千日手打開を的確にとがめる
藤井聡太竜王への挑戦権を争う第35期竜王戦(主催:読売新聞社)の決勝トーナメント1回戦、佐々木大地七段―伊藤匠五段戦が6月28日(火)に行われました。結果は132手で伊藤五段が勝利し、2回戦へ進出しました。
5組優勝の佐々木七段と6組優勝の伊藤五段は、ともに今期が初の決勝トーナメント参加です。頂点で藤井竜王が待ち受ける竜王戦ドリームは長い道のりですが、その第一歩を踏み出しました。
本局は佐々木七段の先手で相掛かりに。序盤で交換した角をさらに自陣に打ち合って、両者が戦機を計ります。戦いの舞台となったのは6、7筋でした。この時点ではまだまだ互角の範囲ですが、先手玉の玉頭で戦いになっているぶん、先手のほうがより気を使う展開と言えそうです。
中盤の進行で、佐々木七段が先に銀を捨てて、その代償に飛車銀両取りの角を打ちました。71手目▲7二角の局面です。飛車を逃げる△8五飛に▲5四角成と銀を取り返しましたが、対してすかさず△8六歩と金取りに打つくさびが急所に入り、ますます先手玉は危険な格好となりました。
しかしこれでもAIの判断はまだ互角の域を出ていません。実際、両対局者もまだまだ激戦と見ていました。
引き続き6、7筋を舞台に長い戦いが続きます。先手は、後手の飛車をいじめることで相手の攻めを緩和できるかが焦点の局面になりました。8三の後手の飛車を追って▲7二馬と入った手がどうだったか。代えて▲7四馬なら△8一飛▲6三馬△8三飛▲7四馬……という順で千日手になる可能性がありました。先手番での千日手は不満と見た佐々木七段が打開に出たわけですが、▲7二馬から飛車を捕まえに行こうとした順がうまくいかず、飛車に逃げられてしまいます。その間に△4六銀~△5七銀不成と玉頭に迫られた先手玉が寄せられてしまいました。「千日手しかなかったですね」と感想戦の最後で佐々木七段はつぶやいています。
伊藤五段は2回戦進出。次戦の相手は4組優勝の大橋貴洸六段です。その勝者の以降の相手が稲葉陽八段、山崎隆之八段、永瀬拓矢王座、と4~6組の優勝者にとってはどこまで行っても「1組の壁」が立ちはだかります。今期の竜王戦では若手が分厚い壁を打ち崩すのか。1組のメンバーが貫録を見せるのか。注目です。
相崎修司(将棋情報局)