YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。

第8弾は「美術クリエイター編」で、『ミュージックステーション』といった番組のアートディレクションや「テレビ朝日CI」などを手がけるテレビ朝日の横井勝氏、『VS嵐』『IPPONグランプリ』といったスタジオセットなどを手がけるフジテレビの鈴木賢太氏(フジアール兼務出向)という97年入社同期の2人が登場。『新しいカギ』などの演出を担当するフジテレビの木月洋介氏をモデレーターに、全5回シリーズでお届けする。

最終回は、他局の美術への見解を皮切りに、これからの美術クリエイターに求められること、そして局やメディアの垣根を越えたコラボの可能性まで語ってくれた――。

  • (左から)テレビ朝日・横井勝氏、フジテレビ・木月洋介氏、フジテレビ・鈴木賢太氏

    (左から)テレビ朝日・横井勝氏、フジテレビ・木月洋介氏、フジテレビ・鈴木賢太氏

■2人が影響を受けた作品は…

――お互いの作品以外で、印象に残る番組の美術や、アートワークはあったりしますか?

鈴木：テレビ番組ではありませんがクリストファー・ノーラン監督の映像を生み出す元になってるセットとか、体験する人に一旦学習させてからどれぐらいすごいことをやってるのか伝えていく手法は、見ててすごいなと思いますね。

横井：僕はビョークの初期PVを見てCGを始めたのですが、ミシェル・ゴンドリーが撮った「ハイパーバラッド」とか、映像を見ることで別の深い音が聴こえてくる感覚が面白いかな。

鈴木：テレビは仕事をする場なので、そこから吸収するという感じではないんですよ。だから、映画やアニメ、ゲーム、建築、もっと言うと様々な現象や体験からテレビに落とし込むので、あんまり他局のセットが良いなあと思って見てないかもしれないです。

横井：確かに映画やアニメが強くて、あとは妙心寺っていう寺で育ったので、その影響もあるのか古い建築や路地の構造が好きです。他は実家が染色業してたのでテキスタイルはかなり意識しますね。

木月：その中で、他局さんのセットはどういうふうに見てるんですか?

鈴木：日テレさんは、本当に褒め言葉として「上手にダサい」。これはすごく大事なことで、最新の流行ばかりを取り込んでいると、対象視聴者のボリュームゾーンからかけ離れてしまうので、テレビとしては間違えてしまうんですよね。日テレさんはマーケティング・リサーチがしっかりして、それに基づいて番組作りをしている印象があるので、それがセットにまで至ってるんだろうなと思います。

――他はどうですか?

鈴木：TBSさんは非常におしゃれ。歌番組にしてもトーク番組にしても、今のファッションやカルチャーの先端を表現している印象です。テレ朝さんはとても賑やかで、テレ東さんはテーマ一点突破タイプのセットの印象があります。NHKさんは、『SONGS』などの音楽番組からEテレに至るまで、コンセプトがしっかりして番組とすごく合っていて、引き算具が良く被写体の演者さんがよりよく見える状態になっているのが良いなと思います。

横井：ほぼ同感かも。コンセプトも大切ですが、視聴背景の文脈に合ってるかも大事で、カッコ良くし過ぎた場合「デザインの上滑り」になってしまうことがあるんですよ。出演者や枠、どの放送局やデバイスで放送するかでも印象が変わるから、デザインだけ頑張っちゃうと変にズレた感じになるので俯瞰(ふかん)の視点が必要です。

■『報道ステーション』と『ABEMA NEWS』の違い

――その点で言うと、最近はTVerがあり、4月11日から放送同時配信「リアルタイム配信」も民放キー5局がそろいますが、テレビ画面とスマホ画面で見方が変わるという状況で、どのような意識をされていますか?

横井： 2015年の「AbemaTV」の立ち上げからやって、今は『ABEMA NEWSチャンネル』全番組のデザイン統括という立場なのですが、やっぱりテレビとスマホでの作り方はかなり変わってきています。単純に画面サイズだけの話でなく、テレビに対して、スマホだとデバイスとしての身体的な距離感が近く、心地よいデザインという観点でUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)を作っています。この対談でも奥行きの話がありましたけど、『ABEMA NEWS』では一眼レフのカメラを導入するなど工夫して被写体にフォーカスを当て、無駄に主張し過ぎないシンプルな画面を目指しています。基本、24時間365日いつでも使ってもらえたらという感覚ですかね。

  • 『ABEMA NEWSチャンネル』全体で統一された各番組のロゴ

  • 開放的なスタジオ(上段)と『ABEMA 倍速ニュース』画面イメージ

木月：『報道ステーション』のセットは、ニュース番組なのに、ものすごく広いセットを作ってますよね。

横井：僕は担当ではないんですが、『ニュースステーション』の時代から重厚で懐が深いセットを作る文化があるように思います。材質にもこだわっていて、過去には本物の石を多用したり、現在は木材や和紙をトンネル状に配置して時空をワープしているかのようです。

――『ニュースステーション』がアークヒルズから六本木ヒルズにスタジオを移転したとき、久米宏さんの降板で残り半年で番組終了が決まっているのに、ものすごい豪華なセットを建てていたのがすごいなと思って、とても印象に残っています。

横井：やっぱり局の顔なので、総力を挙げて作っています。ただ、今は豪華だったらいいという時代ではなくなってきているので、どこでどんなデバイスで見られるかによって、セットの作り方も変わってきています。

鈴木：スマホなどに関しては本当にUI/UXに尽きると思います。まずは思った通りに感覚的にソースにたどり着けなければいけないですし。デバイスによっては美術をシンプルにしておかないと情報過多になってしまったり、ワイプ画面で見ながら別のページも見たりするので、よりフレームを意識したデザインにしたりしなければならないです。そこまで意識が行っている必要があるのですが、業界では横井以外まだあまりできていないかもしれないですね。