――テレビ局を舞台にえん罪事件を扱うことで、メディアの責任を問う自己批判にもつながります。リスクが高いと思いませんでしたか?

佐野:現行犯逮捕はともかく、容疑者の段階で犯人だと決めつけて報道することは世界的にも問題になっています。個人的にも、容疑がかかり、マスコミが「この人が犯人です」と取り上げる報道の在り様に対する疑問や不信感をずっと持ち続けていました。「マスゴミ」と叩かれるたびに、その中に自分がいることの息苦しさもありました。ただ、変えたいけれど、大きな組織を変えるのは難しい。1社だけでどうにかなる話もでなく、なおさら1人では何もならないということを台本の打ち合わせのときから話していました。もちろん自虐になり過ぎるのもどうなんだろうという思いもあって。あやさんはこれらを掬(すく)い取って、物語にしてくださったと思っています。

渡辺:佐野さんと2人だからこそできるものは何だろうって、いつも思っていました。目の前にいる人とできるものをやりたい。自分が出会った人と私だからできるものをやりたいと。テレビ局の内部事情をご存じの佐野さんにとって、もちろんリスクが高い作品になります。そんな企画は通らないんじゃないかと思いながらも、佐野さんとテレビの内側を描きたいと思い続けていました。実現するまでに時間がかかりましたけど、ドラマとして圧倒的なリアリティを持つ作品になっていると確信しています。

■「浅川恵那」は長澤まさみの当て書き

――スキャンダルによってエースの座から転落したアナウンサーという浅川恵那役は、なぜ長澤まさみさんだったのですか?

渡辺:浅川恵那に関しては、当て書きです。佐野さんと主人公を演じていただくのは誰がいいのかと話し合う中で、長澤まさみさんが真っ先に挙がりました。

佐野:長澤さんって、内にあるエネルギーをなんだか持て余しているように見える。あくまでもいち視聴者としてそう思っています。今生きている社会とフィットしていないんじゃないかって、勝手に感じていて。そんな方に自分を取り戻していく物語を演じてほしいと思ったんです。ご本人が本当にそうかは分かりませんが、画面に映る彼女から率直に感じていたことです。

  • 長澤まさみ (C)KTV

――物語のカギを握る人物に三浦透子さんを起用した理由を教えてもらえますか?

佐野:三浦さん演じる「チェリー」役は、実はもともと別の方をイメージしていました。企画を初めに考えた2017年から5年が経って再スタートしたので、改めてどうしようかと。長澤さん以外は、眞栄田郷敦さんも鈴木亮平さんもキャスティングを考え直して決めていった経緯があります。チェリーというキャラクターは、私の印象では強さも弱さもある役。このぐらいの年齢でそれを表現できる役者さんはそういません。実際に三浦さんはアングルによって印象が変わる。撮り方によって、いろいろな顔を持っているというのは、いい役者の条件だと思います。矛盾を抱えながら生きている難しい役のチェリーを表現するのに図らずもぴったりでした。