黒田尭之五段と服部慎一郎五段の間で争われている第53期新人王戦(主催:しんぶん赤旗)決勝三番勝負は、第2局が10月24日(月)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、服部五段が126手で黒田五段に勝利して対戦成績を1勝1敗のタイに戻しました。
■戦型は相穴熊に
黒田五段は愛媛県出身の26歳。居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダーで、居飛車では横歩取りを、振り飛車では角道を閉じる四間飛車を得意としています。対する服部五段は富山県出身の23歳。居飛車党で、矢倉・相掛かり・横歩取り・角換わりという相居飛車の四大戦法をまんべんなく採用しています。
1勝のリードをもって迎えた本局で、先手の黒田五段は三間飛車穴熊戦法を採用しました。黒田五段は8月の公式戦で三間飛車穴熊を相手に戦った経験があり、本局でも途中まではこの前例と類似の進行となりました。黒田五段の三間飛車穴熊に対して服部五段は居飛車穴熊に組んで対抗します。相穴熊と呼ばれるこの戦型では終盤の速度計算の重要度が高く、他の戦型にはない独特の感覚が求められます。本局の中盤戦の進行について黒田五段は局後、「実戦的には人間同士なら互角か少々振り飛車持ちかと思いました」と述べました。本局における黒田五段の戦型選択があくまで勝ちという結果を求めたものであったことが伝わってきます。
■難解な中盤戦
両者の玉を守る堅い囲いが完成したあと、服部五段が50手目に歩を突き捨てたことによって戦いが始まりました。攻めの桂を前線に活用していく服部五段に対し、黒田五段も手にした歩をすかさずと金にして応戦します。局面は攻め合いの様相を呈してきました。形勢は互角で、先手のと金と後手の桂のどちらが働くかが課題です。
本局の最初のポイントは、黒田五段の65手目▲4五飛に対する服部五段の応手でした。平凡に見える△4四歩は(1)のちに後手から4筋にと金を作れなくなること、(2)直後の△5七桂成の攻めが厳しくないように見えることの2点から服部五段はこの手を避けました。しかし局後の感想戦で、△5七桂成の攻めに△6七角という手を組み合わせると思いのほか効果があったことが判明しました。むしろ実戦で服部五段が指した△6七角には黒田五段から▲5三角という返し技が成立していた可能性があります。多くの候補手を検討しては切り捨てるという作業を繰り返し、二人の将棋は難解な終盤戦に突入していきました。
■服部五段が抜け出す
相穴熊の終盤戦では、「どちらの玉が先に詰むか」という速度計算が問題となってきます。本局もその例外ではなく、ときには詰みまで読み切らないと着手できない状況が続きました。膨大な読みの裏付けが求められるなかで、3時間ずつあった両者の持ち時間はともに30分程度になっています。
黒田五段は83手目に▲2三銀成として一気の決着を目指しましたが、結果的にこの手を境に形勢は服部五段に傾きました。この手はのちに▲3二金と打って後手玉に必死をかける狙いを持っており、「金なし将棋に受け手なし」の格言通り、持ち駒に金のない服部五段には適当な受けもないようにも見えます。しかし、服部五段の方から攻めの竜を犠牲に王手で金を手に入れる妙手順があり、先手がかけたはずの必死は解除されてしまったのです。▲2三銀成に代えては勝ちを急がない▲5一角が有力で、これなら長い戦いが続いていました。
優位に立ってからの服部五段は、自玉を徹底的に固めて逆転を許しません。最後はやはり玉の堅さが物を言う展開で、服部五段は攻めさえ途切れなければ勝ちというわかりやすい展開に持ち込むことができました。この戦い方がうまく、最後は服部五段がそつなく黒田五段の玉を寄せ切りました。16時35分、黒田五段の投了により、三番勝負の決着は第3局に持ち越されることが決まりました。
局後、勝った服部五段は「次は最後になるので、悔いのない良い将棋を指したいと思っています」と意気込みを語りました。敗れた黒田五段は「全力を尽くして挑みたいと思います」と述べました。決着局となる第3局は11月1日(火)に関西将棋会館で行われます。
水留啓(将棋情報局)