日常生活ではあまり耳慣れないかもしれませんが、小説や漫画ではよく出てくる表現である「草葉の陰」。実はこの言葉、正しい使い方をしないと相手に対してとても失礼なことになってしまうケースがあるのをご存じでしょうか。

この記事では「草葉の陰」について意味や語源、類語や対義語と使い方、英語での表現を徹底解説します。正しい使い方を知り、失礼な間違いをしないようにしましょう!

  • 「草葉の陰」の意味や用法、類語や対義語などについて解説します

    「草葉の陰」の意味や用法、類語や対義語などについて解説します

「草葉の陰」の意味

「草葉の陰(くさばのかげ)」には、「草の葉の下」という文字通りの意味と、遠回しな表現としての「墓の下・あの世」という2つの意味があり、多くは後者で使われます。「母も草葉の陰で喜んでいるでしょう」とは「母も、きっとあの世で喜んでくれているだろう」という推測や希望を表しているのです。

「草葉の陰」の語源

「草葉の陰」という表現は、昔の日本が土葬であったことに由来しているとされます。土の中に埋めた遺体の上に草が生えることから、墓の下のことを草葉の陰と表現するようになったようです。

室町時代から使われていた

「草葉の陰」は室町時代の後半ごろから、御伽草子や狂言などに使われるようになった表現です。しかしルーツはもっと古く、それ以前にも軍記物などに「草の陰」という表現が見られました。

  • 「草葉の陰」とは「あの世」「墓の下」という意味です

    「草葉の陰」とは「あの世」「墓の下」という意味です

「草葉の陰」の使い方

「草葉の陰」を使うときには、「草葉の陰で(から)~している」という表現になるのが一般的です。死んだ人、特に親などの親類が、残された人の現世での様子を死後の世界から見ている、あるいは見た結果こんな感想を持つだろうという使い方をします。中でも、以下の表現を目にすることが多いでしょう。

  • 草葉の陰で喜んでいる
  • 草葉の陰で泣いている
  • 草葉の陰から見守っている

「草葉の陰で泣いている」は一般的に、悪事を犯した相手に対して悲しみの気持ちを表したりいさめたりする目的で使われることが多いです。ただし「うれし泣き」の意で使用することもあるため、使用シーンや前後の文脈を踏まえて意味を考えましょう。「草葉の陰から笑っている」「草葉の陰で驚いている」など、状況や故人の性格に合わせて変化させることで、より豊かでユーモアのある表現にもできます。

「影」ではなく「陰」

「草葉の陰」の「かげ」を、「影」と書き間違えないようにしましょう。「影」は、あるものが光を遮ってできる黒い部分のことであり、「陰」は、あるものが視界を遮っているために見えない部分のことです。草葉の陰とは「亡くなった人は、草の葉に隠れてこちらからはわからないけれども、見てくれているよ」という意味合いの表現のため、「見えない」の意がある「陰」を使うのです。

生きている人に使うのは間違い

「草葉の陰」に似た言葉で「陰ながら」という表現があります。「陰ながら」とは、見えないところでひっそりと、ある人のためになにかをする様子のこと。「陰ながら応援しています」「陰ながら成功をお祈りしています」などと使います。「陰」という字を使うのと「相手に見えない」という点が、「草葉の陰」と似ていることから、2つを混同して覚えてしまっている人も少なくありません。

しかし、「陰ながら」は生きている人を主語として使えますが、「草葉の陰」は基本的に亡くなっている人しか主語にできないという点が大きく異なっています。

特に注意したいのは「草葉の陰」を「陰ながら」の意味で使ってしまうことです。例えば相手の親がまだ存命なのに「あなたのお母さまも、きっと草葉の陰から応援していますよ」と言ってしまうと、生きている人をあの世にいると言ってしまうことになり、大変な失礼にあたります。他人に対して草葉の陰を使うときは、相手に対して不快感や失礼な表現にならないかを特に注意しましょう。

例文は「草葉の陰から見守る」など

・立派な学者になった君を見て、きっとお父さまとお母さまも草葉の陰で喜んでいることだろう
・あんなに仲の良かった兄弟なのに遺産相続で揉めるなんて、母さんも草葉の陰で泣いているに違いない
・草葉の陰から見守ってくれている先祖に恥ずかしくない振る舞いをしよう
・私がもし死んだとしても、孫のあなたのことは草葉の陰から見守るから安心してね

