JR西日本は27日、総合検測車の新型車両「DEC(デック)741」の導入について発表した。これに先立ち、近畿車輛本社(大阪府東大阪市)で報道公開が行われ、外観と車内の一部が公開された。2021年11月から試験運用を開始し、2025年度の実用化をめざす。

  • 総合検測車の新型車両「DEC741」が報道公開された

「JR西日本グループ中期経営計画 2022」のグループデジタル戦略における軸のひとつとして掲げた「鉄道システムの再構築」を実現するため、JR西日本は新技術による安全性・生産性の向上をめざし、「地上検査の車上化」に取り組んでいる。総合検測車の新製・導入により、電気検測車で検査を行っている電気設備(トロリ線)に加え、これまで人力による地上検査を行ってきた電気設備(電柱、信号機、がいし等)や線路設備についても車上検査への置換えを考えているとのこと。

総合検測車の新型車両「DEC741」は、西日本エリアで試運転を行っているDEC700形と同様の電気式気動車として新製された。「DEC741-1」(Mzc)・「DEC741-101」(Tzc)の2両からなり、車両長は約21m、最高速度は100km/h。車体は鋼製で、事業用車をイメージさせる濃い青色をベースに、総合検測車キヤ141系のイメージを踏襲した黄色を車体側面の窓周りと車体前面の窓下に塗装している。黄色は警戒色であり、青色・黄色の組み合わせが「映える」ことも、このカラーリングを採用した理由になったという。

デザイン上のアクセントとして、「DEC741-101」の側面中央部付近に黄色の斜めストライプが入り、その中に駅と列車、沿線の風景がイラストで描かれている。「鉄道の安全をこの検測車が守っていく。そのことを示す風景として、この絵をアクセントに持ってきました」との説明もあった。

  • 鋼製の車体を濃い青色と黄色で塗装。「DEC741-101」に黄色の斜めストライプとイラストが入っている

  • 「DEC741-1」に「電気設備撮像装置」を設置。50台のカメラで一度に撮影する

「DEC741」は在来線の全区間で走行・検測が可能に。車両に搭載された「電気設備撮像装置」「電気設備測定装置」と、新規開発の「画像解析装置」を組み合わせ、車上から広範囲に設備データを取得し、AI技術で解析を行う「電気設備診断システム」(日本信号と共同開発)を採用しており、より広範囲な設備情報を一度に取得可能としている。

「電気設備撮像装置」は「DEC741-1」に設置され、50台のカメラで一度に撮影。電柱や信号機といった車両の屋根上・側方にある構造物を対象に、画像で診断を行う。「電気設備測定装置」は「DEC741-101」に設置され、架線および架線周りを対象に、4台のカメラで撮影する。「電気設備撮像装置」「電気設備測定装置」ともに昼夜撮影が可能。両装置の導入で設備データ取得範囲が拡大し、約100種類の設備データを取得できるようになる。

  • 「DEC741-1」の連結部側は機器室

  • 「DEC741-101」の「架線検測装置」

  • 「DEC741-101」の「電気設備測定装置」

  • 「DEC741-1」の車内も一部公開された

取得した設備データは「画像解析装置」に取り込まれ、AI技術による解析が行われる。設備の自動抽出から画像選別、良否判定までAIが行うとのこと。画像選別にあたり、同一被写体の複数画像から良否判定に適したものを自動で選別する「ベストショット抽出」の機能も有する。

「DEC741」では、「電気設備撮像装置」「電気設備測定装置」に加え、トロリ線の摩耗を診断する「架線検測装置」を「DEC741-101」に設置(既存装置を移設)。報道公開の時点では未設置だったが、「DEC741-1」の床下に線路設備の検査を行う「線路設備診断システム」(新幹線で試行しているシステム)の設置も予定している。

JR西日本では、労働人口が減少する中でも一定の輸送品質を保ちつつ、安全性・生産性の向上を図りたいとしており、総合検測車を新製・導入することで、現地での目視検査を減らし、重大労災(触車、感電、墜落)のリスク低減をめざす。あわせて地上検査の車上化やIoTインフラネットワークなどの取組みにより、2030年までに鉄道設備の検査業務の約1割削減もめざすとのことだった。

  • 総合検測車の新型車両「DEC741」の車内・外観