ビジネスモデルキャンバスは、新規事業を立ち上げるにあたり大切なフレームワークです。ビジネスの全体像を把握したり、組織内で共有したりと戦略立案に活用できます。また、新規事業の立ち上げ以外にも既存ビジネスや競合分析にも活用が可能です。
本記事では、ビジネスモデルキャンバスを作成するうえで必要な9つの要素や作成方法について解説します。テンプレートや企業事例もご紹介しますので参考にしてください。
ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバスは、新規事業の立ち上げや事業を再編する際に用いられるフレームワークです。イノベーション支援企業「Strategyzer(ストラテジャイザー)」の創設者アレックス・オスターワルダー氏と、ローザンヌ大学教授イヴ・ピニュール氏によって開発されて、2010年に書籍「Business Model Generation」で発表されました。2012年には翔泳社より日本語訳で発行され、名だたる一流企業で利用されています。
ビジネスモデルキャンバス作成に役立つテンプレート
ビジネスモデルキャンバスは、9つの要素を下記のテンプレートに当てはめて作成します。要素の詳細は後ほどご紹介します。
【KP】パートナー | 【KA】主要活動 | 【VP】価値提案 | 【CR】顧客との関係 | 【CS】顧客セグメント | |
【KR】キーリソース | 【CH】チャネル | ||||
【CS】コスト構造 | 【RS】収益の流れ |
すべての関係性を確認するために行うため、まずは9つの要素をすべて埋めることが大切です。
ビジネスモデルキャンバスの構成要素は9つ
そこで、上記のビジネスモデルキャンバスを構成する9つの要素について解説します。
1.顧客セグメント(CS)
1つ目の要素「顧客セグメント(Customer Segment)」は、自社のサービスや製品を好むであろう顧客とは誰か、どんな人であるのかを書き出します。「フルタイムで働く主婦」や「会社を辞めたいと考えている新入社員」など顧客像を具体的に記載してください。
2.価値提案(VP)
「価値提案(Value Propositions)」は顧客セグメントとともに重要な要素です。具体的に書き出した顧客像から、「この顧客のどのようなニーズを満たすのか」という自社サービスや製品の価値を書き出します。顧客の細かいニーズに対応できるサービス内容を提案しましょう。
3.チャネル(CH)
提案した価値の届け方が「チャネル(Channels)」です。ターゲットとなる顧客や予算によって、届け方は異なります。SNS告知・ネットショッピングなど、具体的な告知や販売方法を書いていきましょう。
販売・告知後のフォローによって信頼が生まれ、深い関係が構築されます。アフターフォローについてもしっかり書いておきましょう。
4.顧客との関係(CR)
「顧客との関係(Customer Relationships)」は、顧客に対してどのように関係を構築し、どのように進展させていくかを書いていきます。顧客との関係性は「深さ」と「長さ」を軸に据えて考えてみるといいでしょう。
「深さ」で言えば、顧客自身にセルフでやってもらうサービスやメールでのやりとりで済むサービスならば、浅い関係になります。一方で対面形式でのカウンセリングやコンサルティングならば深い関係になります。「長さ」に関しては、売り切り型のサービスならば短期的関係、会員制やサブスクリプションサービスならば長期的関係となります。
このブロックにおいて、販売方法や事業の方向性も明確にする必要があります。
5.収益の流れ(RS)
「収益の流れ(Revenue Streams)」は価値に対して顧客がいくら支払ってくれるのかを記載します。簡単にいうなら売上です。会費や使用料、手数料など、どのように収益を得るのか記載してください。
6.キーリソース(KR)
「キーリソース(Key Resource)」には、ビジネスを進めるにあたって必要となるヒト・モノ・カネ・情報のリソースの割合を決めて書き出します。社内で保有している資材や人員だけでなく、外部から提供されるリソースも含めましょう。
7.キーアクティビティ(KA)
「キーアクティビティ(Key Activities)」はビジネスを進めるうえで必要な活動を書き出します。特に、製品の製造や市場の把握などの必要不可欠な活動や、他社製品との差別化を図るための活動に注目することが大切です。
8.パートナー(KP)
「パートナー(Key Partners)」は、ビジネスを進めるにあたりリソースなどを提供してくれるパートナーを書き出します。パートナーと連携することでリソースを拡大できるため、ビジネスの加速につなげることが可能です。また、複数社で連携することで万が一の際、リスクを回避できます。
9.コスト構造(CS)
「コスト構造(Cost Structure)」は文字通り、価値提供に必要なコストを書き出します。固定費や生産量に応じて変化する費用、人件費などを書き出してどのくらい利益が出るのか考えましょう。
ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスとの違い
リーンキャンバスとは
アメリカの起業家エリック・リースが開発したリーン・スタートアップは、構築・計測・学習・再構築の4つサイクルを繰り返し徹底的に無駄を省いて、新しいビジネスを創り出すモデルです。その後、アッシュ・マウリャ氏が著書「Running Lean」の中でリーン・スタートアップをもとに開発したフレームワーク「リーンキャンバス」を発表しました。
