メルセデス・ベンツの電気自動車(EV)第3弾は「EQB」というクルマだ。一見すると3列シート7人乗りのSUV「GLB」をそのまま電動化しただけのようだが、実際のところはどうなのか。EV化で手に入れた新たな魅力とは? 試乗して探ってきた。 」
GLBとの違いを探してみる
日本で買えるメルセデス・ベンツのクルマは多種多様だが、その中で「Aクラス」に続き2番目に売れているのが3列7人乗りのコンパクトSUV「GLB」だ。そんな人気モデルをほぼそのままフル電動化したのが、今回乗ったEVの「EQB」である。EVのサブブランドである「メルセデスEQ」ではミドルサイズSUV「EQC」、コンパクトSUV「EQA」に続いて3車種目の日本上陸となる。
GLBには以前、箱根でじっくり乗って好感触を得たのだが、EQBはベースモデルの良さをきちんと引き継いでいるのか。どんな新機能が追加となったのか。
EQBのボディサイズは全長4,685mm、全幅1,835mm、全高1,705mmというから、ベースモデルのGLBからは全長が35mmほど長くなっただけで、ほぼ同じ。エクステリアではブラックパネル化したフロントグリル、左右のフルLEDヘッドライトを水平の光ファイバーで結ぶデイタイムランニングライト、左右をつないだリアコンビネーションランプなどが変更点だ。左右のフロントフェンダーとリアゲート左下にはEQBバッジを装着。右側リアフェンダーに急速充電、バンパーに普通充電のポートを備えている。
インテリアのデザインも基本的にGLBを踏襲している。異なるのはエアアウトレット中央部の色(モーターに使用する銅線のコイルのようなローズゴールドカラーになっている。AMGラインはシルバー)だったり、2眼メーターの右側が回転型からパワーメーターに変わっていたりという程度。3列シートによる多彩なレイアウトはフルに使うことができるし、ISOFIX対応のチャイルドシートを2、3列目に最大4つ固定できる点などは相変わらず魅力的だ。
床下に容量66.5kWhのリチウムイオンバッテリーを敷き詰めたことでフロアの位置が少し高くなり、最後尾に座ることができるパッセンジャーの身長制限はGLBの168cmから165cmへとわずかに低くなっているのだが、実際に168cmの筆者が乗り込んでみると、GLBとの差は感じられない程度のものだった。
「GLB」もよく走るクルマだったが…
EQBには「250」と「350 4MATIC」の2種類があり、どちらにも試乗できた。
250の足回りは18インチのブリヂストン「トランザT005」とコンフォートサスペンションの組み合わせで、どこを走っても静かで快適。0-100km/h加速は9秒ほどというから、実用領域でのダッシュ力も十分だ。気になる点を挙げるとすれば、スロットルを深めに踏み込んでコーナーを曲がるような(例えば台場からレインボーブリッジへのアクセス部分など)場面で、ステアリングを握る手にわずかにトルクステアが感じられるところくらいか。
もう1台の350 4MATICはAMGライン仕様で、タイヤは20インチのピレリ「P ゼロ」を装着。高価なアジャスタブルダンピングシステム付きスポーツサスペンションとの組み合わせだ。
250と比べると、同じ部分を通過する際でも、リア駆動を重視した4WDシステムによって後ろがぐっと踏ん張るような安定感が抜群。力強さと乗り心地の良さが高いレベルで同居した、見事な走りを見せてくれる。0-100km/h加速は6秒台というから、その速さはちょっとしたスポーツカー並み。個人的には250で十分に満足できると感じたのだが、おサイフに余裕があるのであれば、当然のことながら4MATICを選ぶ価値はある。
250はフロントアクスルに新設計のEM0026型永久磁石同期式モーターを搭載している。内部の交流モーターのローターに取り付けられた複数の永久磁石が、巻線内の回転磁場に追従することでローターが回転するという仕組みで、これまでの非同期式モーターに比べて出力密度や効率、出力定常性が高いというメリットがあるという。EQBのEM0026は最高出力140kW(190PS)、最大トルク385Nmで、電費(交流電力消費率WLTCモード)は147Wh/Km、1充電の走行距離は520km。非同期式を搭載したEQAはそれぞれ190PS/370Nm、電費180Wh/km、航続距離422kmとなっている。
一方で、350 4MATICはフロントにEQAと同じ非同期の交流誘導モーターであるEM0021型(194PS/370Nm)を積んでおり、リアアクスルにだけ新型の同期式EM002型(98PS/150Nm)を搭載している。動力性能はシステムトータルで215kW(292PS)/520Nmと強力。電費は163Wh/km、1充電の走行距離は468kmを実現していているが、リアモーターも非同期式のものを使ってしまうと、ここまでは伸びなかったはずだ。
ボンネットを開けるとこれらシステムが覗けるのだが、それぞれのパーツには「メイド・イン・ジャーマニー」だけでなく「ハンガリー」「スロバキア」「ルーマニア」「チュニジア」など各国製のタグが。見ているだけで面白かった。
操作性と機能で電動車らしさを追求
走行特性については、コンソールのダイナミックセレクトレバーで「ECO」「コンフォート」「スポーツ」「インディビジュアル」が選択できる。回生による減速の効き具合は、パドルシフトを使用することで「D+」(回生レベル弱)、「D」(デフォルト)、「D-」(回生レベル強、完全停止にはペダル操作が必要)が選べるほか、どちらかのシフトを長引きすれば「D Auto」の状態になる。これを選べば、車載レーダーが先行車両との車間距離や走行状況を検知し、適切な回生レベルを自動調整してくれるのだが、これは誠に便利な設定だ。さらに「アダプティブディスタンスアシスト・ディストロニック」と「アクティブステアリングアシスト」を組み合わせたインテリジェントドライブを併用すれば、EVらしい効率と安全を兼ね備えた半自動運転が可能になる。首都高上でこれを試してみると、既存のICEのACCよりもちょっとだけ未来的な感じがして、なかなかにいいのだ。
エネルギーフローやバッテリー消費率、細かい設定が行える充電オプションなど、EQ専用の情報と設定が充実しているのも特徴だ。スマホで出発時間と室内温度を指定すれば調整しておいてくれる「プリエントリークライメートコントロール」と、地図上の位置を3平方メートル単位で指定できる「What3words」に対応したナビゲーション拡張機能は実際に試すことができた。
What3wordsは初めて使ったのだが、なかなか面白いシステムだ。例えば、今回の試乗で向かった潮風公園(潮風公園)駐車場の入り口を検索すると、「かしだし。」「だんす。」「いかが」という3つの単語がランダムに生成された。これをナビに入力すれば、行き先をピンポイントで指定できる。音声でも入力できるそうだ。
EVの3列シート7人乗りは選択肢が少ないし、EQBに似たクルマは皆無といっていい。例えばテスラ「モデルX」は全長5,037mm超、出力400PS台~500PS半ばの大型ハイパワーモデルだし、欧州で販売が始まったばかりの「EQS SUV」も全長5,125mmという別格のフルサイズSUVだ。コンパクトであり、価格も788万円~870万円と手に入れやすいEQBは、今のところライバル不在のモデルといえる。