藤井聡太竜王に広瀬章人八段が挑戦する第35期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)第2局が10月21・22日(金・土)に京都府右京区の「総本山仁和寺」で行われました。結果は105手で藤井竜王が広瀬八段に勝ち、シリーズ成績を1勝1敗としました。

■広瀬八段用意の作戦

午前9時の対局開始から約10分、後手の広瀬八段が角を上がったことによって本局は早くも力戦形(定跡が整備されていない形)に誘導されました。後手はのちに△3三金型という愚形に誘導されますが、この形をとがめる先手からの具体的な攻め方が見つかっていないのが現状なのです。また、本局で広瀬八段が採用した△3三金型+腰掛け銀という組み合わせも斬新で、広瀬八段はこの大一番で藤井竜王の事前研究を外すことに成功しました。

昨今のタイトル戦では「先手番の局では先攻の利を生かして勝ち星をキープ、後手番の局でいかにブレイクして勝ち星を稼ぐかが課題」という傾向が顕著になっており、このことが広瀬八段の意表の作戦選択の一因になっていると考えられます。もともと不利な後手番であることに加えて、シリーズ序盤であることや開幕戦で勝利を収めていることなどを考慮に入れると、広瀬八段の作戦選択も理にかなったものとして理解できるでしょう。

■期待通りの中盤戦

局面は「藤井竜王の攻め対広瀬八段の受け」の構図で展開していきます。広瀬八段が事前研究を生かしてテンポよく指し進める一方、指し慣れない形からの攻めを求められた藤井竜王はこまめに時間を使います。それでも対局開始から2時間半後の午前11時半、藤井竜王が歩をぶつけたことで戦いが始まりました。左右の銀を前線に繰り出し桂損の猛攻を繰り出す藤井竜王に対して、広瀬八段は豊富な研究を生かして堂々と対応します。1日目終了時点での形勢は互角で、午後6時に広瀬八段が56手目を封じて1日目が終了しました。

2日目に入り、戦いは本格化します。広瀬八段は封じ手前の手順で歩の手筋を駆使して藤井陣に嫌味をつけておき、封じ手で先手の桂を取りました。このあたりの広瀬八段の押し引きがうまく、感想戦で藤井竜王はこのあたりの形勢を「悪いと思っていました」と漏らしました。実際の形勢の良さに加え、不利とされている後手番で主導権を奪えていることを加味すると、広瀬八段としては申し分ない中盤戦になりました。

■中盤の難所で藤井竜王が逆転

リードを奪った広瀬八段ですが、やり取りが一段落した59手目の局面で攻防の選択を強いられます。ここは持ち駒の桂を打って攻めを継続したり、守りの金を寄ってしばらく受けに回ったりと手が広い局面でした。実戦ではじっと歩を突いて局面の方向性を藤井竜王に委ねましたが、感想戦で広瀬八段はこの手は「あまり良くなかった可能性がある」と振り返りました。評価値はまったくの互角ながら、この時点で後手は最初に奪ったリードを失う形になりました。

広瀬八段にとっては攻めるにしても受けるにしても局面の急所をつかみづらい時間が続きます。形勢容易ならずと見た広瀬八段は昼食休憩明けの午後1時半、持ち駒の角を△3八角と敵陣に打ち込んで局面を動かしに行きましたが、結果的にこの「攻め合う姿勢がよくなかったか」と感想戦でこぼしました。ここまで広瀬八段の新構想に手を焼いていた藤井竜王ですが、ここを勝負所と見たか、前傾姿勢を一層深めて熟慮に沈みます。

81手目に藤井竜王が▲4六金と出たことによって、この攻め合いが藤井竜王の一手勝ちの可能性が高いことが明らかになってきました。対する広瀬八段も連打の歩の手筋で対応しますが、勢いに乗った藤井竜王の攻めは止まりません。優勢に転じてからの藤井竜王の攻めは一本の線を引いたように緩みないもので、このあと広瀬八段に粘る隙を与えずに押し切りました。午後4時21分、105手までで広瀬八段が投了を告げました。

第3局は10月28・29日(金・土)に静岡県富士宮市の「割烹旅館 たちばな」にて行われます。1勝1敗で振り出しに戻った七番勝負は、今後も両者の作戦選択から目が離せません。

水留啓(将棋情報局)

広瀬八段の研究に苦戦しながらも勝利を手にした藤井竜王(提供:日本将棋連盟)
広瀬八段の研究に苦戦しながらも勝利を手にした藤井竜王(提供:日本将棋連盟)