バラエティ番組に出ればそのぼやき節で笑いをかっさらい、役者としてもコミカルからシリアスまで演じきり存在感を発揮する大泉洋。マルチな活躍で国民的人気を誇る彼だが、劇団ひとり監督・脚本によってビートたけしの自叙伝を元に映画化した『浅草キッド』ではたけしの師匠・深見千三郎さんに扮し、昭和の浅草芸人の生き様を見事に演じきっている。役者としての地位を確立しながらも、「まだ役者をやっている自分には慣れない。得意じゃないものに挑み続けている感覚がある」と告白する大泉。芝居の面白さを実感させてくれた、自身にとってヒーローのような存在を明かした。

  • 大泉洋

本作の舞台は、昭和40年代の浅草。大学を中退し、“お笑いの殿堂”と呼ばれていた浅草フランス座に飛び込み、伝説の芸人・深見千三郎(大泉)に弟子入りしたタケシ(柳楽優弥)。彼が個性と才能に溢れる仲間たちと出会い、芸人・ビートたけしとして開花していくまでを描く青春ドラマだ。

劇団ひとり監督が自身の書き下ろし小説を初監督で映画化した『青天の霹靂』(2014)でも、大泉は主演を任されていた。大泉は「『青天の霹靂』から数年経って、劇団ひとり監督がまた僕を呼んでくれたことがものすごくうれしくて」と破顔しながら、「ちょっとだけ出る役ではなく、しっかりタッグを組んでやらないといけないような役。しかも彼が尊敬してやまない芸人の役で僕を呼んでくれた。『青天の霹靂』をやって本当によかったなと、改めて感じさせてくれました」と喜びを噛み締める。

劇団ひとりは、どのような演出をする監督なのだろうか? 大泉は「“自由にやってください”という監督では決してありません。監督の中で“求める芝居”というのが決まっている。例えば本作で、深見がタケシに『バカヤロー!』と突っ込むシーンがあって。もうちょっと楽しいやり取りにするのかと思いきや、『しっかり怒ってください』という演出があったりする。監督の中で方向性が決まっているので、役者としてはものすごく安心感があるんです。その一方で、“監督の思う通りにできるだろうか”という怖さもある」と現場を振り返りながら、「そういう監督だからこそ、また呼んでもらえるということが役者としても大きな自信になります」とうれしそうににっこり。

「たくさんいる監督の中でも、劇団ひとり監督は“あの監督は本当にすごい”と思わせてくれるような一人です。『浅草キッド』ではワンシーンワンシーン、その手腕が光りまくっていた。撮影は“すごいな……”と、劇団ひとり監督の才能に延々とため息をつくような時間でした」と手放しで絶賛する。