年度が替わり、学校や職場などの生活環境が変わって間もない頃、目立った病気などがあるわけでもないのに「なんだか調子が良くない」と感じてしまう。その状況がゴールデンウィークを経ても改善しない――。

こうした症状は、一般的に「五月病」と呼ばれます。

私は産業医として通算1万人以上の働く人と面談をしてきました。その経験から、五月病の原因の多くは、新生活のスタートで生じがちな「問題」――過去の友人・知人たちからの隔離と、新生活への高すぎる期待――が生むストレスと感じます。このストレスが大き過ぎると五月病となり、上手に対処できずにこじらせるとメンタルヘルス不調としての病気にまでこじらせてしまう可能性があります。

そこで今回は、五月病にならない心と体の健康管理術についてお話しさせていただきます。

  • 五月病にならない心と体の管理術

新生活は体調の変化や“いつもとちがう”に注意

新生活となり慣れない仕事環境で過ごしていると、人は、意識せずともストレスを抱えてしまいます。そして、知らず知らずに溜まりすぎたストレスで心身の不調を呈してしまいます。

人は、自らにかかる負荷が自分の許容限度を超えていっぱいいっぱいになる、つまり”ストレス”と感じると、その反応が、心や身体、行動に症状として現れます。

このうち、本人にとって一番わかりやすいのは身体症状(不眠、食欲低下、頭痛やめまい、動悸や冷や汗など)で、わかりにくいのが精神症状(やる気が出ない、億劫、不安、イライラ、憂鬱など)。また、他人にわかりやすいのは行動に出る症状(お酒やタバコの増加、遅刻や早退、会話の減少など)です。

特に職場では、遅刻、早退、欠勤が増えたりします。集中力が低下してミスを多発したり、仕事の結果を出すのに時間がかかるため、時間外労働や休日出勤が増えたりします。また、ほうれんそう(報告、連絡、相談)が減ったり、職場での仲間との会話が少なくなったりすることもあります。

しかし最近は、テレワーク環境で、同僚から気づいてもらえる機会は激減しました。ですから、もしあなたが、“いつもとちがう”自分(の症状など)に気がついた時は、いま自分にはストレスがかかっている、対処が必要だという自覚を持ってください。また、もしあなたが同僚の“いつもとちがう”変化に気づいた場合は、「ちょっといいですか?いつもと違うけれど、どうしたの?」とちょっと声をかけてあげてください。

そこでしっかりと早め早めにストレスに対処ができれば、重症化しないで済むことも少なくありません。だからこそ、定期的にZoomなどで同僚たちと仕事の会議ではなくちょっとした雑談時間を設けられるといいですね。Zoom時代は、ほうれんそうよりも雑草(雑談・相談)が大切です。また、家族や友人の指摘には真摯に耳を傾けましょう。

五月病になりやすい人、なりにくい人の違い

五月病にはなりやすい人となりにくい人がいます。

なりやすい人は、2通りあり、1つめは、新しい生活が始まり、それまでの友人や同僚たちとの関係が疎遠になってしまう人です。

新年度の仕事が忙しすぎて、結果としてこれまでの友人や同僚たちと疎遠になる人たちもいますし、「新しい職場になれるまでは、仕事に集中したい」という考えの人たちもいます。しかし、こうした過度にストイックな態度は、時に裏目に出てしまいます。

新生活で知り合ったばかりの同僚や知人たちと、いきなり腹を割ったホンネの会話をするのは難しいことです。たわいもない話をしていても、緊張感が残っていたり、本心を隠した「腹の探り合い」になってしまったりします。

こんな時に、気心の知れた友人や以前の同僚と話すのは心理的に良い効果が期待できるのですが、後者の人たちは自らその道を断ってしまっています。その結果、ちょっとした不安やストレス、悩みを愚痴ったり解消したりせずに溜めていき、やっかいなことになってしまうのです。不安やストレスは、溜まるほど解消が難しくなり、メンタルヘルス不調の原因になってしまいます。

このような人はぜひ、定期的な気分転換やストレス発散の場、気心知れた人たちと会う機会等を意識するようにしてください。

2つめの人は、新生活への高すぎる期待をもつ人です。この期待とは、自分への期待だけでなく、他人への期待も含んでいます。

新生活が始まると、多くの人は気持ちを新たにし、自分自身に期待をかけます。新しく外国語学習やお稽古事を始めてみたり、他人より優秀でありたいと自分にハッパをかけてみたりします。それが上手くいかないと、「自分の頑張りが足りないからだ。もっと頑張らなければいけない」と考えてしまう人もいます。このように、自分への期待が高すぎるために、ストレスが生じてしまいさらに自分を追い詰めて不調になる人たちもいるのです。 一方、自分へ高い期待をかけるのでなく、周囲に勝手に高い期待をかける人もいます。しかし、周囲の同僚にとっては、必ずしもこの時期に仕事が最も優先順位が高いとは限りません。奥さんが働き始めた時期であったり、お子さんが難しい時期を迎えていたり、親の介護などの問題があったり……。

人それぞれに仕事よりも優先順位高いものがあっても決して不思議ではないのです。そんな状況で、「あなたも頑張って!」と呼びかけられても、応えられない場合もあるでしょう。こうした独りよがりな考え方は、コロナ禍で普及したテレワーク環境下で、同僚の顔色や仕草、働き方などの変化や個々の事情を把握できていないような最近では、人間関係のストレスにつながりやすく危険です。

このような人はぜひ、自分にも他人にも、求めすぎずにやさしくなることを意識して欲しいと思います。

反対に五月病になりにくい人は、どのような人でしょうか。以上の2つがない人ですが、それは、肩の力が抜けている人といいましょうか。適度に休みをとり、強すぎるこだわりを持たず、臨機応変に判断や行動ができる人でしょう。

  • 五月病にならない心と体の管理術

今年のGWは過ごし方が大切

今年のGWは、5/2と5/6が休みになる人には10連休です。10連休にはならなくても、コロナ禍で普及したリモートワークを用いれば、出社せずにワーケーションもできます。

長すぎる休みは、五月病を加速するのかと心配する声をたまに聞きます。ご安心ください。GWの休みの長さと五月病には、関連性がないと思います。そのような医学的根拠は聞いたことがありませんし、また、コロナ前の2019年のGWは10連休でしたが、私のクライアントにおいて、五月病が増加した経験はありませんでした。

この10日間を思いっきりリフレッシュできる人は、ぜひそうしてください。「元どおりに働けなくなるのでは?」と心配になる方は、最後の3日ほどは早寝早起きなど、いつもの生活リズムで過ごされればよいでしょう。

それよりも、GW明けから海の日(今年は7月18日)までは祝日のない期間が2ヶ月以上と、一年で一番長い時期となります。五月病になってしまう人は、この間に体調不良をリセットできることなく、悪化させてしまう人もいると思います。

そこで、今からできる五月病対策としてお勧めするのは、GW後の次の休みをいつ取るかを、GWが終わる前に決めておくことです。可能であれば、海の日よりも手前で1、2日は取りましょう。金曜日や月曜日に取って、2泊3日の少し長めの週末を過ごしてみてはいかがでしょうか。

働き方改革で、年に合計5日間の有給休暇取得が多くの会社では義務となりました。また、リモートワークの普及で休まずとも出社しないですむ雰囲気の職場も増えたと思います。ぜひ、GW中に、次の休みの日を決めておきましょう。

この話があなたの五月病対策になれば幸いです。