「漸く」を「しばらく」と読んでしまっていませんか? 読み方を間違えるとそのまま意味も間違えて覚えてしまうため、まずは正しい読み方を確認することが重要です。
本稿では「漸く」の正しい読み方と意味について、語源も紹介しながら解説します。基本的な使い方と例文、類語・対義語・英語表現についても紹介します。最後に「漸く」のような「送り仮名付きの難読字」の読み方も紹介していますので、併せて確認してみてください。
「漸く」の読み方と意味とは
「漸く」とは、「ようやく」と読み、もともとは「次第に」「徐々に」「だんだん」という意味を持ちます。この意味から転じて「これまで実現しなかったことがやっと実現した」「かろうじて実現した」などの意味も持つようになりました。ビジネスシーンでは、後者の意味がよく用いられます。
なお、「やっと」を漢字で表現すると、同じ漢字で「漸と」となります。「やっと」も「これまで実現しなかったことが実現した」「かろうじて実現した」という意味を持つ言葉です。
漸くの語源・由来 - 「さんずい(氵)+斬」で「水流を斬り少しずつ導く」から
「漸く」の「漸」は、「さんずい(氵)+斬」から構成される漢字です。「斬」とは刀で斬る意味を持ち、さんずいと合わせると「水流を斬って少しずつ導く」という意味になります。この意味から「少しずつ」のニュアンスが残り、「次第に」「徐々に」という意味に変化しました。
「漸く(ようやく)」と間違えやすい「暫く(しばらく)」「 悉く(ことごとく)」
「漸く」と間違えやすい漢字としては「暫く」や「悉く」があります。これらの漢字は読みづらいため平仮名で表記されることが多く、漢字で出てくると意味がわかりにくい漢字です。
「暫く」の読み方は「しばらく」であり、意味は「少しの間」です。「暫くお待ちください」「暫くお時間をいただきたく」といった使い方で、特に敬語の意味は含みません。
「悉く」の読み方は「ことごとく」であり、意味は「残らずすべて」です。「対応策は悉く失敗した」と書くと「対応策は残らずすべて失敗した」という意味になります。
これらは漢字で見ると混同しやすいですが、読めれば意味がすぐ理解できるため、読み方を覚えるようにしましょう。
「漸く」の基本的な使い方3パターン
「漸く」の意味が理解できたら、基本的な使い方も確認しましょう。「漸く」が使われる主な場面別に、3パターンの使い方を紹介します。
パターン1. 苦労してやっと達成した際に使う
よくみられる「漸く」の利用シーンは、「苦労してやっと達成した」という達成感を表現する場合です。「足かけ2年の歳月を要しましたが、本プロジェクトは漸く明日完了します」「3回目の受験で漸くこの資格試験に合格しました」といった使い方をします。
パターン2. 少しずつゆっくり進行する様子を表現する際に使う
少しずつゆっくり進行する様子を表現する際にも「漸く」が使えます。「漸くここまでたどり着きましたが、ゴールまでは後もう少しかかります」「漸く猛暑が落ち着いてきたようだ」などと使います。
パターン3. ギリギリやかろうじてという意味で使う
「漸く」は、ギリギリやかろうじてという意味でも使用可能です。「合格ライン70点のところ、71点で漸く合格できた」「納期に漸く間に合った」などが使い方の一例です。
「漸く」を使ったビジネスシーンでの例文
「漸く」の基本的な使い方について確認したら、実際の使い方をみてみましょう。ここでは、具体的なビジネスシーンにおける「漸く」の例文を3例用意しましたのでご一読ください。
苦労したプロジェクト完了を報告する例文
苦労したプロジェクトがやっと完了したことを報告する例文です。プロジェクト完成を報告する一文で「漸く」を使っています。
A製品開発案件 関係者各位
いつもお世話になっております。
開発部1Gの村田です。
本日12/10をもちまして、漸くA製品開発案件が無事完了を迎えました。
これも、ひとえに皆様のお力添えいただいたおかげです。
この場をもちましてお礼を申し上げます。
なお、次のB製品開発も来週より開始予定です。
皆様方にはまたご助力を仰ぐこともございますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
システムが少しずつ安定してきたことを報告する例文
「漸く」を「少しずつ」「徐々に」という意味で使っている例文です。開発しているシステムが少しずつ安定してきたことを報告する一文で「漸く」を使っています。
開発部1G 村田課長
お疲れ様です。
開発部1Gの後藤です。
A業務システムの結合テストは来週終了予定ですが、漸く不良摘出件数が落ち着き、品質が安定してきました。
くわしい内容については、添付の結合テスト品質評価報告書をご覧ください。
そろそろ性能テストの環境構築についても相談したく、お手数をおかけしますがその節はよろしくお願いいたします。
ギリギリ資格試験に合格したことを上司に報告する例文
