観光局オフィスにイサーム氏の机はない?

「すべて可能である!」

これは、わずか数十年の間に、砂漠の上に「世界のハブ」と言われるまでの華やかな観光都市をつくり上げたドバイの初代国王ラーシッド首長とその息子のムハンマド現首長の座右の銘である。ドバイの街を歩きながら、このスピリットは、国の発展にかかわるすべての人の心に刻み込まれているのかもしれない、と感じさせられる。

イサーム氏は続けてこう話す。

「私たちはドバイ観光・商務機関局(DCTCM)の公務員ですが、民間企業とともに働いています。公務員とはいえ、プライベートカンパニーと一緒に働かないと、真実が見えてこないからです。観光事業も、政府と民間がともに力を合わせれば成功します」

日本政府にぜひとも参考にしてほしいと考えるのは筆者だけではないはず。そういえば、「スーク・マディナ・ジュメイラ」というショッピングモール内で店員に勧められたお菓子がある。デーツ(ナツメヤシの実)をチョコで包んだもの。デーツチョコは中東のお土産としては有名だが、勧められたデーツチョコは、ラクダのミルクチョコを使っていて、中心にピスタチオが入っている。ピスタチオ、デーツ、ミルクチョコの3重構造だった。「サムハ(SAMHA)」というお菓子で、政府関係者の会社のものだという。1ついただくと後を引く美味さに感動し、5個購入した。

  • 筆者イチオシのお菓子「サムハ(SAMHA)」

今回訪れたのは、周囲に主要金融機関が多く集まるDCTCMオフィス。イサーム・カーゼィム氏にはミーティングルームでインタビューさせてもらったが、なんと、彼自身の局長室も机もなかった。壁のない空間で、スタッフが見渡せる距離感で仕事をしている。常に動き回っている、という印象だった。

さらに、週末に仕事の連絡が来ると、日本人なら週末になぜ? という気持ちになるところだが、DCTCMのスタッフを見ていると、平日・週末関係なく自分のために楽しんで働いているかのようだった。

進化が止まらないドバイ、今後の目標を聞く

ドバイではコロナ以前の2019年から2022年にかけて、"世界一"を誇る魅惑的なアトラクションやビルが次々とオープンしている。世界最大の海の上の噴水「パーム・ファウンテン」、パーム・ジュメイラの海岸にできた「パーム・ウエストビーチ」、世界初の未来の体験型アトラクション「ドバイ・ミュージアム・オブ・ザ・フューチャー(未来博物館)」、ビル50階に位置しドバイの絶景が360°見渡せるインフィニティプール「オーラ・スカイプール・ラウンジ」……と枚挙にいとまがない。

  • 世界初の未来の体験型アトラクション「ドバイ・ミュージアム・オブ・ザ・フューチャー(未来博物館)」内の映像

  • ビル50階に位置しドバイの絶景が360°見渡せるインフィニティプール「オーラ・スカイプール・ラウンジ」

今回、筆者が何度も通ったのが、英国の情報誌『タイムアウト』が運営するフードホール「タイムアウト・マーケット・ドバイ」。約20もの世界各国料理が楽しめる、今もっとも熱いドバイ最新食スポットだ。 

  • 「タイムアウト・マーケット・ドバイ」のエントランス

ドバイで初日に取材をした新ホテル「ソフィテル・ドバイ・ザ・オベリスク」、英国出身のセールス&マーケティング担当がこう話してくれた。

  • 新ホテル「ソフィテル・ドバイ・ザ・オベリスク」

「私はドバイに住んで10年が経ちます。普通、10年も1つの国に住めばさすがに飽きるはずですが、この街は飽きることがないのです。常にどこかで新しいアトラクションや新ジャンルンの料理、アートが生まれている。それもワクワクさせられる本物ばかり。私はこの街で仕事をしながら、ドバイの真髄を学びたい、新しい何かを発見したい、そんな気持ちで暮らしています」。

彼女は、ドバイの中心地から車で20分ほどの距離にある、完全な環境型配慮都市「サステイナブルシティ」に住んでいる。

彼女だけではない。1年のつもりで住んだという日本人ガイド、エミレーツ航空の客室乗務員も、気が付けば8年、10年経っていたという。どちらも大変住み心地が良いから、と語ってくれた。

——今後の目標を教えてください。

「私たちのゴールは、2025年までに2,500万人の旅行者をドバイに呼ぶことです。ビジネス、イベント、アート……すべてが世界一になるように邁進します」

——そのために何をする予定ですか?

