今年の大晦日、日本のリングでWBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔と、IBF世界同級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)が王座統一戦を行う可能性が高まっている。 両陣営が現在交渉中。近々、正式発表がありそうだ。

  • 昨年の大晦日、東京・大田区総合体育館で3階級制覇世界王者の田中恒成(左)と闘った井岡一翔。8ラウンドTKO勝利でWBO世界スーパーフライ級王座2度目の防衛を果たした。 (写真:日刊スポーツ/アフロ)

「4団体世界王座統一」といえば、バンタム級の井上尚弥の悲願。だがその前に、井岡が快挙のチャンスを掴むかもしれない…計画はすでに練られている。そして近い将来にドリームマッチ、井上尚弥vs.井岡一翔はあるのか?

■大晦日にスーパーファイトか

「次は統一戦をやりたい。アンカハスとベルトをかけて闘いたい」
9月1日にフランシスコ・ロドリゲス・ジュニア(メキシコ)に判定勝利しWBO王座3度目の防衛を果たした後、井岡一翔はそう口にしていた。
このコメントを受け、アンカハスは言った。
「井岡が私の名前をあげてくれたことを嬉しく思う。ぜひ統一戦をやりたい。場所は米国でも日本でもどこでもいい」

まだ正式発表されたわけではないが、交渉は進んでいるようだ。井岡の10度目の大晦日決戦は、アンカハスとの王座統一戦、スーパーファイトとなりそうである。

アンカハスは、これまでにIBFのベルトを9度防衛している29歳の絶対王者。
サウスポーのファイターで戦績33勝(22KO)1敗2分。唯一の敗北は、成長途上にあった2012年3月にマーク・アンソニー・ヘラルド(フィリピン)から喫したもの。以降9年半以上もの間負けておらず、1つの引き分けを挟んで20連勝中だ。
2016年9月に無敗の王者マックジョー・アローヨ(プエルトリコ)を攻略し、IBF世界王座を獲得。その後の9度の防衛戦はすべてフィリピン国外で闘ってきた。KO率が示す通りパンチ力があり、テクニックも備えている、加えてメンタル的にもタフな男だ。

日本人初の4階級制覇世界王者である井岡の経歴にも少し触れておこう。
WBA、WBCミニマム級、WBAライトフライ級、WBAフライ級、WBOスーパーフライ級と、これまでに5つの世界タイトルを獲得している。戦績27勝(15KO)2敗。
2つの負けは、いずれも世界タイトル挑戦試合で、ともに1-2のスプリットデシジョンだった。フライ級までの4つの世界タイトルはすべて返上したものであり防衛戦で敗れたことは一度もなく、世界戦18勝は日本人最多記録だ。
2017年大晦日に一度は現役引退を発表するも、翌年9月にリング復帰。その後、WBO世界スーパーフライ級王座に就いている、今年32歳になった。

これまでに強さを十分に証明してきた両者。対戦が実現したならば、勝敗予想は非常に難しい。海外のスポーツブックにおける賭け率も、ほぼイーブンとなろう。一昨年11月、さいたまスーパーアリーナで行われた井上尚弥vs.ノニト・ドネアを超えるハイレベルな白熱の好勝負が期待できそうだ。

  • 9月1日、東京・大田区総合体育館でフランシスコ・ロドリゲス・ジュニアに判定で勝利しWBO世界スーパーフライ級王座3度目の防衛に成功。その直後の会見で井岡は「王座統一戦をやりたい」と口にした。(写真:日刊スポーツ/アフロ)

■あるか? 井上尚弥vs.井岡一翔

大晦日にアンカハス戦が実現し、そこで勝利したなら井岡は来年、大勝負に挑むことができるかもしれない。日本人初の「4団体世界王座統一」へのチャレンジだ。井上尚弥よりも先に、その機会を得る可能性もある。
現在、WBAスーパーとWBCの同級王者は、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)。望むのは、井岡vs.エストラーダの「4団体世界王座統一戦」だ。

エストラーダの次の対戦相手は決まっている。これまで対戦成績1勝1敗のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)。本来なら両者の3度目の対決は、10月16日に行われているはずだった。しかし、ゴンサレスが新型コロナウイルスに感染、そのため試合が延期となっているが、年内、遅くとも来年1月までに2人は拳を交えるだろう。

その勝者と井岡が闘うことになったら面白い。
だが、スーパーフライ級には、シーサケット・ソー・ルンヴィサイ(タイ/元WBC王者)、ジョシュア・フランコ(米国/WBA王者)、アンドリュー・モロニ―(豪州/元WBA王者)などの強者がおり、彼らもタイトル挑戦の順番待ちをしている。そのため、井岡が大晦日にアンカハスを破り2団体の王座を統一できたとしても、エストラーダvs.ゴンサレスの勝者とダイレクトに対峙するのは難しそう。
それでも来年後半にチャンスを得る可能性はある。アンカハスに勝って、「その時」を待つ─これが井岡陣営の描く4団体世界王座統一への青写真だ。

もしもの話だが、井上尚弥と井岡一翔が、ほぼ同時にそれぞれの階級で「4団体王座統一」を成し遂げたなら、とんでもないことになるだろう。
「井上尚弥vs.井岡一翔」を望む声が、さらに強く沸き上がる。
井岡が階級を上げ、バンタム級で4団体世界統一王者同士の対決。それが現実になったなら、日本ボクシング界は空前の盛り上がりを見せよう。もちろん2人が勝ち続けることが絶対条件だが展開と状況次第では、夢物語ではないようにも思える。

文/近藤隆夫