採用業務クラウド「採用係長」を提供するネットオンはこのほど、最低賃金引き上げ対応に関するアンケート調査を実施した。

同調査は2022年9月5日〜9月15日、「採用係長」の登録ユーザーである中小企業の人事・採用担当者を対象に、インターネット調査にて実施。有効回答数は258だった。

  • 最低賃金の改定に伴う賃上げの予定について、調査を実施

2022年10月1日に最低賃金の改定が行われる。引き上げ幅の全国平均は過去最大。最低賃金の引き上げは、多くの働く人々にとって朗報となる。

一方で、新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢に伴う原材料の高騰に加え、急速に進む円安によって、業績悪化に苦しむ中小企業は少なくない。先行き不透明な状況が続く中、中小企業は最低賃金の引き上げをどのように受け止めているのだろうか。

  • 42.2%の事業所が賃金を引き上げる「予定あり」

はじめに、最低賃金の改定に伴う賃上げ予定について質問した(n=258)。

改定によって「最低賃金を下回ったため、引き上げる予定」の事業所が24.4%。「下回っていないが、引き上げる予定」の事業所は17.8%。賃金を引き上げる予定の事業所は、全体の42.2%だった。

一方、「最低賃金を下回っていないため、引き上げる予定はない」と回答した事業所は、57.5%に上っている。全体では、引き上げる予定のない事業所が過半数を占める結果となった。

  • 引き上げ後の最低賃金額に「負担を感じる」事業所は68.2%

続いて、Q1で「賃金を引き上げる予定」と回答した事業所へ(n=109)、引き上げ後の最低賃金額に負担を感じるかどうかについて質問したところ、「負担に感じている」が68.2%に上った。内訳は、「非常に負担に感じている」が、40.9%。「多少負担に感じている」が27.3%となった。

  • 理由は「引き上げに対応」が最多。採用目的も40.0%に

賃金を引き上げる予定の事業所へ(n=109)、その理由を質問した。

理由としてもっとも多かったのは、「最低賃金の引き上げに対応するため」。引き上げを予定している事業所の65.5%が選択している。2位は「人材採用を有利に進められるため」、3位には「従業員の定着率向上(引き留め)のため」が続いた。人材確保に向けた積極的な賃上げを行った事業所も少なくないことがわかる。

一方、「業績が伸びた(回復した)ため」と回答した事業所はわずか2.7%。賃上げを実施する事業所の大多数が、業績に関わらず賃金を引き上げる予定であることが読み取れる。

引き上げ予定の事業所は、経営悪化や人材確保への影響を懸念

Q1の質問で「賃金を引き上げる予定」と回答した事業所へ(n=109)、引き上げに関する意見や感想を求めたところ、経営悪化や扶養内で働くパート従業員の労働時間減少を懸念する回答が多く集まった。ここでは45件の回答の中から、一部を抜粋して紹介している(可読性を高めるため、文言を調整済み)。

<自由回答・一部抜粋>※カッコ内は、業種/従業員数/所在地
■経営悪化への懸念
・人材採用にあたっては賃金引き上げは必要かもしれないが、経営圧迫につながる(家事サービス・クリーニング/100〜199名/神奈川県)
・最低賃金および仕入れ価格上昇のダブルパンチで非常につらい(飲食/50〜99名/兵庫県)

■扶養内で働くパート従業員への影響
・最低賃金の引き上げは致し方ないが、130万円の壁も変更を希望する(小売/10〜19名/静岡県)
・扶養の範囲内で働くパートさんは、勤務時間が減るだけで賃金は変わらない。雇用者側としても、仕事ができるパートさんが少ししか働けなくなるのは非常に困る(医療/10〜19名/神奈川県)

■労働と賃金のアンバランス
・正直に言えば、そこまで能力が到達していないのに支払うのは不満である(飲食/5〜9名/愛知県)
・1時間における労働と賃金のバランスが合わなくなってきた(飲食/5〜9名/埼玉県)

■前向きな賃上げ
・収入が増えることは、とても良いことだと思う(IT/50〜99名/千葉県)
・従業員に還元するのは当たり前である(その他/5〜9名/静岡県)

「一律の引き上げは良くない」「扶養制度の見直しが必要」などの意見も

Q1の質問で「賃金を引き上げる予定はない」と回答した事業所にも(n=149)、同じく引き上げに対する意見や感想を求めた。60件の回答の中から一部を抜粋して紹介する(可読性を高めるため、文言を調整済み)。

<自由回答・一部抜粋>※カッコ内は、業種/従業員数/所在地
■一律ではない引上げが必要
・賃金の引き上げは、業種業態を選定すべき(飲食/1〜4名/神奈川県)
・業種や規模に応じた、細かい差が必要だと思う(介護・福祉/5〜9名/宮崎県)

■このタイミングでは引き上げない
・元の賃金が低くないため、引き上げは今のところ無い。ただ、最低賃金の引き上げ自体は良いことだと思う(コールセンター/1〜4名/神奈川県)
・今年賃金を上げたばかりなので、10月に上げるつもりはない(その他専門・技術サービス/1〜4名/福岡県)

■扶養制度の課題も解消すべき
・学生の場合、扶養を外れないように勤務すると年間の勤務時間が減ってしまう。雇用する側からすると勤務可能時間の減少は厳しい(飲食/5〜9名/東京都)
・最低賃金の引き上げと同時に扶養の範囲か扶養制度自体の見直しをしたほうが良い(士業/1〜4名/山梨県)

■経営面で引き上げは厳しい
・コロナ対策ができない限り仕事が安定しないため、まだ無理だと思う(建築・不動産/1〜4名/愛媛県)
・中小企業は経済活動がまだ低迷している上、値上げの転嫁を十分にできていない(商社・卸売/5〜9名/岡山県)

今回の調査では、2022年10月1日から改定される最低賃金の引き上げに関するアンケート調査を実施した。その結果、42.2%の事業所が今回の改定に伴って賃上げを予定していることがわかった。また引き上げ後の最低賃金額を「負担に感じている」事業所は、賃上げ予定の事業所の68.2%に上っている。

そうした中でも、賃上げを予定している事業所の42.2%(全体の17.8%)は「最低賃金を下回っていないが、賃上げを予定している」と回答。採用や既存従業員の引き留めなど、人材確保のための対策として賃上げを実施する事業所も少なくないことがわかる。

また自由回答では、扶養内で働く従業員を多く雇用する事業所を中心に、年収の壁に関する意見が多くみられた。賃上げの影響によって、中小企業が人材確保における新たな課題に直面していることも明らかになっている。

2022年10月からは、社会保険加入の適用拡大が中小企業にも段階的に義務付けられるため、雇用に伴う負担や人材確保の課題はさらに大きくなるだろう。

同社では、経営コストが急激に上昇する中、生産性や価格転嫁力の向上など、中小企業に求められる事業変革の必要性は加速度的に高まっていくのではないか、と予測している。