2年連続となった紅白歌合戦出場や、昨年の「東京2020オリンピック」閉会式での歌唱など、メジャーデビューは2019年とまだ数年のキャリアながら、猛烈な勢いで音楽界に新風を吹き込んでいるシンガーソングライターのmiletにインタビュー。

『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』『君の名は。』などで作画監督を務めてきた異才アニメーター・安藤雅司氏が監督デビューを果たしたアニメーション映画『鹿の王 ユナと約束の旅』で、彼女は主題歌「One Reason」を手掛けている。2015年度の本屋大賞を受賞し、圧倒的なスケールで魅了する上橋菜穂子氏の小説『鹿の王』をもとにした本作について、もともと『もののけ姫』が大好きというmiletが感じた魅力や主題歌に込めた思い、さらには「研究家気質」だというmilet自身の性格や、子ども時代のかわいくも驚きのエピソードなども聞いた。

milet 撮影:望月ふみ

milet 撮影:望月ふみ

■愛することには覚悟が必要だと感じた

——主題歌に関して、安藤監督から何かリクエストはありましたか?

「壮大なバラードを」というリクエストをいただきました。

——ではバトンを受け取って。

大きなテーマだけいただいたので、細かい部分は託していただいたと感じました。動物も大好きですし、自然も大好きですし、安藤監督が作画監督をされた『もののけ姫』がものすごく好きで、小さなころから何度も何度も観てきました。『鹿の王』のピュイカもヤックルを彷彿とさせるものがあったりして、懐かしくもありつつ、でも謎の病ですとか、今とすごくリンクしたものや新しい要素を感じて、映画を観たときには、今までにない作品を観ている感覚になりました。

——主題歌を制作するうえで、特に大切にされたことは?

愛することには覚悟が必要なんだというのを、この映画を観て、原作を読んですごく感じました。ただ愛するだけならできると思いますが、何があっても愛し抜く覚悟というのが、ヴァンとユナの間に感じることができて、それがすごく大きなテーマだと思ったので、その様子を自分の曲の中にも入れて思いを寄せました。

——もともと安藤監督の絵がお好きとのことですが、本作のなかで、映像として特に印象に残った箇所を教えてください。

パンチがあるなと思ったのは、ユナに向かって走ってきたイノシシを、ヴァンが立ちはだかって腕1本で吹っ飛ばすシーンです。ぶお~! ってすごい迫力でしたし、動物が一瞬収縮してから吹っ飛ぶというあの表現はすごいなと思いました。それからピュイカとヴァンの出会いのシーンで、ピュイカの首元をグッと押して一瞬で手なずけてしまうところ。安藤監督の動物の描き方は、やっぱりすごいなと思いました。あとヴァンは強いなと。憧れます。

——miletさんは動物もお好きとのことですが、もしも動物を自分の相棒にできるなら、どんな動物を相棒に?

私は一番好きな動物がハイエナなんです。いろんな動画サイトでハイエナの映像を見ています。あんな危険な動物のハイエナを抱きしめている人とかもいるんですよ。それが羨ましくて羨ましくて。だから迷いますよね。ハイエナと相棒になれるなら、歌手を続けるか、それともハイエナと一生添い遂げるのか。選択を迫られたら本気で悩みますね。

——ええ! それほどまでにお好きなんですね。

でもそういったことは多分ないので、今は歌手で頑張りたいと思います(笑)

■今の歌声は研究して導き出した

——デビュー以降、すごい活躍を続けられていますが、支持されていると実感することはありますか?

買い物でお店等に行ったときに、自分の曲をアレンジしたような曲が流れてきたりして。そういうのを聞くと嬉しいです。あとやっぱり色んな場面で曲を作ったり歌を歌うことを任せていただけるようになって、「miletさんにお願いします」と言っていただけるようになりました。それはすごく自信に繋がっています。

——ファンの声はいかがですか?

昨年は初めて全国ツアーをすることができました。コロナ禍ということもあり、ツアーも中止になったりして、ファンの人ともなかなか会えなかったのですが、いざ全国を回ると、本当にたくさんの方が待っていてくださったんだなと実感できました。「ああ、この人たちのために歌ってきたんだ。これからも歌えるんだ」と感じられてすごく嬉しかったです。

——miletさんの楽曲は歌詞はもちろんのこと、歌声そのもの、声も魅力的で、本作のバラードも非常に耳に心地よく入ってきます。歌手デビュー以前、ご自身の“声”については意識していましたか?

