起床
6:30~8:00 朝食、準備、子どもたち送り出し
8:30~11:00 業務開始
11:00~12:00 休憩
12:00~15:30 業務
15:30~16:30 上の子に軽食を食べさせ塾に送り出し
16:30~18:00 夕食準備、学校プリント確認、下の子の習い事など
18:00~19:00 夕食
19:00~21:00 下の子の宿題、風呂、寝かせる
21:00~21:30 上の子の塾お迎え
21:30~22:30 上の子のご飯、風呂(その間に教材作りなど)
22:30 上の子就寝
22:30~24:00 塾のプリント類整理、学習カリキュラム考える、教材作り、明日の仕事確認
とにかく短い時間でたくさんのことをこなす必要があったため、基本的に同時に2つ以上の作業を並行して行い、時間を少しでも確保するために、自動化・機械化できるところは“徹底的にツールを使い倒した”そう。
「家では、献立作成と食材宅配をしてくれる外注サービスを使い、全自動洗濯乾燥機、ロボット掃除機、アプリなど、機械に頼れるところは頼りまくりました。ご飯を作りながら、片方のイヤホンで塾の保護者向け動画を倍速視聴しつつ、片方で子供たちの勉強の様子を確認するなどしていました」
■典型的な【休日】のタイムスケジュール
6:00 起床
6:30~9:00 掃除・洗濯、今日やること整理
9:00~11:00 上の子の学習カリキュラム組み考える、教材作り
11:00~12:00 スーパー・薬局に買い出しなど
12:00~13:30 雑事(学校&塾のプリント読み込み) 、学校説明会動画・保護者会動画見る、出願スケジュール確認など
13:30~15:00 下の子が学校から帰ってくる、一緒に虫捕り
15:00~16:30 上の子が学校から帰ってくる
16:30~17:00 下の子と虫捕り2回目、教材作りなど
17:00~20:00 ごはんの用意、夕食、子供とお風呂
20:00-21:00 学校のプリント確認、下の子寝かしつけ
21:00~21:30 上の子の塾お迎え
21:30~22:30 上の子のご飯、風呂(食事・ドライヤー中に自前の教材でクイズ)
22:30 上の子就寝
22:30~24:00 塾のプリント類整理、苦手問題の確認、明日の仕事確認
「会社でも、ツールでのつまずきは業務効率を大きく下げるので、Slack、Zoom、OneNoteなどの機能を徹底的に使いこなせるようにし、同僚にも使い方を紹介したりしていました。限られた時間の中で自分なりにやり方を工夫するこうした経験が、仕事と育児家事の相互に良い影響を与えたと思っています」
とはいえ仕事と育児家事の両立の大変さは、今も日々、現在進行形で心底痛感しているといいます。「上司や同僚のサポートがあったからこそ、週休3日で業務をこなすことができました」と和田山さん。
「コロナ禍、社史に残るビッグイベント、初の管理職登用、パートナーの単身赴任、中学受験……これらを一気に迎え撃つ経験は、なかなかないのではないかと思います(笑)。仕事と育児の両立というより、自分としては“10枚くらいの皿回しを同時にしている”感覚でした。
それでも、制度を組み合わせたり、自分なりの工夫をすることで乗り切ることができました。この経験が、今同じような状況の中で頑張っている人や、これからライフステージで大変な局面を迎える人たちを勇気づけられたらと思います」
週休3日制度を導入する企業も増え、働き方はますます多様化しています。育児、介護や看護など、家族のサポートなどで、一時的に働き方を変えることもあるかもしれません。和田山さんが実践した「仕事の効率化」の工夫の中に、“限られた時間で質を落とさずに業務を遂行”するためのヒントが見つかりそうです。