上場企業が2021年に募った希望退職者数は1万5892人に達し、2年連続で1万5000人を上回りました。コロナ禍による業績悪化の影響が大きいとみられます。そうした状況で、早期退職について考える人は増えているように思います。そこで、早期希望退職に応じるのは損なのか得なのかを、金銭面だけでなく、退職後の生活やキャリア、生き方も含めて考えてみたいと思います。

早期退職は2種類ある

早期退職には、会社の制度として設けられ、随時募集がある「早期退職優遇制度(早期退職制度)」と、会社の業績悪化や経営再建を理由として、期間と人数を限定して退職者を募集する「早期希望退職制度(希望退職制度)」があります。これらは厳密に名称が決められているわけではなく、両者をまとめて「早期退職制度」と呼ぶこともあります。

意味合いとしては、業績に関係なく制度の一つとして選択できる早期退職と、業績の回復や構造改革を目的に、人件費を減らすために行う早期退職の2種類があることを理解しておきましょう。

早期退職優遇制度

会社の制度として設けられている早期退職制度は、その企業の恒常的な仕組みとして導入されているため、随時募集があるのが特徴です。定年前に退職を望む従業員に対して、優遇措置を設けて自主的な退職を促す制度になります。そのため、退職理由は「自己都合による退職」となるのが基本です。

早期希望退職制度

希望退職制度は、業績悪化や将来のリスクに備える目的で、定年前の従業員に対して期間を定めて募集が行われます。退職金の割り増しや再就職の斡旋などの優遇措置が設けられるのが一般的です。端的に言えば、会社都合の人員整理となりますが、「希望」と名が付くとおり、あくまでも従業員の意思によるもので、会社が強要するものではありません。ただし退職理由は「会社都合による退職」となるのが基本です。

退職理由による基本手当の違い

退職理由によって雇用保険の基本手当の支給開始日や給付日数が異なります。

仮に基本手当の日額が8,000円だった場合、自己都合による退職では、総額120万円の給付となりますが、会社都合による退職では、総額264万円の給付となります。

早期希望退職は損なのか得なのか

退職金の上乗せはどのくらい?

早期退職のメリットは退職金を上乗せしてもらえることでしょう。どのくらい割り増しとなるのかは、企業ごとに異なるので一概にはいえません。退職者全員に一律の金額を支給するところもあれば、勤続年数や年齢、職種によって金額を設定するところもあります。 相場としては年収の1年分から2年分を上乗せするケースが多いようです。

厚生労働省が行った「平成30年就労条件総合調査(退職給付の支給実態)」によると、早期優遇退職をした人の平均退職給付額は2,326万円※となっています。

※勤続20年以上かつ45歳以上の退職者

  • 「平成30年就労条件総合調査(退職給付の支給実態)」より引用

早期退職の損得を金額で比較する

早期退職の損得を単純に金額面で比較すると次のようになります。

・プラン1=(辞めずに定年まで続けた場合の給料の総額)+(本来の退職金)
・プラン2=(早期退職によって割り増しされた退職金)+(これから定年までの期間に得られる収入)

プラン1とプラン2の金額を比較すればいいわけですが、そもそもプラン2の「これから定年までの期間に得られる収入」が明確でないと比較ができません。また、この比較は本来の定年までに得られる収入での比較です。その後も人生が続くことを考えると、この比較はあまり意味をなさないといえます。

年金額にも影響する

早期退職したあとに、再就職をして厚生年金保険に加入すれば、老齢厚生年金の額は増えますが、退職前の給料よりも下がる可能性が高いので、退職せずに続けた場合よりも年金額は減るでしょう。また、退職後、個人事業主になって再スタートをするような場合は、国民年金に加入することになるので、年金額はさらに減ることが考えられます。

再就職は容易ではない

ある程度のキャリアを積んできた人でも、一旦会社から離れてしまうと再就職は非常に困難になります。そのため、早期退職をして、その後もいい条件で働きたいと考えている人は、在職中に人的ネットワークを利用して次の就職先を見つけておくとよいでしょう。

早めにセカンドキャリアを構築できる

人生100年時代といわれるようになり、60歳あるいは65歳の定年後も働き続けることが一般的になりつつあります。定年後はまったく別の仕事をしたい、のんびりと短時間だけ働きたい、起業したい、などなど、第二の人生を考えなければならないほど定年後の時間は長くなっています。早期退職はこのような第二の人生におけるセカンドキャリアを早めに築くことができるメリットがあります。

65歳で退職して、そこから新しい仕事を始めるケースと、55歳で退職して、新しい仕事を始めるケースを比較した場合、そこから80歳までに得られる収入はどちらが多くなるのか、という比較も必要でしょう。

まとめ

早期退職は損なのか得なのかを考えてきましたが、個々の状況やその後の生き方にも関わる問題なので、はっきりとした答えはありません。

定年まで勤めあげた方が、年金額も多くなるので、早期退職に応じない方がいいという考えもあれば、そもそも早期退職を募る状況からその企業の将来性に不安があるので、早期退職をして、次の就職先を探した方がいいという考えもあります。また、セカンドキャリアを求める場合、求めない場合でも答えは変わってくるでしょう。

いろんな角度から検討して、後悔のない選択をしてほしいと思います。