全然意識したことがありませんでした。歌でやっていこうと思ってから、歌声を意識して試行錯誤していった感じです。もともと印象に残らない歌声だったんです。それで人の耳に残るのはどういう歌声だろうと、自分の歌声がどこまで変われるのかと研究して少しずつ変えていって、今に至ります。なのでもともとの自分の声、歌声は好きでも嫌いでもありませんでした。

——導き出した歌声とのことですが、今の歌い方はmiletさんにすごく合っていますね。

もともと自分が好きだった歌、曲を歌ったときに合うような歌声がいいなとも思っていました。最初の頃は曲作りも全然したことがありませんでしたが、逆にこの歌声を生み出してからは、歌いたい歌を自分で作っていけるようになったのも楽しかったです。自分が聞いていて心地よくて、ずっと歌っていたくなるような声になりたいと思って改造しました。

——miletさんは、研究家気質なんでしょうか。

そうだと思います。ひとつの事にすごく熱中します。学生時代から図書館が大好きで、自分の好きなものに没頭していました。特に大学時代は映画の研究が好きで、1本の映画を研究するとなったら、その監督さんの書いた本を片っぱしから読んで、勝手にファイリングしてました。

——課題だったわけではなく?

ではなく。ずっと自分で保管していたくて。監督がその映画をリリースしたときに掲載されていたインタビュー記事とか、その監督と仲の良い監督が、著書の中で書かれているその監督とのエピソードにマーカーしたり。オタク気質なところはあると思います。

——その気質を歌に向けられているのは素晴らしいですね。

そうですね。こだわりが強いので、歌声に関してもそうですし、曲制作についてもどんどん勉強中です。それは同時に、自分の知らない自分を勉強していくという意味でもあります。私は曲作りをセッション、即興でしていきますが、そこでご一緒するプロデューサーさんたちのやっていることをじ~っと見て、音楽理論なんかも少しずつ学んでいて楽しいです。

■子ども時代、有り余る好奇心から家の柱をガブリ!?

——感性もとても豊かなのだと思いますが、子ども時代にこんなに好奇心が旺盛でしたといったエピソードはありますか?

母から「凄すぎたから子ども時代のことは言わないで」と言われてるんですけど(苦笑)。たとえば五感で感じたいという思いがあったのか、いろんなものをかじる癖があって、「この柱、クッキーの匂いがする」と言って、家の柱をかじったりしてました。

——ええ?

(笑)。そうしたこととは別に、今思うとちょっとこれは危険だなという行為もしていました。さすがに今は危険ことはしませんが、好奇心旺盛な部分は残っていると思います。

——ご自身の中で、保ち続けたい思いを教えてください。

歌い始めるきっかけになったのが、ひとりの友達が少し心を病んでいたときに、その子のために歌ったら感動してくれたことがあって、そこから歌を歌おうと決めたんです。なので今でも、私の歌声をひとりでも聞いてくれる人がいるなら、その人のために歌いたいと思っています。ライブではお客さんがたくさんいますが、どの人とも一本の線で繋がっている、これからも一対一という思いはずっと大切に心がけていきます。

——昨年のツアーでもファンとの絆はより感じられたでしょうね。

そうですね。自分がお客さんとして観に行ったりすると「自分のこと、見てくれているかな?」と思いますが、「見てるよ」と伝えたいです。ステージじゃなくても、今はSNSなどでも皆さん応援してくださっているのが分かりますし、みんなが思っている以上に私は見ています(笑)。「最近、この子リプライないけど、どうしたんだろう」と追いかけに行くくらい気にしてますから。顔も知らない、文字だけで繋がっているような人たちのことも、自分はこんなに好きなんだと思えたのも、この仕事を始めてから経験したことです。やっぱり私は人が好きなんだと改めて強く思いますし、愛に生かされていると感じています。

——ありがとうございます。最後に、本編の最後にご自身の歌が流れるまでをご覧になっていかがでしたか?

スケール感の大きな世界に負けないか心配でしたが、すごくぴったりな曲ができたとホッとしました。今の世の中にリンクするところもあって、ファンタジー映画ですが、すごく現実的でもあります。そして会いたい人たちに、早く連絡して声を聞きたいと思える映画です。私は観終わってすぐに親に連絡しました。映画も原作も、両方楽しんで欲しいです。そして私の曲が物語と重なっているのがとても嬉しかったですし、逆にこの曲も『鹿の王』によって、どんどん世界を押し広げてもらえたと嬉しく感じています。

■milet
2018年より本格的に音楽活動を開始。翌年、1st EP『inside you EP』でメジャーデビューを果たす。タイトル曲の「inside you」は、ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』オープニング・テーマに抜擢された。2020年、第71回NHK紅白歌合戦に初出場。21年6月~7月には自身初となる全国ツアーを行った。また東京オリンピックの閉会式にて東京スカパラダイスオーケストラの演奏で「愛の賛歌」を歌った。年末には2年連続でNHK紅白歌合戦に出場。今年2月に2ndフルアルバムを、3月に8thEPを発売予定。

(C)2021「鹿の王」製作委員会