芝浦工業大学工学部土木工学科の楽奕平准教授、東京大学大学院工学系研究科の加藤浩徳教授らの研究グループは、このほど「車内混雑率が高いほど費用効率は低下するが、収入効率は高くなる」とする研究成果を公表した。
首都圏における車内混雑の緩和は長年続く社会的課題だが、人口減少に伴う交通需要の伸び悩みもあり、車両増備や駅ホームの拡張などの設備投資は十分に行われていないのが現状。そのため、首都圏の鉄道路線の多くが、政府の定めたピーク時平均車内混雑率の目標値である150%を超える高い車内混雑率に悩まされている。
同グループは、鉄道の運行効率や鉄道事業者の財務パフォーマンスに関する実証研究において、車内混雑はこれまでほとんど考慮されてこなかったことに着目。これまで財務パフォーマンスの評価に広く用いられてきた諸要因に加え、車内混雑の側面も考慮して都市鉄道のパフォーマンスを評価することを目的に、首都圏の主要18路線を対象に効率性(運行効率、コスト効率、収益効率)を分析した。
その結果、鉄道の運行効率向上には「車両キロ(列車キロ×編成両数)」と「車両定員」の2つの要素が影響すると判明。人件費・営業費の削減と運輸雑収入の増加が、費用と収入の効率改善に寄与することも示された。車内混雑率は費用効率と負の相関があり、収入効率、とくに雑収入と正の相関を持つことも明らかに。これらを踏まえ、同グループは「車内混雑率が高い路線が必ずしも高い財務パフォーマンスを持つとは限らない」とした。
「各路線の効率性を向上させるための施策検討に繋がる本研究は、今後、首都圏の各路線を運営する鉄道会社の事業戦略立案に貢献することが期待される」と同グループ。今後はより細かな路線別データを用いることによる分析精度の向上や、地域間鉄道、高速鉄道、地方鉄道など複数の種類の鉄道サービスを提供している会社の実証分析、主要都市間での鉄道運営効率性の国際比較などを検討しているという。