  • 「草葉の陰」を使うときは「陰ながら」との間違いに注意しましょう

    「草葉の陰」を使うときは「陰ながら」との間違いに注意しましょう

「草葉の陰」の類語

「草葉の陰」の言い換え表現や類語には以下のものがあります。故人の宗教やシーンによって、適切な表現をしましょう。

天国

「天国」はキリスト教などにおいて死者の霊が行く神の国のことであり、「草葉の陰」の言い換え表現として使えます。現代の日本では故人の宗教を意識せず使われる例も多くあります。

「草葉の陰」の代わりに、故人が行った死後の世界を指して「空」を使うこともできます。草葉の陰よりもカジュアルで分かりやすい響きになるため、友人関係にあった故人に使う表現としても適しているでしょう。

あの世

「あの世」はわれわれが生きている「この世」と対をなす表現です。「草葉の陰」は「亡くなった人が見てくれている」という表現での使用が多いのに対し、「あの世」の場合は死後の世界を表す一般的な単語として使える点が異なっています。

浄土

亡くなった人が仏教徒であった場合、宗派にもよりますが死後には浄土に行くとされるのが一般的です。浄土とは仏の住む世界のことで、仏によってさまざまな浄土が存在します。中でも一般的なのは阿弥陀仏のいる極楽浄土で、浄土宗や浄土真宗で信仰されています。

苔(こけ)の下

土葬するとお墓の上には草だけでなく苔も生える点から、同じように墓の下、死後の世界を意味する表現が「苔の下」です。こちらのほうが草葉の陰より古く、平安時代の更級日記にも用例が見られます。

  • 「天国」「空」などが「草葉の陰」の類語です

    「天国」「空」などが「草葉の陰」の類語です

「草葉の陰」の対義語

死後の世界を表す「草葉の陰」の対義語は、今われわれが生きているこの世を示す表現です。以下で解説しますので、それぞれの意味を確認しておきましょう。

現世(げんせ)

「現世」は今現在われわれが生きている世界のことであり、元々は仏教用語の「現在世」を略した表現です。前世、来世に対して使われる言葉で、仏教用語として使う際には「げんぜ」と発音します。

俗世

「俗世」とはわれわれが住んでいる世間や世の中のことです。特に出家している人たちの「出世間(しゅっせけん)」と対比された、出家していない人たちが暮らす世間のことを指します。

  • 「草葉の陰」の対義語は、我々の生きている「現世」です

    「草葉の陰」の対義語は、我々の生きている「現世」です

「草葉の陰」を英語にすると

英語で「草葉の陰」を表現する際には、「in one's grave(墓の下で) 」や「in heaven(天国で)」、「under the sod(芝生の下で)」などを使うといいでしょう。「under the sod」は、格式張った表現になります。

また、「草葉の陰で泣いている」というときは「roll over in one's grave」が適しています。直訳すると「墓の中で寝返りを打つ」ですが、そこから「安心して眠れていない」「草葉の陰で泣いている、ショックを受けている」などという意味になります。

例文

・I believe my mother is happy in heaven that I was able to graduate from college in one piece.
(無事に大学まで卒業できて、母も草葉の陰で喜んでいると信じています)
・He must be very happy under the sod to have his posthumous work has been recognized.
(遺作が評価されて、彼も草葉の陰で喜んでいるに違いない)
・I am sure my father is rolling over in his grave at the thought of selling the house he built with such care to someone else.
(あんなにこだわって建てた家を他人に売るなんて、父はきっと草葉の陰で泣いていることでしょう)

  • 「草葉の陰」の英語表現は「in one's grave」などです

    「草葉の陰」の英語表現は「in one's grave」などです

「草葉の陰」は「あの世」の意味。誤用に注意

「草葉の陰」とは「墓の下、つまりあの世」を指した表現であり、「草葉の陰から見ている」とは「あの世から見ている」という意味でした。

「死んだ人が、どこかからきっと見ているよ」という励ましや戒めに使う表現なので、生きている人に使うと大変失礼になってしまいます。また、「影」と「陰」の間違いも起きがちです。使うときには、相手に不快な思いをさせないように注意しましょう。