「ごぼう抜き」という言葉はマラソンや運動会などでよく使われますが、どうして野菜の「ごぼう」が使われているのか知っていますか? また、日常的に使っている「ごぼう抜き」の使い方は本当に正しいのでしょうか。
この記事では、「ごぼう抜き」の意味や由来、正しい使い方について解説します。また、「ごぼう抜き」以外にも野菜を使った表現が多くありますので、あわせて紹介します。
「ごぼう抜き」の意味
「ごぼう抜き」は「多くの中からひとつずつ勢いよく引き抜くこと」、または「大勢の中から1人を引き抜く」という意味があります。マラソンや運動会以外にも、面接やオーディションでも使われている表現です。
「ごぼう抜き」の由来
「ごぼう抜き」の由来は、ごぼうを土の中から引っ張り出す様子と考えられています。複数のごぼうを一度に引っ張り出すのは難しく、一本ずつ引き抜いて収穫します。抜きにくいごぼうを引き抜く様子を、人に見立てたことで「ごぼう抜き」という言葉が生まれました。
「ごぼう抜き」は誤用表現?
「ごぼう抜き」にはマラソンや徒競走などで複数の人を一気に追い抜くといったイメージがあるかもしれませんが、それは本来の意味ではありません。
しかし、最近では国語辞典に掲載されたり、実況中継で用いられたりして、一般的な使い方になってきました。もともとは誤用とされていましたが、いまでは表現として認められつつあるようです。
「ごぼう抜き」の類語
大勢の中から優秀な1人を見つけ出すという意味の「ごぼう抜き」と似た意味合いの類語を紹介します。
「ごぼう抜き」の本来の意味との言い換えと、一気に追い抜くという現代の意味の言い換え、それぞれ覚えておきましょう。
引き抜き
「引き抜き」は、技術者など技能を持っている人を外部から内部に引き抜くことを意味します。「ごぼう抜き」とは、大勢いる人材の中から能力が高い人を選ぶという点で共通するといえるでしょう。
したがって、「引き抜き」は「ごぼう抜き」本来の意味の言い換え表現として使用できます。
ヘッドハンティング
ヘッドハンティングは、企業内で能力が高い人材を選び、その能力を必要としているほかの会社に紹介することをいいます。「引き抜き」とは反対の動きになりますが、大勢から優秀な1人を選ぶといった点では同じ意味合いです。
群を抜く
「群を抜く」は「ごぼう抜き」の現代の意味に似ている言葉で、ほかの多くのものや人よりも何倍もすぐれていることを意味しています。「群を抜く」は選ぶというよりは、抜きんでるといったニュアンスで用いられます。
追い越す・追い抜く
「追い越す」「追い抜く」も「ごぼう抜き」の現代の意味に似ている言葉です。先を行く者に追いついて、さらにその先に出ることを意味します。まさに徒競走などで一気に人を抜く場合で使われる表現ですので、「ごぼう抜き」と同じような場面で使用できます。
「ごぼう抜き」の使い方と例文
ここからは、「ごぼう抜き」の使い方を例文で解説します。正しい用法をマスターして、日常的に活用していきましょう。
ほかの社員をごぼう抜きしてリーダーに任命された
まずは、大勢の中から1人を選び抜くという意味の「ごぼう抜き」の使い方です。例文のように使うと、ほかの社員を差し置いて能力を伸ばし、リーダーに任命されたという意味になります。
会社という大勢の中から選ばれたという意味で、ごぼう抜きを使っています。
駅伝の5区の選手がごぼう抜きをしました!
続いて、徒競走やマラソンなどでほかの選手を追い抜く様子を表した意味での「ごぼう抜き」の使い方です。前にいた選手を追い抜き、一気に抜き去っていく様子を表現したいときに使えます。
これは本来の意味ではありませんが、実況やスポーツ中継でも使われることからメジャーな表現となってきています。「ごぼう抜き」の2つの意味を覚えておくと、どういう意味で用いられているのかを判断できるでしょう。
「ごぼう抜き」以外の野菜の名前を使った言葉
「ごぼう抜き」のほかにも、野菜の名前が使われている言葉はたくさんあり、日常的に使われています。
ここでは、「ごぼう抜き」以外の野菜の名前を使った言葉を紹介します。
もやしっ子
「もやしっ子」は、もやしのようにひょろっとしていて、体力のない子どもを意味します。細長いもやしの形をイメージすると意味がわかりやすいでしょう。
「もやしっ子」はあまりいい意味では使用せず、子ども同士がからかうときに用いることも多い表現です。「やーい。もやしっ子!」など、ドラマや漫画で使われているシーンをみたことがある人もいるのではないでしょうか。
大根役者
「大根役者」は、演技が不得意な役者を馬鹿にした意味で使われる言葉です。「彼女は大根役者として有名です」とすると、演技力のない女優という意味になります。
語源は諸説ありますが「大根の色が白い」と「素人(しろうと)」をかけているという説が有力とされています。ほかにも、下手な役者のことを「馬の脚」とも呼ぶこともあり、それと似た形として大根が連想されたことにも由来するといわれています。
ほかにも、根はお腹を壊さない食べ物として知られており、演技が下手なこととかけて「あたらない」という意味が転じたなど、さまざまな説があります。
芋洗い
「芋洗い」は本来その文字どおり、芋を洗うこと、芋についた泥をかき回して洗うことなどを意味していました。その意味が転じて、混雑している様子やとても混み合っていることのたとえとして使われます。
なかなか意味が想像しづらいかもしれませんが、芋を洗う手順を想像すると導き出せそうです。
筍生活(たけのこせいかつ)
「筍生活(たけのこせいかつ)」は、筍の周りについている皮を1枚ずつ剥ぐ様子から、家計が苦しい中さまざまなものを削って暮らしている様子を意味する言葉です。筍の皮を衣類や持ち物、生活費などにたとえて、節約生活を送っていることを指しています。
「筍生活」は特に、第二次世界大戦後の苦しい状態を表した表現です。
「ごぼう抜き」の英語表現
「ごぼう抜き」は、英語で「overtake several people in a short time」と表現します。
「overtake」は追い越す・追い抜くという意味で、「several people」はたくさんの人々、大勢という意味です。さらに短い間を表す「in a short time」を付け加えることで「短い間に大勢を追い越す」という意味になります。
「in a short time」がつくことで、スピード感のある追い越しっぷりを想像できます。
大勢の中から1人を選ぶというよりは、大勢を追い越してトップに立つといったニュアンスになるため、「ごぼう抜き」の現在の意味に近い用法になるでしょう。
「ごぼう抜き」の意味はだんだん変わってきた
「ごぼう抜き」の本来の意味は、大勢の中から優秀な1人を見つけ出すことです。
しかし、最近では大勢の人を追い抜く様子に使われることも多くなってきています。「ごぼう抜き」のもともとの意味ではありませんが、実況中継やスポーツの場面で使用されることが増えて、一般的な意味に変わりつつあるようです。
「ごぼう抜き」は2つの意味を持つ言葉ですので、どちらの意味で表現したいのかを考えるとともに言い換え表現も理解しておきましょう。