「それぞれの国、人に合わせてマーケティングでアプローチします。どの国で、どんな人に会って、何を言えばよいか、戦略を立ててしっかり考えてから行います」

——これからも「世界最大」「世界一」キーワードを目指しますか?

「はい。しかし、ハード面の大きさや高さだけでなく、今後は、もっとも優秀でクレバーな人材や主導者を呼ぶ、またテクノロジーや仮想通貨など、新しい分野の世界一を目指すつもりです」

  • 世界一の高さを誇るタワー「バージュ・カリファ」

——ドバイEXPOの成功体験をどう生かしますか?

「グローバルなイベントをやることはとても重要です。2013年にIMF(国際通貨基金)の世界的イベントがドバイで開かれました。最初は、ドバイ? そんな小さな都市でできるの? と言われたりもしましたが、見事に成功。これらの小さな成功体験を積み重ねて最終的にEXPOへと繋がりました。次々と大きなイベントをドバイで開く、ということは世界にドバイをアピールできる、ということです」

ウィズコロナ時代のエミレーツ航空のこれから

ウィズコロナ時代の今、ドバイは「世界でもっとも安全に旅できる場所」として人気の観光地となったが、それを支えるのはドバイを本拠地とするエミレーツ航空だ。

  • (C)エミレーツ航空

エミレーツ航空ドバイ本社に、今後のウィズコロナ時代の目標をメールで尋ねてみた。

「今の最優先課題は、お客様と乗務員、地域社会の健康と安全です。常に革新をつづけながら、旅行者のニーズにカスタマイズしたサービスを提供します」との返答だった。

世界的パンデミックが始まった後、2020年4月には旅客便の運航を再開し、航空会社として初めて乗客に新型コロナウイルス抗原検査を提供。また、業界に先駆けて、航空券の有効期限延長や旅行クーポンへの交換、予約変更・払い戻しの手数料は取らないなど、柔軟な航空券の運賃規約を導入した。さらに業界初「マルチリスク旅行保険」という新型コロナウイルス感染症補償付きの保険を用意し、スカイワーズ会員のステータスとマイル延長期間など、世界の状況に合わせて‘今’旅行者に必要不可欠なサービスを、ここぞというタイミングで提供している。

その時々に求められる需要の変化や要望を察知し、臨機応変に適応するエミレーツ航空。今回、エミレーツ航空を利用してなにより驚いたのは、公式サイトで見た画期的なサービスだ。ドバイEXPO開催中、エミレーツ航空利用者全員にもれなくEXPO無料入場券が提供されたのだ。まさに、旅行者にとってこの上ない嬉しいサービスであった。

また、世界の渡航制限緩和に合わせてエミレーツ航空の運航便を追加し、2021年10月時点で、コロナ以前の90%のネットワークを再開させ、2022年4月現在、130以上の都市に就航している。ちなみに、エミレーツ航空は2021年4月1日から9月30日までの乗客数は、前年比の319%増の610万人とのこと! 

  • ドバイ国際博覧会(EXPO)エミレーツ館内

脱炭素化に対しての取り組みにも熱心だ。より少ない燃料で、確実に効率的に飛行できて、エンジントラブルが起こる確率の低いロールスロイス社エンジン搭載のエミレーツ航空機(A350XBW型機)を2023年5月に受領予定。

さらに、環境に配慮した次世代の航空燃料SAF(Sustainable Aviation Fuel) 産業への取り組みにも貢献している。SAFとは、食用油や木質バイオマスなどにす由来する持続可能な代替航空燃料のこと。従来の燃料より約8割のCO2を削減することができる。2021年11月、エミレーツ航空と米国の航空機エンジンメーカーGEアビエーションは、エミレーツのボーイング777-300ER型機で、2022年末までに100%SAFを使用した試験飛行プログラム開発に向けて覚書を締結したという。

