TSMCの創業者であるMorris Chang(張忠謀)氏が10月26日、台湾の玉山科学技術協会の創立20周年記念イベントで講演し、「米国は現在、米国内での半導体製造を増やそうとしているが、520億ドル(まだ成立していないCHIPS法による半導体製造補助金額)を投資しても、数千億ドルを投資しても、米国の半導体サプライチェーンは不完全であり、製造コストも高くつくため、半導体製造ビジネスは成功しない」と述べたと複数の台湾メディアが報じている。

また、同氏は「TSMCが米国や欧州に工場を設立することは、コスト高という大きな課題をもたらす」としたほか、TSMCの米国工場のオペレーションに関し、「アリゾナ州の工場を管理するには、労働関連の法規、EHS(安全と健康管理)、税務や従業員に対する福祉など、米国の規則や規制に準拠する必要があり、その経験と知識が不足している中で、優れた運営を実現するのは困難だ」とも語ったという。

さらに、台湾での半導体製造コストの安さや技術者の層の厚さを踏まえ、「TSMCは今後とも台湾を製造拠点の中心に据えるべき。台湾の半導体産業の唯一の選択肢は『台湾で事業を行うこと』だ」と、台湾での半導体製造を継続することを強調した。同氏はかねてより、グローバルな自由貿易の下で台湾で半導体の製造を行うことがもっとも低いコストを実現できると主張してきている。

なお、同氏は日本への工場進出には言及しなかったという。しかし、すでにTSMC会長のMark Liu氏が7月の株主総会にて、「日本での半導体製造は非常に高いものとなるため、製造コストの差を縮められるように、毎週日本側と協議を続けている」と述べているほか、同社の最高経営責任者(CEO)兼社長であるC.C. Wei氏も10月14日に開催した第3四半期の決算説明会にて日本への工場進出発表の際に、「TSMCは、日本の特定顧客と政府の双方から、今回の計画に対する強い支持を受ける約束を得ている」と述べており、その製造コストが高いことやサプライチェーンの不完全性があることを示唆している。