――毎回さまざまなゲストの方が登場されるのも『遺留捜査』の見どころです。ゲストの方からは、上川さんが優しく迎え入れてくれて安心して現場に入れたという声がよくありますが、座長として現場作りで心がけていることがあれば教えてください。

面映ゆいですが、『遺留捜査』は誰かの思いを汲むために綴られた物語で、ゲストにいらっしゃる方はそうした「思い」を抱えていたり受け取ったりする為に個々のキャラクターを演じて下さいます。そんな方々がこの作品から上がられるときに、何がしかのしこりを残していくのは僕としても不本意。ゲストの方にも楽しんでいただければ何よりだと思っています。

――糸村を演じる楽しさを教えてください。

他のキャラクターにはない独自のアイデンティティや、彼自身が持ち携えているどこか不思議な雰囲気やつかみどころのない唯一無二の挙動などでしょうか。僕のキャリアの中でも、最も長く演じている役でもありますので、その愛着も含めて他にはない愛おしさがあります。

――『遺留捜査』という作品は上川さんにとってどんな存在ですか。

誰しも季節ごとに衣替えをしてそのときどきの服装に着替えると思うのですが、『遺留捜査』は、この季節に必ずこれを着ていたいと感じる1着のような存在です。心地よく身に着けた装いが、役としての思考・行動も導いてくれる……そんなふうにすら思えるのがこの作品です。

――上川さんといえばお使いになっている言葉がとても美しく、記事でもその一端がお伝えできればと思っているのですが、その語彙力は読書経験に由来しているのでしょうか。

胸を張れるほど物を読んでいる実感はないので、なかなか説明が難しいところです。高尚な何かを嗜んできた覚えもありません。“物語”が何より好きで、それはアニメーションでも小説でも漫画でも変わらない。「雑食だった」という言葉が適切かもしれません。

――“物語”の魅力とは。

端的に申し上げるならば、日常からの逸脱、非日常を享受できるところに楽しさを感じています。『遺留捜査』のように現実に根ざして描かれている物語だとしても、時代やシチュエーションを現実と異にする物語だとしても、魂を彷徨わせるような面白さや愉悦は全く変わらない。物語が好きだから、演じることにも飽きずに携わっていられるんだと思います。

――前シリーズの番宣では声優さんを特集する番組に出演されていて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を初日に鑑賞されたというお話が印象的でしたが、長い“物語”が完結して、どんな心境でしたか。

『新世紀エヴァンゲリオン』がスタートした1995年は僕がテレビなどに活動を広げさせていただいた時期でした。また、お仕事を続ける中で幸いにも作品に携わっている方々、林原めぐみさんや山寺宏一さんと知己を得ることができたんです。エヴァンゲリオンは、時の隔たりやめぐり合わせ、自分の環境の変化も含めて、受け取り方を時々に変えていった作品でもありましたから、そうした中で迎えた最後のエヴァンゲリオンは、胸に去来するものがありました。

――それでは最後に『遺留捜査』を楽しみにしている視聴者の皆さまへメッセージをお願いします。

おかげさまで11年目、シーズン7を迎え、また木曜ミステリー最後の作品という栄に賜ることができました。糸村と特対の面々が事件にどう向かっていくのか、変わらぬ『遺留捜査』を見守っていただきたいです。

■上川隆也
1965年生まれ、東京都出身。1995年にNHK70周年記念日中共同制作ドラマ『大地の子』で主役の「陸一心」役に抜てき。その後も、NHK大河ドラマ『功名が辻』、『エンジェル・ハート』(日本テレビ) 、『執事 西園寺の名推理』シリーズ(テレビ東京)、『ノーサイド・ゲーム』(TBS)などに出演。近年の出演作にドラマ『一億円のさようなら』(NHK)、『夜がどれほど暗くても』(WOWOW)、『正体』(WOWOW)など。

7月29日より、NODA・MAP『Q』:A Night At The Kabukiに出演。日本国内は東京・大阪、海外ではロンドン(イギリス)・台北(台湾)の上演を予定している。