「もっと身長が高ければよかったのに…」といった身体的なことから、「勉強が苦手」といった能力にかかわることなど、みなさんはなんらかの「コンプレックス」を持っていませんか?
「SNSの普及によって、コンプレックスに悩む人がどんどん増えている」と指摘するのは、著書『自己肯定感が高まる うつ感情のトリセツ』(きずな出版)が話題の心理カウンセラー・中島輝さん。コンプレックスが生まれるメカニズム、その悪影響、そしてコンプレックスから抜け出す方法を教えてくれました。
■SNSの登場で、コンプレックスに悩む人が増加
——専門的に学んだことがない人でも「コンプレックス」についてなんとなく理解していると思いますが、心理学的見地からコンプレックスがどういうものかを解説してください。
中島 コンプレックスとは、本来、「衝動や欲求、記憶などさまざまな心理的要素が無意識のうちに複雑に絡み合って形成される感情の複合体」のことです。ただ、日本では「劣等感」を表す「インフェリオリティー・コンプレックス(Inferiority complex)」を指してコンプレックスと呼ぶことがほとんどです。
コンプレックスには、「自分には価値があると思える感覚」である「自尊感情」が大きくかかわります。なんらかのきっかけによって「ありのままの自分に価値がある」と思えなくなってくると、他人との比較によってでしか自分の価値を見出せなくなります。自分より劣っている人を見つけて、「あの人と比べたら自分はましだ」と自分の価値を見出すようになるのです。
ところが、自分と他人を比較するようになると、見つかるのは自分より劣っている人だけではありません。自分より優れている人を見つけてしまって、その人より劣っていると思う部分がコンプレックスになっていくのです。
——いま、コンプレックスに悩む人は増えているのでしょうか。
中島 そう思います。最大の要因は、SNSの登場です。SNSによって自分と他人を比較する機会が激増しました。SNSの登場以前なら、たとえ直接の知人であっても、その経済状況や人間関係は見えにくいものでした。
ところが、SNSでは誰かが高価なバッグを買ったとか、じつは有名人とつながりがあった、豪華なパーティーに出席していたなど、これまでなら見えなかった部分も見えてくる。しかも、知人だけでなくまったくの他人のそういった部分も見えてきます。そうして自分と他人を比較し、コンプレックスをつくってしまっているのです。
■コンプレックスの強弱を生む要因とは?
——強いコンプレックスを持ってしまう人もいれば、コンプレックスをあまり持たない人もいると思います。そのちがいはどんなところから生まれるのでしょうか。
中島 ここまでの話の流れでいうと、SNSとの接し方もひとつの要因でしょう。コンプレックスを持っていない人のなかには、一切SNSをやっていないという人もいるかもしれませんね。「他人がなにをしていようがどうでもいい」というわけです。そういう姿勢なら、コンプレックスを持つことも多くないでしょう。
ただ、もっとも大きな要因となると、「思い込みの強さ」だとわたしは考えています。その思い込みとは、いわゆる「べき論」です。「こうすべき」「ああすべき」とたくさんの「べき」を押しつけられた人は、そうできなかった場合にコンプレックスを抱えてしまうのです。
そういう意味では、「男は男らしく、女は女らしくあるべき」「いい大学に入っていい会社に就職すべき」など多くの「べき」を押しつけられた昭和から平成初期生まれの世代にコンプレックスを持っている人が多いように思います。しかし、同じ昭和生まれでも、いわゆるバブル世代の場合には、イケイケドンドンで自分の希望をことごとく叶えてきたためにコンプレックスとは無縁という人も多いように見受けられます。
また、LGBTといった性的指向も含めて多様性が認められる風潮が強まっている現代社会に育ってきた若い世代にも、「自分は自分のままでいい」とコンプレックスを感じない人も少なくありません。とはいえ、SNSの影響はそれ以上に大きく、やはり全体としてはコンプレックスに悩む人は増えているとわたしは分析しています。
■コンプレックスを感じる人は、自分に真剣に向き合った人
——強いコンプレックスを持つことは、やはりいいことではありませんよね?
中島 もちろんです。強いコンプレックスを持ってしまうと、自分のなかに潜む「批判者」が無意識のうちに顔を出すようになります。なにかするたびに「うまくいかないに決まっている」「ほら、やっぱり駄目だった」というふうに批判され、ネガティブ思考が強まってしまうからです。最後には体が固まってしまい、前向きな行動を起こせなくなってしまいます。
——どうすればコンプレックスから抜け出せるでしょうか。
中島 まず、「感情の入れ替え作業」をしてみましょう。強いコンプレックスを持っている状態は、感情が乱れている状態でもあります。感情が乱れていると、行動も乱れます。でも、逆に行動を変えていくと、乱れた感情を整えることができるのです。
具体的には、掃除をしたりいらないものを捨てたりと、身のまわりの整理からはじめるのがいいと思います。身のまわりを整理するという行動によって思考も整理され、自分のポジティブな側面を意識できるようになるからです。
それから、「コンプレックスに感じている部分を活かす」意識を持つことも有効です。これは、先に触れた「べき論」という思い込みにかかわることです。
たとえば、くせ毛であることをコンプレックスに感じている人は、「髪は直毛であるべき」という思いを持っています。これはまさに思い込みです。直毛の人のなかには、くせ毛をうらやましく思う人もたくさんいます。
くせ毛もストレートパーマをあてれば直毛になるかもしれませんが、それは一時的なものに過ぎません。くせ毛であることは変えられないのですから、見方を変えて、「くせ毛を活かしてどう格好よく見せようか、綺麗に見せようか」と考えることが得策です。そうして、直毛の人には真似できないヘアスタイルをつくれたなら、それこそ直毛の人にうらやましがられるなどしてコンプレックスは消えていくでしょう。
それから、最後にお伝えしたいのは、「コンプレックスを感じる人ほど、自分と真剣に向き合った人」だということ。自分に向き合って「自分にはこんなよくない部分がある」と把握できていない人は、コンプレックスを持ちようがありません。つまり、コンプレックスを持っている人は、「客観性を持っている」ともいえるのです。客観性を持っていることは、どんなことをするにしても武器になります。そう認識し、コンプレックスを持った自分を褒めてあげて、自信を持ってほしいと思います。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