春から新社会人になったみなさん、異動や転勤、転職などで職場が変わったみなさん、新たな環境の中で働き始めてしばらく経った今、元気に毎日を過ごせていますか?

毎年、ゴールデンウィーク明けから6月くらいにかけて、よく耳にするようになる「五月病」。その対処法や乗り越え方のコツについて、書籍『私の中のこの邪悪な感情をどうしよう? --自分のこころを壊さないためのヒント』(祥伝社)の著者で、パーソナルモチベーター、セラピストの石井裕之さんから、アドバイスをいただきました。

  • なぜか気分が優れない、と悩んでいませんか?

五月病ってなに? なぜ起こるの?

「やる気がわかない……」「自信が持てない」「会社に行きたくない……」。職場や生活環境が大きく変わって1ケ月超、緊張とストレスの日々でヘトヘトになり、とりとめのない不安感や無気力感、焦燥感に襲われてしまう。

こうしたいわゆる五月病について、石井さんは、セラピストとしての視点で次のように説明します。

「まず大前提として、心の不調は、うつ病などの深刻な病気のシグナルであることも否定できません。特に長く続いている場合には、心療内科や精神科などの専門医に相談することも検討してください。

そこを踏まえた上で、セラピストとしての経験や観点から申し上げますと、僕は五月病というものは、心のバランスが崩れている状態であると考えています。植物や動物など、あらゆる生命が動き出す春は、心も同じように活発に動き始めます。誰しも心は一つではなく、『やさしい自分』『冷たい自分』『怒っている自分』『許しがたい自分』など、いろいろな要素がある。春になるとそれらがざわざわと動き出して、バランスを崩してしまうのです。さらに、この時期は新年度の始まりで、身の周りの環境が大きく変化しがちであることも、心のバランスをとりにくくしてしまう要因の一つになっていると思います。

人は、そんな心のざわざわ感に理由を付けたくなります。例えば、職場で自分の居場所がないから会社に行きたくないのだとか、上司が認めてくれないからやる気が出ないのだと。本当は単に心のバランスが崩れてざわざわしているだけなのに、その意味が分からないから、自分を納得させるために理由を後付けしてしまう。僕の考えでは、それが、いわゆる五月病を引き起こしてしまう原因です」。

  • 五月病は「心のバランスが崩れている状態」だと言う石井さん

邪悪な感情は自分の中の怪獣。自ら餌をあげてはいけない

心のざわざわ感から生まれる、不安や焦り、恐れ、怒り、憎しみ。そうしたネガティブな感情を、石井さんは「邪悪な感情」と呼んでいるそうです。では、もしも自分の中に邪悪な感情が表れて五月病に陥ってしまったら、どう対処すればいいのでしょうか。石井さんは次のようにアドバイスします。

「一番良くないのは、不安を感じたことを不安に思い、その理由を探してしまうこと。そんなことをしたら、深みにはまっていくだけですから。

例えば、自分の中の不安を怪獣だとイメージする。その怪獣は、自分が感じた不安を食べて大きくなっていく。不安について思い悩むという行為は、怪獣に自ら餌をあげて大きく育てているのと同じ。不安を感じても『これ以上餌をあげる必要はない。この不安はこのままで終わりにしよう』、そう考えるのです。

バカバカしく思うかもしれませんが、イメージトレーニングだと思って試してみてください。少しでもラクになれたなら、こうした考え方を自分の中にツールとして持っておくといいでしょう。これは、五月病に陥ってしまった時だけでなく、仕事で失敗して落ち込んでしまった時など、さまざまな場面で役に立つと思います」。

自分らしさは、自分らしくあらねばという考えを捨てたときに見つかるもの

一方で、五月病は、全面的に否定すべきものでもないと思うと石井さん。

「新しい環境で新しい自分になっていくためには、今までの自分を疑ってみたり、古いものを壊したりする場合も。成長するためには、必要な痛みや苦しみもあるのではないでしょうか。そういう意味では、五月病をもう少し前向きに捉えてもいいのではないかと。全面的に克服して消すべきものだとは、僕は思っていません」

続けて石井さんは、「自分らしさ」というものに対する考え方についてこう言及します。

「自分らしくある、に縛られて苦しんでいる人からの相談が多いです。特に社会に出て間もない若い世代の方々は、自分がやるべきことは何なのか、自分らしい人生とは何なのかということに囚われて『自分にばかり』目線がいっている。それでは、本当の自分らしさは見つかりません。

恋愛に例えると分かりやすいですね。恋愛をすると、この人を分かってあげよう、喜ばせてあげようと、相手に気持ちがいきます。するとなぜか、嫌になるほど自分のことが分かる。自分はこういう人間だった、こういうところが良くないんだと、今まで見えなかった自分がハッキリと見えてきます。

つまり、自分らしさというのは、自分以外のものに目線を向けた時に初めて見えてくるもの。自分らしくあるためには、自分らしくあらねばという考えを一度捨てることが大事だと僕は思います」。

本来自然に芽生えてくるはずの自分らしさを自ら窒息させてしまっている。それに対する反発が自分の奥から現れてきているのが、五月病だと言ってもいいのではないか、と石井さん。

自分に向いていた目線を、他者に向ける。そうした視点の持ちようが、常に自分らししくある秘訣であり、五月病をはじめとした心の問題の克服にも大きく役立つと話します。

取材協力:石井裕之(いしい・ひろゆき)

パーソナルモチベーター、セラピスト
1963年東京都生まれ。2008年に東京国際フォーラムで開催された単独公演には5000人が参加。ベストセラー著書は『ダメな自分を救う本』(祥伝社)、『「心のブレーキ」の外し方』(フォレスト出版)など。2022年4月、自身が主宰するコミュニティ「沢雉会(たくちかい)」のメンバーとの共著『私の中のこの邪悪な感情をどうしよう? --自分のこころを壊さないためのヒント』(祥伝社)を上梓。