鏡型のデバイスを通じて、自宅にいながらプロが監修するトレーニングプログラムを受けられるオンラインサービス「MIRROR FIT.」。

コロナ禍による運動不足が問題視される中で、自宅で効率的に、かつ楽しく運動できるサービスとして注目を集めているが、どうやら個人利用だけでなく、最近では企業が導入する例も増えているという。

  • コロナ禍による運動不足が問題視

これまでのフィットネスサービスと比べ、何が新しく、どんなメリットを我々にもたらしてくれるのか、同社の代表取締役社長、黄皓さんに話を聞いた。

MIRROR FIT.開発の裏にあった経営者の哲学

  • ミラーフィット 代表取締役社長 黄皓さん

黄さんは上海の貿易物流会社の代表取締役とトレーニングジム「BESTA」の経営者も務める傍ら、2020年7月にミラーフィット株式会社を創業。黄さんによると、MIRROR FIT.は「運動に対するいろんなハードルを取り除き、運動を習慣化させるために作り出したプロダクト」だと言う。

MIRROR FIT.開発の背景には、パーソナルジム経営者ならではの視点があった。

「パーソナルジムを経営していて思うのは、ジムに通い続けるというのはやはり奇跡的だということです。やる気があっても天候が悪かったり、予約が取れなかったり、スケジュールに空き時間があっても、前後の予定的にジム道具を持ち歩けなかったり……。それでも毎日ジムに通っている人は偶然の積み重ねの結果で、本当に奇跡的だとしか言いようがありません(笑)。それほど、ジムに通い続けるのはハードルが高いことなんです」

ジムに行きたいけど行けない。そんな状況が続くことで、いつしかジム通いをやめてしまった人は多い。黄さんは、そんな"奇跡"に恵まれなければ運動できない状況は「間違い」と断じる。

「100人いたら100人全員がフィットネスできる環境にしたいと思い、まずは価格を下げて月額2万9,800円の『パーソナルジムの通い放題サービス』を始めました。一般的には1回1万5,000円が相場ですから、月に2回通えば元が取れます。これは業界に価格破壊を起こし、大流行しました」

しかし、と黄さんは続ける。

「金銭的なハードルを下げても、今度は『家から遠い』という時間の問題があります。そこで、ジムとマンションの一体型物件をプロデュースしたところ、うまくいきました。ただ、全国に広げるのは予算的にも時間的にもハードルが高い。次は場所の問題とにらんで、フィットネスのオンライン化というアイデアが出たのです」

  • オンラインサービス「MIRROR FIT.」 画像提供:ミラーフィット

自宅でも飽きない! MIRROR FIT.が画期的である理由

オンライン化を目指す黄さんにはコロナ禍も追い風だった。

「コロナ禍で需要が高まり、アメリカではフィットネスバイクが大流行していますが、日本は家が小さいので、場所を取るフィットネスバイクは浸透しません。でも、鏡は1,800年前から日本に置かれているもので、これを邪魔に思う人はいません」

そんな発想から「鏡型」となったMIRROR FIT.。そのサービスには、主に(1)ビデオ・オン・デマンド、(2)ライブ配信、(3)マッチングの3つの軸があると話す。

「ビデオ・オン・デマンドは約500の収録コンテンツの中から好きなものを視聴し、運動ができるサービスです。フィットネスだけでなく、ダンスやピラティス、瞑想、ゴルフ、バレエ、キッズ向けコンテンツなど、幅広くそろっています。

ライブ配信は、週3回スタジオからトレーナーのレッスンを生配信し、参加者同士でチャットなども楽しみながら一緒に運動ができるサービスです。ちょうどインスタライブのようなイメージですね。マッチングは今後のローンチになりますが、好きなトレーナーをチョイスし、マンツーマンでレッスンが受けられるサービスになります」

さまざまなメリットがある中で、黄さんが特に重要視するのは「鏡を通すことで正確な運動ができること」である。

というのも、今はYouTubeなどのフィットネス動画なども流行っているが、ただモニターを見ながら真似するだけでは正確な模倣は難しい。運動の効率は下がり、下手すれば怪我のリスクも生まれてしまう。その点、MIRROR FIT.は事情が違う。

「鏡ですから、トレーナーの動きに重ねて正確に運動できますし、正確性をスコアリングするカメラ機能も付いています。また、つらい時もトレーナーや他の参加者が鼓舞してくれるので、みんなで運動しているという疑似体験もできます。この飽きにくさもMIRROR FIT.のポイントですね」

  • AIによるスコアリングシステムで採点する 画像提供:ミラーフィット

自宅で一人で行うトレーニングは環境も変わらず、他人とのコミュニケーションも生まれないため、マンネリ化しやすいという難点がある。しかしMIRROR FIT.は、ビデオ・オン・デマンドの収録コンテンツにもゲーム性を持たせるなど、飽きさせない仕掛けが用意されている。

「AIによるスコアリングシステムはカラオケの採点機能のようなエンタメ性があります。また、オンラインで全国ランキングなどにも参加できるなど、射幸心をくすぐる工夫を数多く凝らしました」

さらに、鏡が身体をボディスキャンし、全身のサイズを測ることができるシステムもアプリ内に搭載予定。イメージとしては、話題となった「ZOZOスーツ」に近い。

「この機能によって、『先週より腰回りが太ったから、ウエストに効くフィットネスをしよう』『太ももがまだ細いからスクワットをしよう』といった具合に、効率的な運動に取り組めます。そして、ゆくゆくはファッションとも連携して、オンラインで自分のサイズに合った洋服を選びやすくする仕組みも作っていきたいですね」

ホテルでの導入や企業も注目

実は本サービス、個人利用だけでなく、ホテルなどにも導入実績がある。一例を挙げると、フォーシーズンズやハイアット、マリオットなど、名だたるラグジュアリーホテルの名前がずらりと並ぶ。では実際、どのように活用されているのだろうか。

「ホテルのジムで密になるのを避けるために部屋で使ったり、帰国後の隔離期間中に利用したりする方がいるそうです。中には『MIRROR FIT.付き宿泊プラン』を用意してくださっているホテルもあって、そちらも多くの予約を頂いていると聞きます」

さらに企業が同サービスに注目している点も見逃せない。

「企業が社員のための福利厚生として、社宅に導入するという動きもありますね。昨年12月から、社宅サービスのマイナビBizさんと『マイナビSTAY FIT』という新しい部屋づくりでの提携もしています。今後はもっとそうした利用も増えてくるのではないでしょうか」

経済産業省が「健康経営」を発信したり、人材確保のため企業が導入したりするのは、少子・超高齢社会による若い世代の人口減少が背景にある。そうした課題解決の一つとして同サービスが活用されるのは不思議ではないだろう。

発売から2年足らずの間に存在感を高めているMIRROR FIT.だが、今年は販売数も増やし、さらなるサービスの拡充も予定。2月中旬からは、クラウドファンディング「Makuake」で販売するという。今後も注目していきたい。

取材協力:黄皓(こう・こう)

早稲田大学卒業後、三菱商事株式会社へ入社。トレーディング業務に従事し、メキシコでの海外駐在も経て退社。その後、家業で国際物流の事業を経営しつつ、RILISIST株式会社を設立し、現在は全国で約15店舗のパーソナルジム兼セルフエステの受け放題サロンを経営。20年にはミラーフィット株式会社を設立。