日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は5月21日、都内で「AI時代の電源設計とAPEC最新動向」と題した記者説明会を行った。半導体デバイスの新製品の発表とかではなく、改めて同社の電源周りの戦略の説明を行い、それに対する質疑応答を行うという形で行われた同会見の模様を踏まえ、その内容をご紹介したい(Photo01)。

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    Photo01:説明を行ったTIのRobert Taylor氏(Sector General Manager of Power Design Services and Power Delivery)。他に日本TIの初山翔星氏(エリアディレクター、営業・技術本部、東日本エリア)が補足説明を行った

説明を行ったTexas Instruments(TI)のRobert Taylor氏が最初に説明したのは「PSDS(Power Supply Design Seminar)」の話である(Photo02)。

元々は1977年に(PWM制御の父とも呼ばれる)Bob Mammano氏がUnitrode Corporationで始めたものだが、その後同社がTIに買収されて以降、TIがPSDSを引き継いでおり、日本でも過去20年に渡って実施されてきたそうだ。

  • Photo02:Mammano氏はTIで主席電力技術者兼フェローという肩書であった

    Photo02:Mammano氏はTIで主席電力技術者兼フェローという肩書であったが、すでに引退された模様

将来の電源製品のけん引役として期待されるデータセンター

さてTIの現状に置ける電源向け半導体製品のターゲットとするマーケットはEV(Photo03)・Robotics(Photo04)・Data Center(Photo05)の3つだとする。

  • 800VはまずEV向けという形でスタート

    Photo03:800VはまずEV向けという形でスタートし、その技術がData Center向けにも利用されているという話であった

  • Roboticsは48V給電がコアテクノロジーになるとしている

    Photo04:Roboticsは48V給電がコアテクノロジーになるとしている。これも最初は自動車向けにスタートし、それがRobotics向けに提供されるという感じだ

  • TIは48Vをすっ飛ばして直接800V→6Vを出力できるので効率が良いとしている

    Photo05:他社のソリューションは800V→48V→12V→1V未満という3段構成だが、TIは48Vをすっ飛ばして直接800V→6Vを出力できるので効率が良いとしている

ちなみに氏は2017年まではEVに携わっていたが、今は基本的には面倒を見ていないそうである。ただ全般的に現在EVは停滞期というか一時期期待されたほどのマーケットの伸びは期待できないものの、EVだけでなくHVもあるからまだ期待できるとしている。そしてRoboticsは産業用ロボットから協働ロボットやヒューマノイドに進化して行く中で多数の半導体を利用する(単に駆動だけでなくセンシングや制御なども絡んでくる)から有望という話である。

そして一番ホットなのがData Centerである。今年3月16日にGTCの開催に合わせてTIもData Center向けソリューションを発表している。現在はここがある意味将来の電源製品の牽引元になっており、今後もここに注力して行くという話であった。

EVとData Centerで示される800Vの内容はどこまで異なるのか?

内容としてはこの程度であるが、続く質疑応答で色々興味深い話を聞けたので纏めておく。

まず「800V」の動向について。EV向けとData Center向けでは同じ800Vといっても色々違うのでは? と水を向けたところ、確かにそういう面もあるが、IsolationとかProtection、Gate Driverといった基本的な技術は共通であるとする。

また800V DCといっても、その先(電力会社からの引き込み線)はもっと高圧であり、こうした部分はパワー半導体としてはGaNではなくIGBTとかSiCが使われるので、実はEVがSiC、Data CenterがGaNという区分けは正しくない(EV向けのGaNもあるそうだ)という話だった。

また6V→1V未満だとそこのIR Dropが酷い事になりそうな気がする(例えば1KWのチップだと6Vなら166Aあまりが流れる計算になる)のだが、12Vから変換するよりもトータルでは効率が良くなる、という説明であった(これは6V出力のDC/DC ConverterからVRMまでの距離に依存しそうであるが)。

このほか、「それなら最初から800V→1V未満を狙えないのか?」と確認したところ、「どんな出力電圧が好ましいかは顧客によって変わってくるし、Chiplet構成のIVRMとか最近だとVPDなどもあるから、こうしたものがはっきりしないとなかなか明確な回答は出せない」という話で、技術というよりは仕様の問題であるとした。

さらに、EV向けとData Center向けで共通なのがBMSであるとする。EVには当然多数のバッテリーが搭載されるためBMS(Battery Management System)の重要性は言うまでもないのだが、Data Centerでもラック内に多数のBBU(Battery Backup Unit)を搭載するので、このバッテリー管理にBMSが利用できるとする。TIはWireless BMS(BMSとの通信をWirelessで行う)を提供しており、これはData Centerにも利用できると自信満々に説明された。

今回は何か新しい話というよりも、TIは電源ソリューションに引き続き高い関心を持って取り組んでおり(冒頭のPSDSの話がその良い例だろう)、トータルソリューションを提供できるという事を改めて示した説明会であった。