往年の名車・アルピーヌ「A110 ベルリネッタ」の跡を継ぐ現代版「A110」がマイナーチェンジを実施した。新設定のグレード「GT」と「S」は300馬力にパワーアップした改良型エンジンを搭載。2台を箱根ターンパイクでじっくり乗り比べて違いを探った。

  • アルピーヌの新型「A110」

    アルピーヌの新型「A110」を乗り比べた(本稿の写真は撮影:原アキラ)

ラリーやレーシングシーンで活躍した往年の名車・アルピーヌ「A110 ベルリネッタ」が現代に蘇ったら……。そんな思いから開発が進められ、2017年のジュネーブモーターショーでワールドプレミアされたのが新型アルピーヌ「A110」だ。デビュー記念の「プルミエールエディション」は、日本での販売枠50台に対して1,000件以上の申し込みがあったほどの注目モデルとなった。その後のカタログモデルとしては、ライトウェイトバージョンの「ピュア」と豪華バージョン「リネージ」の2グレード展開に。2019年11月には、292PSのハイパワーエンジン搭載(ノーマルは252PS)のスポーツバージョン「S」が加わっていた。

2022年1月には初のビッグマイナーチェンジを敢行。ラインアップは「A110」「A110 GT」「A110 S」の3グレードになった。最大の特徴は、GTとSのリアミッドに搭載する1.8L直列4気筒DOHC16バルブターボユニットの動力性能が300PS/340Nm(従来モデルは252PS/320Nm)にパワーアップしている点だ。

デザイン面の変更は一切なし。デザイナーのアントニー・ヴィランはA110のデビュー時点で「マイナーチェンジでのデザイン変更は必要ありません。時間性、時代性を感じさせないデザインであること、それこそが目標で、今後も同じA110を継続していくことがマーケティングやエンジニア、そして工場との共通認識ですから」と語っていて、それを証明したことになる。

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    デザインは変更なし

今回は「GT」と「S」を乗り比べることができたので、何が同じで何が違うのかを探ってきた。

違うけど似てる? GTとSの関係性

最初に乗ったのは、「ブラン グラシエ」(ホワイト)のボディにブラックのSabelt製レザースポーツシートを組み合わせた「GT」のほう。全長4,205mm、全幅1,800mm、全高1,250mm、ホイールベース2,420mmの低くコンパクトなボディは標準のアルピーヌシャシーを採用しているので、スプリングレートがフロント30N/mm、リア60N/mm(ちなみに1N/mmは、約0.1kgの重りによって1mm伸びる力)、アンチロールバーの剛性はフロントが17N/mm、中空構造のリアは10N/mmとなっている。

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  • 新型「A110」は3グレード展開。価格は「A110」が811万円、「A110 GT」が893万円、「A110 S」が897万円。写真は「ブラン グラシエ」のGT

ドライバーの背後に搭載する1.8L直4直噴DOHC16バルブターボは、ブーストのアップとギアボックスの強化によって最高出力300PS/6,300rpm、最大トルク340Nm/2,400rpmを発生。標準の252PSユニットよりわずかに高回転型になっている。

7速DCTによる0-100km/h加速4.2秒、最高速度250km/hの高性能を受け止めるストッピングパワーはブレンボ社製。フロントはアルミ製ハブを使用した320mmのバイマテリアルベンチレーテッドディスクにアルミモノブロックキャリパー、リアは鋳鉄製ベンチレーテッドディスクにアルミシングルピストンキャリパーを組み合わせる。タイヤはフロント205/40R18、リアが235/40R18のミシュラン「パイロットスポーツ4」で、1,130kgの軽量ボディーをコントロールする。

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  • ブルーのアルミモノブロックキャリパーが白のボディに映える

乗り心地は、さすがはフレンチスポーツモデルといった感じ。少し荒れた路面でも、ボディや乗員にゴツゴツしたところを伝えることはない。コーナーでも、ある程度のロールを許しつつ、というしなやかさがしっかりとキープされている。強めの段差を通過しても、ダンパー内にセカンダリーダンパーを配してバンプラバー代わりにした自慢の「ハイドロリックコンプレッションストップ」がショックを上手に吸収するので問題なし。

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    ウェット路面を「GT」で走行。しなやかな乗り心地がフレンチスポーツの神髄だ

ノーマルモードで走ればエンジンサウンドはあまり気にならないので、FOCAL製軽量4スピーカー+軽量サブウーファーのオーディオを楽しみながら、GTの名の通りのグランドツーリングが楽しめそう。ただ、燃料タンクが43Lしかない点(GTとしての航続距離的な意味)と、前後トランクリッドの積載量が限られる点は、わずかなマイナスポイントだ。ステアリングのモードボタンを押すことで、軽快なコーナリングやアクセルオフでのアフターファイヤ音を聞きながらのスポーツドライビングが可能になることが対価であると考えれば、我慢できる部分でもあるのだが。

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    前後トランクの容量はそれなり

モアパワーの要求に対応して300PSに?

