キリンホールディングスは、「ペットボトルを取り巻く環境課題とキリングループの取り組み」と題したラウンドテーブルを3月23日に実施、ペットボトルリサイクルが抱える課題や、それに対する同社の取り組みについて発表が行われた。

ペットボトルリサイクルが抱える2つの課題

まずキリンホールディングス CSV戦略部主幹 門脇寛氏より、「プラスチックを取り巻く課題とペットボトル」について解説が行われた。

海洋プラスチック問題をはじめプラスチックに関する環境課題が注目されるなか、「ペットボトルは環境課題の中では優秀な容器です」と門脇氏。「ペットボトル=悪」のイメージがあるかもしれないが、プラスチック製品の生産量全体でみるとペット素材の生産量は3.5%、また海の漂流ゴミに占める割合も低いという。おいしさを安定的に保つこと、軽く割れにくいといった利便性、リサイクルできること、比較的炭酸ガスの発生が少ないなど、環境から見ても、また容器包装としても優秀な素材だ。日本におけるリサイクル率も88.5%と、欧州の40%弱、米国の18%と比べると高い数値を誇る。

しかし、リサイクルに関して2つの課題があるという。ひとつは「ペットボトルの持続的な循環」が未完成であること。回収されたペットボトルが再びペットボトルとしてリサイクルされる割合は15.7%と低く、多くはシートや繊維などとして再生される。こうなると再びペットボトルになることはないため、ペットボトルとして循環させ続ける必要があるという。

もうひとつの課題は「廃ペットボトルのロスをなくし、回収し続けること」。資源として回収しても異物や汚れでリサイクルできなかったり、可燃・不燃ごみに混入してごみとして処理されてしまうこともある。自動販売機専用容器での回収も、タバコや酒類容器など異物が混入する割合は約3割。混入により輸送効率が下がったり、リサイクル時の品質にも関わってくるという。

そのような背景もあるなか、キリングループでは環境ビジョン2050として「ポジティブインパクトで、豊かな地球を」というテーマを掲げ、容器包装の分野では「プラスチックが循環し続ける社会」を目指す。環境に配慮した商品を通じたユーザーとのコミュニケーション、回収ルートの整備・拡大、ケミカルリサイクル技術の実用化など、具体的な検討に着手している。

環境フラッグシップ「生茶」はボトルをリニューアル

続いてキリンビバレッジ 企画部担当部長の大谷浩世氏から、キリングループの具体的な取り組みについて説明が行われた。

同社の「プラスチックが循環し続ける社会」に向けた取り組みは、大きく分けて「容器・包材」「ペットボトルの回収」「技術開発(ケミカルリサイクル)」の3つの柱があるという。これに基づき、2027年にはペットボトルのリサイクル樹脂比率50%を、また2050年にはリサイクル材やバイオマスで持続可能性100%を目指していく。

「容器・包材」については、環境フラッグシップの「生茶ブランド」を中心に、ブランド体験を通じた環境・物流取り組みを推進する。この4月には「キリン 生茶」に新容器を採用し、パッケージのラベルを短尺化、ラベルにおけるプラスチック使用料を、従来よりも約40%、年間約180t削減する。また新容器の形状を円筒型から角型に変更したことで、1パレットあたりの積載効率が1.25倍となる。

「キリン 生茶」(555ml)では再生PET樹脂を100%使用した「R100ペットボトル」の順次導入拡大を年内に実施、石油由来樹脂の使用量や製造時のCO2排出量の削減を狙う。

ラベルレス商品においても、包材の見直しや新商品の展開を行っていく。「キリン 生茶 ラベルレス6本パック」は紙製包材を短尺化することで、ユーザーに向けてラベルレスをさらに訴求する。また「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖 ラベルレス」と「キリン ファイア ワンデイ ブラック ラベルレス」 を5月24日よりEC限定で発売開始、ラベルレス商品の選択肢の幅を広げる。これにより年間約4.5tのプラスチック使用量削減を見込むという。

「ペットボトルの回収」では、ローソンと共同で行っているペットボトルの店頭回収実証試験に関する報告が行われた。この取り組みは、ローソン店頭に空ペットボトル回収機を設置し、ユーザーから直接使用済みペットボトル回収、キリンが自動販売機オペレーションルート車両を活用して収集しリサイクラーに搬入するシステムだ。

試験の結果、ラベルやキャップの付いていない高品質なペットボトルを回収することができたという。ユーザー自身が回収に参加することで、環境貢献の認知にも繋がるこの取り組みは、2022年内には新たに横浜市内の数店舗へ増設する予定だ。さらに2022年6月からは埼玉エリアのウエルシア薬局190店舗でも実施、回収したペットボトルを新たなPET原料としてリサイクルし、再商品化する「ボトルtoボトル」のリサイクルモデルの実証実験を行っていく。

メカニカルリサイクルのメリットとは?

「技術開発(ケミカルリサイクル)」に関しては、キリンホールディングス R&D本部 パッケージイノベーション研究所 主務 大久保辰則氏より解説が行われた。

ペットボトルのリサイクル方法は、大きく分けて2つあるという。現在主流となっている「メカニカルリサイクル(物理的再生法)」は、廃ペットボトルを選別、粉砕、洗浄して汚れや異物を取り除いた上で、熱や真空により揮発成分の除去や物性調整を行ったペットに調製する方法だ。メカニカルリサイクルは技術的なハードルが低い一方、繰り返しリサイクルをしていくと品質が低下する課題がある。

一方、「プラスチックが循環し続ける社会」を実現するためにキリンが重要視する「ケミカルリサイクル(化学的再生法)」は、廃ペットボトルをペットの分子レベルまで分解・精製したものを再びペットに合成するという方法。繰り返しリサイクルをしても品質劣化が無く、ペットボトル以外の素材も原料にできる。だがまだ国内で実用化しているのは1社のみ、さらにコスト面の課題も抱えている。

しかしケミカルリサイクルを活用するメリットは大きいと大久保氏。PET樹脂の生産・輸入量は約182万tと言われるが、メカニカルリサイクルの場合、再資源化できる対象は、ペットボトル販売量の約55万tにとどまる。しかしケミカルリサイクルを活用すると、廃ペットボトルだけでなく、フィルムやシートなどのその他廃ペット約127万tを加えた約182万tが再資源化の対象となるため、リサイクル量の拡大が見込めるという。

ケミカルリサイクル実用化に向けて、キリンは三菱ケミカルと2012年より共同プロジェクトを実施している。廃ペットボトルの回収量不足やペットボトル解重合技術の未確立などボトルネックはあるが、両者の強みを活かして持続性のある技術・事業に取り組み、「キリングループ プラスチックポリシー」の2027年目標達成に向け、ケミカルリサイクルしたペットボトルの使用開始を目指すという。

また新技術として酵素を触媒としてPET樹脂を分解する「酵素分解法」の研究も取り組んでいる。キリングループの強みである「発酵・バイオテクノロジー」を活かし、静岡大学および自然科学研究機構とともに、2022年1月より共同研究をスタートした。他にも資本業務提携を行うファンケルとは、化粧品容器のケミカルリサイクル化に向けた協業を推進、国内の化粧品業界では初となる「ペットボトルのキャップ由来再生樹脂」を化粧品容器に採用した。

この4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」の施行も始まり、社会の関心はさらに高まるだろう。容器包装のプラスチック削減とリサイクル推進、使用済みペットボトルの回収ルート拡大、そしてケミカルリサイクルの技術開発など、キリンがどのような取り組みを行うのか今後も注目していきたい。