北海道大学(北大)は5月15日、国土地理院によって富士山山頂および周辺に展開している測位衛星観測(GNSS)局の過去5年間の動きを解析し、気象庁のアメダスによる雨量データと比較した結果、富士山における雨と地殻変動の関係性を解明し、マグマによる熱膨張だけでなく、大雨によっても山体が膨張することを確認したと発表した。
同成果は、北大大学院 理学研究院の日置幸介教授(現・名誉教授)、同・玉田祐樹学部生(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、米国地質学会が刊行する旗艦学術誌「Geology」に掲載された。
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(A)2023年6月~10月における雨量と本栖湖の水位。(B)富士山西斜面の3071番GNSS局の上下動。(A)と(B)の共通誤差を取り除くと、降雨に伴う隆起が確認できる。4mmを超える隆起があった日(破線)の多くは、降雨があった日であることがわかる。(C)日々の降雨と上下位置は、有意な正の相関を示す(降雨に伴って隆起する)。(出所:北大プレスリリースPDF)
噴火の予兆となる“熱い”膨張との区別が噴火予知のカギ
富士山は1707年の「宝永噴火」以来、300年以上噴火しておらず、近年は次の噴火が懸念されている。噴火前にはマグマが地下深くから上昇するため、山体が熱で膨張することが知られている。その検出に向け、GNSS局を利用した衛星測位や傾斜計を用いて山体の変形が日々監視されている。
GNSSは米国のGPS衛星や、それを補完する日本の準天頂衛星「みちびき」(QZSS衛星)など、一般にはナビゲーション用のイメージが強いが、地殻変動の検出においても広く利用されている。例えば日本では、国土地理院が全国各地の1000か所以上にGNSS局を設置して電子基準点網(GEONET)を整備。それらを連続稼働させることで、地震に伴う地殻変動やプレート運動、それに伴う地殻ひずみの蓄積などを精密に計測し、日本列島の地殻変動を高精度で監視している。
研究チームはこれまで、そうした固体地球由来の変動に加え、大規模な降雨や降雪、地球温暖化による氷河・氷床の融解などに起因する微かな地殻変動に関する研究も推進してきた。その中には、2019年の台風19号による大雨や、近年の線状降水帯による洪水などがもたらす地表の変形も含まれており、それらを稠密なGNSS網で捉えることで、大雨により地面が沈降する「荷重変形」現象も確認していた。雨粒1つ1つの重さはわずかでも、それらが大量に集まれば、その重圧によって地形は容易に変形し得るのである。
そうした中、研究チームは2021年、熱海周辺の洪水に伴う地面の上下動を調査する過程で、富士山斜面にあるGNSS局だけが降雨に伴って隆起することを発見。そこで、その原因を突き止めることを目指したという。
今回の研究では、まず国土地理院の電子基準点網のデータを過去5年分解析し、気象庁のアメダス(AMeDAS)気象データとの比較が行われた。アメダスは全国に1000か所以上の観測局があり、各地の気温、気圧、湿度、降水量などの多様な気象データを収集している。GNSS局の上下動と降雨計の記録の比較解析が実施された結果、富士山に台風や線状降水帯による大雨が降った際、山頂およびその周辺のGNSS局が数cm隆起することが確認された。つまり、大雨に伴い、富士山の山体やその周辺が変形することが実証されたのである。
この隆起は、地下に染み込んだ雨水が新富士火山の溶岩層を満たすことによって、山体が膨張する現象に起因する。なお、富士山は、基盤となる御坂山地の上に小御岳火山が位置し、その上に古富士火山、さらにその上に現在の富士山(新富士火山)があるという三層構造の山だ。新富士火山の溶岩流よりも外側の地域にあるGNSS局についても上下動が調べられたところ、数cm沈降することも判明した。これは雨水の重さによる荷重変形であるという。
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(A~D)台風に伴う降雨、本栖湖の水位変化と、GNSS局の上下動を比較したもの。(E)GNSS局を富士山山頂に近い局からグループ1、2、3に分け、それぞれの平均を示したもの。(F)グループ1とグループ3の局は、それぞれ上下と正の相関(降雨による隆起)と負の相関(降雨による沈降)を示し、グループ2の局はその中間的な振る舞いを示していることが確認された。(出所:北大プレスリリースPDF)
前回の噴火から300年以上が経過した現在、富士山の次の噴火が警戒されている。大規模な噴火が発生した場合、首都圏に降灰などを通じて重大な影響を及ぼすため、近年、社会的な関心も高まっている。今回の研究は、富士山の山体の膨張には、マグマ活動によって噴火の前兆として現れるものに加え、降水を原因とする噴火の危険を伴わないものもあることを明らかにした。熱く危険な膨張と冷たく安全な膨張という、酷似した2つの現象の見分け方を示したことで、社会的な貢献が大きいとしている。