もう1台の「S」グレードに乗り換えるころには、くだんのワインディングの走行ラインがドライになってきたので、ちょっと頑張れる環境に。エンジンとブレーキのシステムはGTと同じ(アルミキャリパーのカラーはオレンジに)ながら、Sのシャシーは専用のスポールタイプとなり、スプリングレートはフロント47N/mm、リア90N/mmと約1.5倍に強化されていて、例のツインダンパーもそれに応じたチューニングがなされているという。アンチロールバーの剛性もフロント25N/mm、リア15N/mmと1.5倍に強化してあるほか、最低地上高が4mm低くなっている(日本での届出値はA110と同じ1,250mm)。

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  • 試乗した「S」グレードのボディカラーは「オランジュ フーM」(オレンジ)

さらにGTとの相違点を並べると、ミシュラン「パイロットスポーツ4」のタイヤサイズはフロント215/40R18、リア245/40R18へとワンサイズアップしていて、ホイールも0.5JずつワイドなGT-RACEタイプに。Bピラーに取り付けられたトリコロールバッジはオレンジとカーボンカラーに変わっている。フロントの「ALPINE」、リアの「ALPINE A 110 S」のロゴは精悍なブラック仕上げだ。

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  • 随所に精悍なブラックを使用

軽量化という面では、光沢仕上げのブラックカーボンルーフやSabelt社製の軽量モノコックバケットシート(1脚わずか13.1kg)を採用することで、車重は10kgの減量を果たしている。パワーウェイトレシオは3.7kg/PSを実現。0-100km/h加速はGTと変わらない4.2秒だけれども、最高速度は10km/hアップの260km/hとなっている。

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  • 超軽量のバケットシートを装着

乗り込む際にはちょっとトリッキーな姿勢を強いてくる大きなサイドサポート部を持ったSabeltのバケットシートは、表皮にマイクロファイバー素材のDinamicaを使用していて、腰を下ろしてしまえば脇下や腰回りがピタリと収まって誠に具合がいい。こちらのシート調整は前後方向のみで、背もたれの角度は工具の使用が必要になる半固定式だ。ドライバー眼前にセットされたステアリングはことさらに小径ではなく、握りも太からず細からずといった塩梅。トップにはセンターを示すオレンジマークがあり、足元のアルミ製ペダル類は大きさも強度も位置も理想的だ。ちなみにSは、助手席にも巨大なフットレストを装備しているので、そこにもちょっとそそられる。

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  • 助手席にも巨大なフットレストが

足回りの各部分を強化したSグレードということで身構えつつ走り始めたのだが、パフォーマンスを追求したモデルにもかかわらず乗り心地の良さがきちんとキープされているのには驚いた。ノーマルモードで走れば十分に日常ユースがこなせるレベルで、ステアリングのモードボタンを一度押した「スポーツ」モード、長押しした「トラック」モードでもけっして「ドシン、バタン」という動きにはならない。

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  • 高性能バージョンでも乗り心地はキープ。「トラック」モードを選択しても全くばたつかない

サスペンションはちゃんとストロークしてボディの揺れを収め、コーナーではしっかりとロールする。前後ダブルウィッシュボーンサスによって絶えず路面に平行に押し付けられるミシュランがしっかりと粘り続けるので、4,000~5,000rpm前後で2~3~4速を多用するようなコースでは、ただただ楽しいのだ。

44:56という理想の前後重量配分がセットされているとはいえ、ハイペース走行を続けるためには、GTよりもさらにコーナー手前できちんとブレーキングしてフロント過重にすることに注力したり、エイペックスを過ぎてからのアクセルを踏み込むタイミングや量をドライバーがコントロールしたりするスキルがある程度は求められるのも事実だが、アルピーヌの名の通り、背中に4気筒ターボの咆哮を聞きながら欧州の壮大な峠道(特に初代A110が活躍したラリーモンテカルロの舞台・チュリニ峠!)を走り抜けるのは、ドライビングプレジャーの極みになるであろうことは容易に想像がつく。252PSから300PSにパワーアップしたのも、そうしたドライバーから「モアパワー!!」のサジェスチョンがあったからかもしれない。

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