スズキが新型軽自動車の「スペーシア ベース」(以下、ベース)というクルマを発売する。既存の軽乗用車「スペーシア」を基にした新車で、特徴は広い荷室とマルチボードを組み合わせた空間アレンジの多彩さ。分類上は商用車だが、仕事にも遊びにも使えそうな1台に仕上がっている。
肝は「マルチボード」の使い方
ベースが想定しているのは1~2人での利用がメインのユーザー。前席は軽乗用車の快適性・乗り心地としつつ、後席は商用車として割り切り、スペースを削ることによって荷室の広さを確保した。パッケージングで目指したのは「乗用車と商用車のいいとこどり」(ベース開発陣)だ。後席を折りたためば荷室はフルフラットに。こうして作った空間を「マルチボード」で仕切ることで、さまざまな使い方が可能となる。
商用車ではパーツを艶消しの黒で塗装することが多いが、「ベース」では随所にブラックパールの加飾を施し、商用車の記号性を残しつつもスタイリッシュな外観を狙った。後席はスライドドアで、右側は電動で開け閉めできる「パワースライドドア」だ(XFというグレードのみ)となっている
前席は軽乗用車レベルの快適性を確保。後席は商用車として割り切った設計だ。インテリアにはアクセントカラーとしてグレイッシュブルーを使っている。2名乗車時で荷室長1,205mm、荷室床面幅1,245mm、荷室高1,220mm
マルチボードがこのクルマの肝となるアイデアだ。はめ込む溝の位置により「上段」「中段」「下段」「前後分割」の4種類の使い方ができる。荷室を目いっぱい使いたいのならボードを外しておけばいい。空間の使い方はユーザーの発想次第だが、例えばこんな感じだ。
マルチボードを「上段」にはめ込んで後席をたためば、後席の背面に腰かけてボード上にPCなどを置き、車内でのリモートワークが可能に。この状態でテールゲートを開けば、車外にいる人も交えた打ち合わせにも使えそうだ。床からボードまでの高さは430mm
マルチボードを下段にセットしてフロントシートの背もたれを後ろに倒せば、クルマの前後をフルに使った長い空間が作れる。この状態でマットや寝具をうまく使えば、最大2人が寝られる車中泊スペースの完成だ。フロントシートを立てた状態でも、長い荷物を積んだりと何かと便利そう。ボードの高さは165mm
なぜこのクルマを作った?
スズキは小さなクルマの専門家として、ありとあらゆる軽自動車をラインアップしているメーカーなのに、そもそもなぜ、また新しいタイプのクルマを開発しようと思ったのか。スペーシアには「ギア」「カスタム」という派生モデルがあるし、商用車も「エブリイ」「エブリイワゴン」とそろっているにもかかわらずだ。
スズキによると、意外にも同社の軽ラインアップにはベースのようなクルマがなかったという。
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商用車には仕事寄りの「エブリイ」、遊び寄りの「エブリイワゴン」があり、乗用車の軽ハイトワゴンには日常づかい寄りの「スペーシア」、アウトドア・レジャー寄りの「スペーシア ギア」があったものの、遊び、仕事、日常を兼ね備えた1台はなかったとスズキ
ベースの使い方としては「リモートワーク」「車中泊」「キャンプ」「配送業」などが思い浮かぶ。いずれも、新型コロナウイルスの感染拡大によりニーズが高まったものばかりだ。
初めてベースのコンセプトを聞いたときは「スズキはタイムリーなクルマを作る会社だなー」と感心したのだが、聞けばベースの開発スタートは約3年前で、その頃にはコロナがここまで流行するとはだれにも想像がつかなかったそう。スズキとしては、新たなクルマの使い方を提案してみようとベースの開発を進めていたところ、時が経つにつれ、ベースが社会情勢にピタリとはまる1台になっていった、ということなのかもしれない。
ベースでは「純増年間1万台」を目指すとのこと。新規の需要が4,000台で、あとはスペーシアやエブリイなどから6,000台分のユーザーが移動してきたといったような形ではなく、ほかの車種の販売台数には影響を与えずに、ベースで年間1万台をプラスしたいという意味だ。少し野心的にも聞こえるが、時代に合ったクルマとして新たな需要を掘り起こせるかに注目だ。