ヤマハ発動機の電動スクーター「E01」は人気の原付二種(125cc以下)に属する製品でありながら、販売するのではなく、実証実験のため台数限定でリースする点が話題となっている。試乗会で実車に触れることができたので、独自の戦略ともどもお伝えすることにしよう。
実証実験専用車とした理由
大阪・東京・名古屋と続いた2022年の「モーターサイクルショー」は、久々のリアル開催だったこともあり、メーカーやインポーターも力が入っていた。その中でヤマハが主役の1台として公開したのが、電動スクーター「E01」だった。
少し前の記事で紹介したように、原付二種(125cc以下)はバイクブームの中でも人気のカテゴリーであるため、E01が原付二種登録であることは理解できる。ただ、販売ではなく実証実験での展開であること、バッテリーが交換式ではなく充電式であることなど、気になる点もある。
そんな中でヤマハは4月中旬、報道関係者向けのE01試乗会を開催。詳しい商品説明も実施した。
なぜ販売しないのか。ヤマハでは2035年に電動化20%という社内目標を立てており、その実現にはユーザーの生の声を集める必要と考えた。そこでE01の実証実験を日本、欧州、台湾、タイ、マレーシア、インドネシアの6地域で行い、各地でデータを集めることにしたそうだ。
50ccではなく125ccクラスとしたのは、グローバルで普及しているカテゴリーであることに加え、満充電での航続距離100km、最高速度100km/hを実現したかったとの答えが返ってきた。
バッテリーを電動アシスト自転車や50ccで一般的な交換式とせず、充電式とした理由もここにある。前述の100km&100km/hを実現すると、人が持てる重さではなくなってしまうからだ。充電式であればシート下にバッテリーを搭載する必要がなく、メットインスペースを確保できるという利点もあるという。
E01にはLTE回線によるデータ収集機能を持たせる。eSIMとGPSを内蔵したCCUを搭載しており、 走行・駐車・充電情報などをチェックすることで、今後の開発に役立てるとのことだ。
ヤマハらしいデザインへのこだわり
デザインについての説明もあった。まず紹介されたのが、2017年の東京モーターショーに出展されたコンセプトバイク「モトロイド」だ。モトロイドはスタンドを上げても倒れない自律制御が話題になったが、電動バイクでもあった。
そこでヤマハが提案したのは「人機官能EVデザイン」だった。乗ってみたくなる親和性、新しい走りへの期待、特有の機能や構造の視覚化を目指した点で、モトロイドとE01は共通しているという。具体的には前後車輪とバッテリー、モーターを路面と平行になるよう一直線に並べ、その上に人が乗るボディを融合することで、機能や構造の視覚化を明快に表現し、新たな価値を創出したとしている。
モトロイドでは、ステアリングの支点と後輪を懸架するスイングアームの支点を結ぶ斜めのラインにバッテリーを吊り下げていた。ラインの角度は違うが、直線上に主要メカニズムを配置したところは共通だ。
その一方で、ライダーが座るヒップポイントと後輪を懸架するアームの支点を垂直に配置することで、視覚的な安定感も表現している。
ここまで独自性にあふれたデザインでありながら、ライディングポジションは同社の125ccエンジンスクーター「NMAX」とほぼ同じ。全長も1,930mmと同等だ。シート高は755mmとNMAXより10mm低く、乗りやすさにも配慮した形になっている。
フロントパネルを「顔」として扱わなかったところも個性的だ。ヘッドランプはカウルの下に置き、通常ランプがある場所には充電ポートを配置。これを囲むようにポジションランプをレイアウトすることで、電動バイクであることを記号化したとの説明だった。
クリーンなイメージを出すために、前後車軸やリアのスイングアーム支点にカバーを装着したことも特徴。カラーリングについては機能を際立たせるブラック、造形を強調するホワイト、ヤマハEVを特徴づけるシアンアクセントで構成したとのことだった。
エンジン車よりも自然で安定した走り
試乗は公園の駐車場にパイロンを並べたコースで行った。158kgの車両重量はNMAX比でプラス27kg。押し歩きは少し重さを感じるが、走り出せば低重心で、前後の重量配分がイーブンに近いことによる安心感もあった。
加速はスタート直後から力強い。8.1kWの最高出力は125ccとしてはやや控えめだが、30Nmの最大トルクは同クラスのエンジンスクーターの約3倍もあることが効いている。
しかもスムーズで静か。そう感じたのは、同じコースでNMAXに乗ったためもある。こちらはレスポンスに遅れがあり、単気筒エンジンの振動も伝わってくる。コーナーでは前輪への荷重がもう少し欲しいとも思った。
回生ブレーキは説明にあったとおり、あまり強い効きではなく、両手で操作するブレーキが主体なので安心できた。スイッチ操作でバックができることも電動スクーターならではだ。
左右のステップの間にバッテリーがあるので、乗り降りの際は足を持ち上げる必要があるものの、走行中は両足のくるぶしでボディをグリップできるので、むしろありがたかった。
充電器は日本では急速・普通200Vに加えて、メットインスペースに収まる携帯100Vの3タイプを用意。ただし、急速と普通の充電器は、自動車用とは規格が異なるので注意が必要だ。
逆に上記の環境で大丈夫という人は、5月22日まで受け付けている3カ月リースに応募してみてはいかがだろうか。100台限定なので抽選になりそうだし、月2万円のリース料が必要にはなるが、電動スクーターを体験したいというのであれば、買うよりむしろ敷居は低いと感じるはずだ。