買い物に出かけると、いろんなものが値上がりしていることに気づくと思いますが、我々の給料は上がっているのでしょうか。そこで気になる"平均年収"について、国税庁の民間給与実態統計調査の最新結果から、図表を使ってわかりやすく解説したいと思います。
■平均年収は443万円
国税庁の民間給与実態統計調査の令和3年分が公表されました。それによると、民間企業で1年を通じて勤務した人の平均年収は443万円となり、前年に比べて2.4%増えコロナ前の水準に戻りました。男女別にみると、男性545万円(前年比2.5%増)、女性302万円(同 3.2%増)となっています。
<平均年収の推移>
令和3年分の民間給与実態統計調査結果には平成23年からの推移しか掲載されていないので、これだけみると「今までで一番平均年収が高くなっている」と誤解してしまいますが、昭和60年からの推移をみてみると非常にがっかりすることになります。
平成元年に400万円台になってから30年以上ほぼ横ばいで推移しているのです。平成9年に467万円になったあたりが一つの山になっていますが、その水準にも戻っていません。そればかりか、税金や社会保険料などの非消費支出は増え続けているので、可処分所得にするとさらに差が開きます。
ここ最近の物価上昇や税金・社会保険料の負担増を考えると、平均年収がこれを上回る勢いで上昇しないと家計の厳しさは解消されないでしょう。
■雇用形態・男女別でみてみると
次に正社員(正職員)と正社員(正職員)以外の平均年収をみてみましょう。
正社員の平均年収は508万円(前年比2.6%増)、正社員以外の平均年収は198万円(同12.1%増)となっています。これをさらに男女別にしてみると、正社員の男性は570万円(同3.6%増)、正社員の女性は389万円(同1.4%増)、正社員以外の男性は267万円(同17.2%増)、正社員以外の女性は162万円(同5.9%増)となっています。
正社員と正社員以外では平均年収に大きな開きがあることがわかります。正社員以外の人の平均年収は正社員の平均年収の4割に届きません。また、男性と女性の平均年収にも開きがあります。
これだけみても男女の賃金格差がわかりますが、雇用形態別の男女の数をみるとさらに深刻です。1年を通じて勤務した正社員の給与所得者数は3,588万人で、うち男性は 2,368 万人、女性は1,220 万人となっています。女性は男性のおよそ半分です。
一方、正社員以外の給与所得者数は1,271万人となっており、うち男性は 429万人、女性は843 万人です。こちらは女性が男性の倍近い数になっています。女性は結婚や出産によって正社員から正社員以外(パートやアルバイトなど)の働き方に変えてしまうことで男女の収入格差がますます広がってしまうように思います。
■年代別の平均年収
年代別の平均年収もみてみましょう。
<年齢階層別の平均年収>
19歳以下:男性152万円 女性113万円 計133万円
20~24歳:男性287万円 女性249万円 計269万円
25~29歳:男性404万円 女性328万円 計371万円
30~34歳:男性472万円 女性322万円 計413万円
35~39歳:男性533万円 女性321万円 計449万円
40~44歳:男性584万円 女性324万円 計480万円
45~49歳:男性630万円 女性328万円 計504万円
50~54歳:男性664万円 女性328万円 計520万円
55~59歳:男性687万円 女性316万円 計529万円
60~64歳:男性537万円 女性262万円 計423万円
65~69歳:男性423万円 女性216万円 計338万円
70歳以上:男性369万円 女性210万円 計300万円
全体平均:男性545万円 女性302万円 計443万円
<年齢階層別の平均年収>
男性は年齢が上がるに従い増えていき、55~59歳で年収は687万円となりピークを迎えます。女性は25~29歳で年収が328万円になったところで頭打ちとなり55~59歳までほぼ横ばいです。先述したように、結婚・出産を機にして正社員からパートなどの非正規雇用を選択する女性が多くなっていることが原因のようです。
この統計には表れていませんが、そのまま正社員を続けた女性とパートなどに移行した女性での収入格差は年齢が上がるに従ってますます広がります。女性が仕事を継続できる制度および環境作りは早急に実現していく必要があるでしょう。
■業種別の平均年収
最後に業種別の平均年収をみてみましょう。
最も平均年収が高い業種は「電気・ガス・熱供給・水道業」の766万円となっています。次いで「金融業・保険業」の677万円、「情報通信業」の624万円となります。一方、平均年収が低い業種は「宿泊業,飲食サービス業」の 260万円、「農林水産・鉱業」の310万円、「サービス業」の369万円となっています。
インフラを提供する業界やIT業界、金融・保険などは年収が高い傾向があります。一方で、サービス業は非正規雇用も多いため年収は低くなりがちです。業種によって平均年収が3倍近く変わってくることは、これから進路を決める人は念頭に置くとよいでしょう。
■まとめ
令和3年分の民間給与実態統計調査から「平均年収」について解説してきました。コロナ禍で2年連続して平均年収は下がりましたが、今回でコロナ前の水準を超えたことは喜ばしいことです。しかし、物価の上昇に対して賃金が増えていないと感じている人の方が多いと思います。資源価格の高騰や円安などによって、今後も物価の上昇は続いていくでしょう。それに対処する方法は、消費行動を控えることではありません。政府は賃金を上げる方向に全力で取り組んでほしいと思います。