電力、ガス、通信等インフラ企業8社が茨城県内において協定を結び、5月26日より「茨城インフラマッチングプロジェクト」をスタート。エリアごとの協議体を作り、相互の業務効率化、災害対応力の向上、地域課題解決の推進に取り組む。

  • 「茨城インフラマッチングプロジェクト」締結式

茨城県のインフラ企業8社10組織が結んだ連携協定

インフラ事業者を取り巻く環境はいま大きく変化している。国際課題、国内課題、事業者の課題が複雑に絡み合い、各社が個別に問題を解決していくことが困難になってきているのが現状だ。各企業も連携に向けた取り組みを進めていたものの、さまざまな利害関係がある中での折衝は簡単ではない。

こういった状況を憂慮した茨城県内のインフラ企業は、インフラ事業の効率化および地域課題解決の取り組みに関する基本協定、通称「茨城インフラマッチングプロジェクト」の実現を水面下で模索。そして5月26日、ついに締結式が行われる運びとなった。

  • 8社の企業ロゴが並ぶ様子はまさに壮観

茨城インフラマッチングプロジェクトに参画したインフラ企業は、全8社10組織。「東京電力パワーグリッド 茨城総支社/土浦支社」「研究学園都市コミュニティケーブルサービス」「JWAY」「土浦ケーブルテレビ」「東京ガスネットワーク 茨城支社」「東部ガス 茨城支社/茨城南支社」「東日本ガス」「NTT東日本 茨城支店」となり、事務局はNTT東日本に置かれる。

協定の目的を、事務局は次のように説明している。

(1)社会基盤としての大きな役割を担う電力、ガス、通信等の持続的で安定的な供給を達成するため、各当事者がそれぞれの事業の強みを活かしながら、共通する業務分野においてデジタルトランスフォーメーションの推進による業務効率化を実現すること
(2)情報連携強化等による地域の安心安全・災害対応力を向上すること
(3)未来志向の連携により、各社の保有するアセット活用等を通じ、茨城県域の課題解決や持続的な発展に寄与する具体的な価値を地域社会に還元すること

具体的な取り組みは、各社のサービス提供エリアに合わせて設けられた「県北協議体」「県央協議体」「県南協議体」という3つの協議体を介して行われる。定例会の中で、課題やノウハウの共有といった提示案件の優先順位付けが行われ、課題ごとの具体的な解決策について検討が進められる予定だ。

旗振り役を務めたNTT東日本 茨城支店長の長野公秀氏は、本プロジェクトへの期待を次のように述べる。

「NTT東日本は電話の会社という印象が強いと思いますが、最近はICTで『地域のお困りごと』を解決する会社に生まれ変わろうとしています。一昨年から東京電力パワーグリッドさんと協議を行い、インフラ会社はいろんなところで同じように悩みながら解決していることが分かりました。ならば、同じインフラ会社同士でいいとこ取りをしていこうと。激動の時代を迎える中、茨城県は広い平野に人が万遍なく散らばって住んでいるため、インフラ設備の投資対効果が低い状況です。中期的な視点でいかに効率的に仕事をしていくべきかを考え集いました。8社10組織で共有しながら取り組んでいきたいと考えています」(NTT東日本 長野氏)

  • NTT東日本-南関東 茨城支店 支店長 長野公秀 氏

短くとも険しかった基本協定実現の道のり

8社10組織による連携協定は全国的に見ても初の取り組みといえる。プロジェクト実現までにどのような道のりがあったのだろうか。NTT東日本 茨城支店の佐々木理氏、藤代武氏に伺ってみたい。

「最大のきっかけは、3年前に関東を襲った台風15号・19号ですね。千葉県の被害がグローズアップされましたが、ここ茨城県でも大きな影響がありました。我々も現地に行ってようやく被害状況が分かったり、その点検を各社がそれぞれに行っていたり……とてもリソースが足りなくて、復旧が追いつかない状況でした。これは他社さんも同様だったようで、インフラ企業それぞれが連携強化の必要性について考え始めたと思います」(NTT東日本 佐々木氏)