ビジネスモデルキャンバスは既存事業を基にした新規案件や競合分析に向いているのに対し、リーンキャンバスはスタートアップ企業や前例のないビジネスを考えるのに向いています。これが2つのモデルの違いです。
ビジネスモデルキャンバスを企業事例をもとに解説
検索プラットフォーム最大規模の「Google」や、顧客ニーズに沿った価値提案で成功を収める「タイムズ24」のビジネスモデルキャンバスにおける事例を紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
Googleのビジネスモデルキャンバス
Googleはアドセンスやアドワーズ、Googleドライブ、Gmailなど幅広いプロダクトやサービスを立ち上げました。どれも無料で利用できますが、どのように利益を得ているのかビジネスモデルキャンバスを用いて解説します。
■CS:顧客セグメント
- 検索エンジンを使う消費者や
- 代理店
- Webサイト運営者
- コンテンツ制作者
など。
■VP:価値提案
- 整理された情報に広くアクセスできる検索プラットフォームの提供
- ターゲット広告
- スケジュール管理(Googleカレンダー)
など。
■CH:チャンネル
- Gmail
- Youtube
- G sutie
- Google Play
- Google マップ
など。
■CR:顧客との関係
- 顧客ニーズに合わせた検索プラットフォームを構築
- オンラインマーケット・大企業のアカウント管理
など。
■RS:収益の流れ
- 無料メールやマップ
- ブラウザ
- 決済サービスなどのプレミアムサービスによる個人収益
- 広告収入やライセンスなどの企業収益
など。
■KR:キーリソース
検索アルゴリズム・Webクローラー・プラットフォームなど
■KA:キーアクティビティ
- アルゴリズムの作成
- ITインフラの構築
- オンライン広告の技術
など。
■KP:パートナー
- インターネット利用者
- コンテンツ制作者
など。
■CS:コスト構造
- インフラの維持管理コスト
- トラフィック獲得
- ソフトウエア開発にかかるコスト
など。
タイムズ24のビジネスモデルキャンバス
タイムズ24では会員間で車をシェアするサービス「カーシェアリングサービス」を展開しています。ビジネスモデルキャンバスを用いて解説しましょう。
・CS:顧客セグメント
- 環境配慮への意識が高いユーザー
- カーリースを利用していた法人
など。
・VP:価値提案
- 24時間/365日利用可能
- アプリ予約可能
- タイムズポイントが貯まる
など。
・CH:チャンネル
- Webサイト
- 広告
- タイムズ駐車場
など。
・CR:顧客との関係
- 優良会員創出制度(TCPプログラム)
- 利用情報の管理のしやすさ
など。
・RS:収益の流れ
- 初期費用
- 月額基本料金・利用料金など
・KR:キーリソース
- 駐車場の車室
- Webサイトやアプリ
など。
・KA:キーアクティビティ
- タイムズ駐車場
- 車両管理
- コンタクトセンター
など。
・KP:パートナー
- 自治体
- 自動車ディーラー
- 駐車場オーナー
など。
・CS:コスト構造
- ガソリン代
- メンテナンス費
- システム運営費
など。
ビジネスモデルキャンバスの作成方法
企業事例を参考にビジネスモデルキャンバスを作成してみましょう。具体的にどこから書き出していけばいいのか解説します。
1.顧客セグメントと提供価値を明確にする
自社のサービスや製品に顧客が求めていることを明確にするため、顧客セグメントと提供価値を左右に書き出し、どのような関係性があるのか確認します。左右に並べることで、視点の違いなどマッチしていないものを見つけることが可能です。
2.要素に注目してアイディアを形にする
要素をもとに新たなビジネスアイディアを形にします。1つの要素につき考える時間は5~10分。浮かんだアイディアを付箋などに書いていきましょう。たくさん書いたら見直して、よりよいものを選びます。
なかなかアイディアが浮かばないときは、「キーリソース」「価値提案」「顧客セグメント」「コスト構造」「収益の流れ」に着目してみましょう。
3.成長戦略を考える
9つすべての要素について考えたら、新規で考えることは何か、既存サービスや製品を活用できないかなど整理していきます。製品と市場、既存と新規の4つに分類して考える方法を「アンゾフの成長マトリクス」といいます。環境の変化に合わせた成長戦略のヒントとなる考え方です。
製品 | |||
既存 | 新規 | ||
市場 | 既存 | 市場浸透 既存製品の売上アップ |
新商品開発 既存商品に新機能をつけて販売 |
新規 | 新市場開拓 新しい顧客に既存製品を販売 |
多角化 新しい顧客に新商品を販売 |
ビジネスモデルキャンバスで経営環境の変化に対応
ビジネスモデルキャンバスは新規事業の立ち上げや既存ビジネスの分析に役立つフレームワークです。9つの視点から分析を行うことで、成功につながるビジネスモデルを考えられます。事業内容が似ているライバル企業の事業分析にも利用できるため、競合事業が複数ある場合は成功につながるヒントを見つけることができるでしょう。
ただし、ビジネスモデルキャンバスを作成したからといって、必ず成功するわけではありません。ビジネスの成功は検証と改善の繰り返しです。消費行動など外部環境が変化すればビジネスモデルの転換が求められます。本記事で紹介した作成方法や事例を参考にして、時代や環境に合わせたビジネスモデルの構築に役立ててください。