●トニオ役はまさかの野沢雅子

──声優さんの話が出たところで、トニオを野沢雅子さんにしたいと思ったのはどのタイミングですか?

そうた監督 野沢雅子さんがNiziUのダンスをするというCGを作る仕事を受けたとき、ちょうど『5億年ボタン』を作っている最中だったので、野沢さんに直接『出てもらえませんか?』って勢いで頼んでみたら、『良いわよ!』って(笑)。声優さんと言えば真っ先に思い浮かぶ人が野沢雅子さんだったので、ほんとぉ?こんなに簡単に夢が叶って良いのかなって思いました。

──勢いだったんですね

そうた監督 勢いって怖いですね(笑)

──ジャイ美役の三森すずこさんは『gdgd妖精s』『でびどる!』に続いての出演という感じですね

そうた監督 『gdgd妖精s』は、僕の中でも、世間的にもアドリブのエポック的な作品になっていますから、三森さんに出てもらうことで雰囲気を出したかったところもあります。ノリもキャラも完全にわかってくれていますし。

──うんこちゃん役の三上枝織さんは『ネットミラクルショッピング』にも出演なさってました

そうた監督 いつもいつも変なキャラでちょっと申し訳ないところもあります(笑)。『ネットミラクル』で言うと、山田真一さんや佐藤聡美さんにも出ていただきたかったのですが、今回はちょっと難しくて。その代わりと言うのはちょっと変ですが、大空直美さんや高野麻里佳さん、羊宮妃那さん、ボルケーノ太田さん、さらには銀河万丈さんもそうですが、『5億年ボタン』を作ったことで生まれた新たな出会いにも感謝しています。

●中二病から抜け出せない

──『5億年ボタン』は、思考実験ということもあり、Aパートは特に哲学や宗教をフィーチャーした内容になっていました

そうた監督 実際にトニオちゃんを連載していた当時は、哲学についてあまり勉強していなかったので、よくわからずに描いていました。だから、後になって自分が何となく考えていたことの先が“カント”だったり“色即是空”だったり、“梵我一如”に答えがあって、ちゃんと名前がついてたんだということを知ったわけです。そう考えると、自分の頭の中を言語化する作業を40歳まで続けていたんだなと。

──そのあたりをあらためて描こうとしたのは?

そうた監督 結局、いまだに中二病から抜け出せていないんですよ(笑)。世界とは何か?神がいなければ、良いことも悪いこともないのに、なぜ人殺しをしてはいけないのか?そんなことを、誰しもが若い頃に考えたりするじゃないですか。でも、普通は面倒くさくなって、考えるのをやめて、資本主義の現状の価値観に紛れていくのですが、僕はそこから離れられず、思春期特有の“世界とは何か?”という命題をずっと引きずってきてしまった。それが、自分なりの考えとしてある程度まとまってきたので、あえて発表したというところはあります。その意味では、『5億年ボタン』を観て、あらためて自分の中二病的な過去を思い出して、考え直してもらうきっかけになれば良いなと思います。

●一人でアニメを作ることのメリット

──正直なところ、一人で30分アニメを作るという話を聞いたときは正気の沙汰じゃないと思いました(笑)

そうた監督 かなり難しいと思ったのですが、結局のところ、分割すれば細かい5分アニメの寄せ集めですから。5分コンテンツを3つ合わせたのが『gdgd妖精s』で、そこにOPとEDを足せばちょうど20分番組として成立するなと。

──5分コンテンツのほうが作りやすいですか?

そうた監督 自分が3~7分のSFショートショートや、短いギャグアニメを作るのが得意というのもありますが、見る側の問題もあると思います。YouTubeにせよ、TikTokにせよ、最近は短いコンテンツが好まれますからね。1パート3分でも作れますが、7分あればもっと面白くなるコンテンツもありますから、20分枠というのが自分としては一番やりやすい気がします。

──実際のところ、一人で作るのとチーム体制で作るのはどちらが楽ですか?

そうた監督 アニメ作りは基本的にチームワークですし、最終的な映像に仕上げるまでの苦労、自分に掛かる負担を考えれば、チームで作ったほうが絶対に楽です。例えば、モーションで言えばポンポコPさんのほうが自分より上手いですし、質感で言えばビームマンPさんのほうが自分より良い。実はカメラワークすら良かったりします。餅は餅屋なんです。お金があればチームで作ったほうがクオリティも断然良くなります。今回はお金がなかったので、自分ひとりで本編をすべて作らざるを得なかっただけです(笑)。

──今回は製作委員会的なものもありませんよね

そうた監督 TOKYO MXさんをはじめ、いろいろな方にいろいろなことを手伝っていただいていますが、委員会というものは作っていません。そのおかげでいろいろと足りていないところがあるのも事実ですが、個人だからこそ、すごく偏った、すごく変な作品を作ることができたんだと思います。例えば、僕のことをすごく認めてくれている人と製作委員会を作ったとしても、製作委員会の人たちには、それぞれの個があり、事情があり、プロデューサーとしてのクリエイティビティがあるので、結果的に僕のクリエイティビティと半々になってしまいます。僕がやりたかったのはこれだけど、相手がやりたいのはこれ。そうなると、2分の1の確率で削ることになってしまう。その意味で、今回は個人で作ったからこそ、ここまで尖ったものが作れたんだと思います。異形もいいとこですからね。変えてほしいところのオンパレード間違いなしです(笑)。

──トニオの気持ち悪さを追求できたのも個人で作ったからですよね

そうた監督 万人受けするような可愛さにしても良かったんですけど、そこはやはり変なプライドがあるんですよ、クリエイターって。19才の頃って、自分は普通に受け入れられないちょっと変な物を創るぞって衝動に駆られる時期なんです。気持ち悪くないトニオには何の意味もありません。しばしば、トニオが気持ち悪いみたいな声を聞くんですけど、トニオって気持ち悪いんですよ(笑)。キモカワを狙っているわけではなく、単純に気持ち悪いものとして作ったキャラクターなので、不幸な目にあったとき、同情せずに笑うことができる。つまり、不幸をギャグとして成立させられるキャラなのですが、なかなか理解してもらえない。気持ち悪いトニオをそのまま出せたのは、一人で作ったことにおける最大のメリットだったかもしれません。あと、一人で作ってみて思ったのは「監督って何?」ってことですね。これまでさんざんアニメ監督の仕事をやらせてもらっていたのにも関わらず、すべてを自分でやってみたら本当にわからなくなって。今回、監督であり、プロデューサーということになっているんですけど、プロデューサーが作品を作ったのか、監督が作品をプロデュースしたのか?自分でもよくわからなくなっています(笑)。自分は普段監督の人が、新人プロデューサーをやってみたパターンですが、普段プロデューサーを破っている方が、手を動かして、指示を出して監督業をこなすパターンもあるでしょうし。

──自由にできるという意味では、ラップパートをご自身で歌っているのも斬新ですよね

そうた監督 ラップパートを入れたのも、“人生の集大成”だからです。2008年くらいに「GarageBand」にハマり、音楽を作っていた時期があって、2012年くらいからはまったく触らなくなったのですが、ミュージシャンとしての自分もここで出しておきたいなと。信じられる友達から自分の作った音楽を「いいじゃん!」と褒めて貰えたことがあったので、「やっちゃお!」と。これもまあ勢いです(笑)。