  • NTT東日本-南関東 茨城支店 設備部長 兼 渉外部長 DXアドバイザー 佐々木 理 氏

佐々木氏自身は2年前に茨城支店に着任し、これまでも各社とビジネスライクなやりとりを行ってきたそうだ。そんな日々の中で「一緒に何かやりませんか?」と持ちかけると、意外なほどに反応が良かったという。実際、NTT東日本と東京電力パワーグリッドは年4回、定期的に協議会を行う関係にまで発展した。

「これまでの取り組みはあくまで紳士協定的なつながりです。連携を今後も継続していくためには、会社対会社でしっかりと守秘義務も含めて協定を締結したほうが良いと感じていました。であれば『同じように悩みを抱えるインフラ企業さんを巻き込んでみたらどうだろう?』と各社に声をかけ始めたのが、今年の3月ごろの話ですね」(NTT東日本 佐々木氏)

もともとはエリアごとに徐々に締結を広める予定だった本プロジェクトだが、茨城支店長の長野氏による「時間をかけていいから、全部を目指せ」という号令のもと、佐々木氏と藤代氏は茨城中を駆け巡ることに。約半分の企業とは以前からやりとりがあったそうだが、残る半分はわずか2ケ月ほどで賛同を得たことになる。

「茨城全体を包括した協定を目指す方針から、各社の合意が必要となり、とにかく段取りとスケジュールを押さえるのが大変でした。主旨の合意後、協定書の内容を固めなければいけませんが、これもまた一苦労。それぞれの確認と修正要望の反映に時間がかかり、本当にギリギリのタイミングでなんとか取りまとめられた形です」(NTT東日本 佐々木氏)

  • NTT東日本-南関東 茨城支店 設備部 エリアコーディネート担当 担当課長 藤代 武 氏

今回はあくまで基本協定であり、締結の日付が先に決まっていたため比較的スムーズに話が進んだそうだが、個別協定ではさらに合意を得るプロセスが複雑化するだろう。各社とも本社組織があり、そちらにも確認を取らなければならないからだ。

それでも佐々木氏は、「インフラ事業ゆえに、地域の役に立ちたいという共通の思いがあります。連携した方が効率的だという認識もあるでしょう。間違いなく世の中のためになる取り組み。絶対にやりきりたいです」と意気込みを見せた。

現場の実務者が交流することでアイデアが生まれる

プロジェクトによる具体的な取り組みが決定されるのはこれからとなるが、他の地域での連携協定を踏まえ、現段階で幾つかの解決策が提案されている。

代表的な例が、事業者間の情報連携だ。例えば電柱の倒壊や電線の切断といった不安全設備への対応、地中のガス管や通信ケーブルなどの設備移設の際、これまではインフラ企業各社の連絡先を調べ、それぞれに対して電話やメールで個別に連絡を取る必要があった。

これを一元管理するシステムを構築し、不安全設備の情報や設備移設依頼を一度で行えるようすることで、地域の顧客と各インフラ事業者それぞれがWin-Winになる仕組みを目指している。実現の暁には、平時のみならず災害時の復旧も迅速に行えるようになるそうだ。

さらに、レーザースキャナとカメラを搭載した車両を用いた点検業務の高度化・効率化も進めている。

  • MMS(Mobile Mapping System)概要説明資料 提供:NTT東日本

「ここ2年くらい東京電力パワーグリッドさんと定例会を行っていますが、我々のような管理者だけでなく、現地で作業している実務者同士でも話をしてもらっているんですね。その様子を見ていると、現場の生の困りごとを互いに共有し合うことで、解決のアイデアがすごく生まれてきているな、と感じています。今後は、8社10組織の実務者を巻き込むような仕掛けをうまく作りながら、地域の皆さまに貢献していきたいと思います」(NTT東日本 佐々木氏)