さまざまな航空会社が従来の燃料からSAFへのシフトを目指しているが、2022年1月時点で世界のSAFの生産量は航空燃料需要の1%にも過ぎず、日本でもようやくSAFへ向けてのロードマップが確立したばかり。今後が実に楽しみである。

まとめ

今回の初のドバイ旅、1週間滞在して感じたのは、たとえば地下鉄に乗っていても、不思議と自分が「異国の人」という気がしないこと。なぜなら、ほとんどの住民は外国人なのだ。東京の地下鉄に乗っているような不思議な感覚だった。そして皆、自由なコスモポリタン、そんな印象を受けた。取材している筆者も大変居心地が良かった。

「ドバイはトップクラスのシェフが集まる場所なので、世界各国の料理がとにかく美味しいのです」。日本人のドバイファンからそんな言葉を聞きながらも、内心、本当かなぁ? と疑っていたが、確かに、筆者のお気に入りのギリシャ料理、ベトナム料理、インド料理、中華の点心……どのレストランも日本人が心から満足できるクオリティだった。食事がおいしい国はすこぶる楽しい。

  • 世界各国の料理がとにかく美味しいドバイ

  • お酒も飲める

「ドバイは、エミラティ(UAE人)、海外からの移住者の皆が気持ちよく住める環境にあります。たとえば日本人が10年住んでいても、自国の文化を守りながら自然に生きられます。いろんな国のカルチャーやアイディアをシェアしながら、平和に暮らせる場所なのです。まず、この国はどこより治安がよく安全です。地球中のみんながここで出会うことが大切なこと。日本の皆さん、何も心配せず、まずは気軽に遊びに来てください」と最後にイサーム氏は語ってくれた。

誰も想像しなかった疫病や戦争が起こり、未来が不透明になりつつある世界。そして30年以上昇給が進まず、IT化も遅れ世界から取り残されそうな日本。ドバイを旅することは、何も、ラグジュアリーな世界一を享受するためだけではない。困難にひるまずにチャレンジしていくドバイの姿勢を、ぜひともこの地へ足を運び、自分の目で確かめて何かを感じてほしい、と切に願わずにはいられない今回のドバイ旅だった。

ドバイ情報

アラビア半島南東端に位置するUAE(アラブ首長国連邦)は、United Arab Emiratesの略で、「エミレーツ」は首長(エミールemir)が治める国を意味する。アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ラス・アル・ハイマ、フジャイラ、アジュマン、ウンム・アル・カイワインという7つの首長国からなる連邦制国家。その首長国のひとつがドバイ。面積は3,885平方km(埼玉県ほどの広さ)でその大半は砂漠。人口は約314万人。

  • ワフィ地区「ソフィテル・ドバイ・ザ・オベリスク」の部屋から見るダウンタウンドバイの朝の景色

紀元前からの長い歴史を持ちながらも、小さな漁村に過ぎなかったドバイ。隣のアブダビに比べて石油埋蔵量が僅かなドバイは、早い時期からエネルギー産業に頼らない国づくりを目指してきた。その核となったのが「ビジネスと観光」。アフリカとヨーロッパの中継点に位置しハブ空港をもつドバイは、中東屈指の金融センターとして外国企業の誘致を積極的に行い、砂漠を埋め立て多くの豪華リゾートホテルを建設。「世界最高のものを作れば人が集まる」を基に、観光開発が進められてきた。また、外資企業誘致プロジェクトの一環として、経済特区(フリーゾーン)を作り、急速な経済発展を実現した。例として、IT産業系のドバイ・インターネットシティ、健康医療系のヘルスケア・シティ、航空貨物系のドバイ・エアポート・フリーゾーンなど。

  • 「アドレス・ダウンタウンホテル」63階のネオスバーから見るバージュ・カリファ

取材協力:
ドバイ政府観光・商務局
エミレーツ航空