「ギリギリ」「なんとか」といったニュアンスを含む「徐々に」の例文です。何度か挑戦していた資格試験にギリギリ合格したことを報告する一文で「漸く」を使っています。
営業部公共G 時任課長
お疲れ様です。
金森です。
営業士検定上級の試験について、漸く合格したことをご報告します。
3度も受験する形となり、時間がかかってしまったことをお詫び申し上げます。
今後は、続けて営業士検定マスターの資格取得を目指す所存です。
「漸く」の類語・対義語・英語表現
「漸く」には、類語や対義語があります。また、英文メールで「漸く」を使いたい場合もあるでしょう。これらの表現について、まとめて解説します。
「漸く」の類語・言い換え表現
「漸く」の類語や言い換えの表現は、意味合いごとに異なります。「やっと達成した」という場合は「やっと・ついに・とうとう」などの言葉で言い換え可能です。
「漸く」が「少しずつ」という意味を示す場合は、「徐々に・次第に」などが使えます。「漸く」を「ギリギリ」という意味で使う場合は「なんとか・どうにか」という言葉に置き換えるといいでしょう。
「漸く」の対義語
簡単に物事を達成したという意味で「やすやすと・難なく・たやすく」といった単語は、「漸く」の対義語となります。「漸く」を「少しずつ」という意味で使う場合は、「一気に・急に」などが対義語として適した表現です。
「漸く」を「ギリギリ」の意味で使う場合は、「余裕でクリアできた」という意味の単語を使うと対義語として使えます。「余裕で・大差で」など、文脈によって表現を検討しましょう。「漸く合格(ギリギリ合格)」なら、「余裕で合格」が反対の意味になります。
「漸く」の英語表現
「漸く」の英語表現は、意味によって異なります。それぞれの意味に対応する英語表現は以下の通りです。
・やっと:finally、at last、eventually、in the endなど
・次第に:gradually、little by littleなど
・なんとか:barely、manage toなど
これらの表現を使った例文も紹介します。
・やっと:I finally achieved my goal. (漸く目標を達成した)
・次第に:The sun goes down gradually. (漸く日が暮れていく。)
・なんとか:I managed to pass the exam. (漸く試験に合格した。)
「漸く」以外にもこんなに! 読めそうで読めない漢字20選
「漸く」のように、送り仮名があるのに読めそうで読めない漢字は少なくありません。難読漢字は平仮名で書かれるようになってきていますが、念のため読み方を確認しましょう。読めそうで読めない送り仮名付きの難読漢字とその読み方をまとめました。
No | 漢字 | 読み方 | 意味 |
---|---|---|---|
1 | 強ち | あながち | 断定しきれない気持ち、強い否定 |
2 | 労る | いたわる | 気を配り親切にする、苦労をねぎらう、養生する |
3 | 厭う | いとう | 嫌がる、かばう・いたわる、出家 |
4 | 疎い | うとい | 疎遠、関心がない、親しみが持てない |
5 | 概ね | おおむね | だいたい、おおよそ |
6 | 凡そ | およそ | だいたい、おおむね |
7 | 顧みる | かえりみる | 過去を振り返る、気にかける |
8 | 省みる | かえりみる | 反省して振り返る |
9 | 鑑みる | かんがみる | 他の事例や手本にと照らし合わせ検討する、参考にする |
10 | 暫く | しばらく | 少しの間 |
11 | 則ち | すなわち | 言い換えれば、つまり |
12 | 即ち | すなわち | 11の「則ち」と同じ |
13 | 忽ち | たちまち | すぐ、即刻、にわかに、急に |
14 | 乍ら | ながら | 2つの動作・状態が並行して行われる、~にもかかわらず、~ではあるが、~のまま |
15 | 甚だ | はなはだ | 非常に、たいへん |
16 | 捗る | はかどる | 順調に進む |
17 | 殆ど | ほとんど | 全体のうちの大多数、全体のうちの一部しか欠けていない状態 |
18 | 漸く | ようやく | やっと成果が出た様子、ギリギリ、徐々に |
19 | 碌に | ろくに | 「ろくに~ない」と非定型とセットで使い、期待値に満たない状態を表す |
20 | 僅か | わずか | ほんの少し、かろうじて、ささやか |
いずれの漢字も読み方さえ知っておけば意味はだいたい理解できる漢字ばかりです。この一覧に掲載している漢字は、もし出てきた場合も読めるように覚えておきましょう。
「漸く」は正しい読み方を覚えておけば使いこなせる
「漸く」は「ようやく」と読み、「物事をやっと達成する」「ギリギリ」「徐々に」と複数の意味を持つ単語です。正しい読み方と前後の文脈をみれば、「漸く」の意味はおおむね理解できます。「漸く」以外にも読めそうで読めない難読漢字はいくつかありますので、代表的な漢字は覚えておくといいでしょう。