アメリカのリビアン・オートモーティブは、「ネクスト・テスラ」(次のテスラ)とも評される新興EV(電気自動車)メーカーだ。そのリビアンの新車に、ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジーという日本企業が作る「フィルム」が採用されていると聞いたので、話を聞いてきた。
日本発の「フィルム」が選ばれた理由
リビアンは2009年設立のEVメーカー。出資者はアマゾン、フォード、住友商事などで、2021年11月にはNASDAQに新規株式公開(IPO)を果たした。このIPOは同年で世界最大規模になったという。リビアンはアマゾンと共同で商用EVを開発し、すでに10万台以上を受注済み。乗用車としてはピックアップトラック「R1T」の出荷を始めており、今後はSUVの「R1S」も発売する予定だ。
R1Tが装着する「スキッドプレート」というパーツに、ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー(以下、ウェーブロックAT)の「金属調加飾フィルム(サテン調)」が採用された。スキッドプレートはクルマの前後に装着し、地面と接触した際に車両下部が損傷するのを防ぐパーツ。これまではABS樹脂やポリプロピレン樹脂にメッキを施して作るのが一般的だったが、リビアンはウェーブロックATのフィルムを表皮材に使用することを決めた。
ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー代表取締役 兼 執行役員社長の島田康太郎さんによると、リビアンに同社のフィルムが採用された理由はいくつかある。まずは「環境」だ。カーボンニュートラルを目指すリビアンには、クルマづくりにおいて塗装やメッキといった電力を多く使う工程を減らしたいとの考えがある。メッキに比べてコンパクトな設備で製造できるフィルムは、製造過程での電力消費がメッキよりもだいぶ少なくて済む。そこが評価されたそうだ。
とはいえ、R1Tはけっこう高価なピックアップトラックなので、デザイン上、金属(メッキ)のパーツは取り付けたいところ。そんなデザイナーの要望に「金属感」を再現したウェーブロックATのフィルムが合致したという。
もうひとつの評価ポイントは「採用実績」。ウェーブロックATはトヨタ、GM、フォードなどに金属調加飾フィルムを納めた実績がある。トヨタ車のホイールキャップやシボレーの黄色い十字のエンブレム、フォード「マスタング・マッハE」の馬のマークなどにも同社のフィルムが使われているそうだ。
自動車業界の変革は大チャンス?
自動車業界は「100年に1度の大変革期」を迎えているといわれる。電動化の進展はめざましく、多くのメーカーが早晩、販売するクルマの大部分あるいはすべてをEVにすると宣言しているほど。運転の自動化もますます進んでいきそうな情勢だ。急速な変化に業界からは「危機感」のこもった声も聞こえてくるが、ウェーブロックATにとってこの状況は「今までにないくらいの、ものすごいチャンス」(島田社長)だという。
それというのも、クルマの外装にメッキや塗装ではなくフィルムを使う意義が高まっているからだ。金属調加飾フィルムはメッキや塗装などの既存工程よりも作るのに必要な電力消費が少なく、環境に優しい素材であることはリビアンの件でも証明済み。金属とは違い、光も電波も通すというフィルムの特性もこれからのクルマづくりにフィットしそうだ。金属に比べれば軽いフィルムは、航続距離を延ばすためにEVを軽く作りたいというメーカーの望みにも適うだろう。
例えば、フィルムの採用が増えそうなのは自動車のフロントグリルの部分だ。エンジンを積むクルマは、空気を取り込むためにグリルが網状になっているが、最近のEVを見ていると、その部分は大きなパネルになっていることが多い。パネルはたいがい樹脂製だが、その表皮材として金属調加飾フィルムの出番が増えそうなのだ。
グリルはクルマの顔となる部分なので、樹脂製のパネルになったとしても、その部分を光らせたいとか、変わった色にしたいとか、デザイナーからはさまざまな要望が出そうだが、加飾フィルムであればカラーバリエーションは豊富だし、光を透過させることもできる。グリルの裏側に自動運転や先進安全システムに使うセンサー類を取り付けても、フィルムであれば電波を通すから問題ない。
これまでであれば、例えば海外の自動車メーカーなどは、「金属『調』は金属ではない。私たちは本物の素材にこだわっているのだ」といったような理由から、金属調加飾フィルムの採用に関心を示さない場合もあったかもしれないが、時代は変わってきた。海外の高級車で最近、シートに本物の革を使わなくなったりしていることなどを考えると、これからの素材選びで環境の観点は外せなくなるのではないだろうか。そんな意識の変化も、ウェーブロックATには追い風となるはずだ。
もちろん、この分野に商機がありそうだとみれば、大手化学メーカーなども参入してくるかもしれない。ただ、ウェーブロックATには実績を含め先行者利益があるし、自動車メーカーからの要望に対応したり、メーカーに提案したりする際には「(大手に比べると)ベンチャー企業のような規模なので、小回りが利く」(島田社長)ところも強みだという。