コロナ禍でインターンシップのあり方の見直しが図られる中、NTT東日本が新たな一手を打ち出した。それが8月に実施されたシステムエンジニア向けのインターンシップで、「99%リアルなSE業務体験」をテーマに、オンラインの世界でも徹底的にリアリティを追求。結果、99%の参加者が「大変満足」するほど画期的なプログラムに仕上がった。冬には第二期の開催も控えているという。

情報通信業界のリーディングカンパニーが仕掛ける新たな取り組みとあって、業界の注目度も学生たちの関心も高い。そこで今回は、第一期に実施されたインターンシップの概要と魅力について、NTT東日本の担当者に話をうかがった。

目指したのは「オンラインで、リアルを超えるインターンシップ」

今回、NTT東日本が新たなインターンシップ制度をスタートさせたのには、大きく2つの理由がある。ひとつは優秀な人材の確保。そしてもうひとつが、社会的に不足するIT人材の育成だ。

現在、世界中でデジタル環境の整備が加速的に進んでいるが、経済産業省によると、日本は2030年に79万人ものIT人材が不足するとの試算もある。

「IT人材の不足は社会的課題です。これを解決するには、まずは学生たちに、ITに興味を持ってもらわなければなりません。今回のインターンシップは、学生たちがITに関心を持てるよう意識しつつ、情報通信系だけでなく、文系や理系など、いろんな学生たちにITの魅力が伝わるよう"面白さ”を追求しました」

そう話すのは、NTT東日本で採用人事を担当している五十嵐貴大さんだ。

  • NTT東日本 総務人事部 人事第二部門 採用人事担当 五十嵐貴大さん

「IT人材が不足していても、私は採用人事担当として優秀な人材を確保しなければいけません。"優秀な人材”とは、"自己成長を追い求められる人材”のこと。5日間のインターンシップを通じて、学生にも自己成長してもらえるコンテンツを考えました」

企業として優れた人材の確保を目指しながら、社会的課題の解決にも寄与するようインターンシップの運営方法やコンテンツを一新。オンライン参加型でありながら、「リアルを超える」という意気込みで新たなプログラムを創り出した。

「99%リアルなインターンシップ」の中身とは

では実際、インターンシップではどんな内容のプログラムが実施されたのか。

五十嵐さんと同じく人事部門に所属し、社内の海外MBA留学準備期間中にインターン事務局を務めている伊藤信吾さんによると、今回テーマに掲げたのは「99%リアルなインターンシップ」。残りの1%は"難易度”で、それ以外はすべてリアルな業務と同等の内容に設定した。

  • NTT東日本 総務人事部 人事第二部門 海外研修担当 伊藤信吾さん

インターンシップでは、参加者が8つのグループに分かれ、それぞれ会社という体裁を取ってプロポーザルを仕上げていく形を採用した。グループごとにデザインするのは、仮想の街・X市が推進する「未来都市化プロジェクト」の一環である「ICTを用いた最先端教育が実現可能な中学校・高校の設立及び教育機関の強化」事業。5日間のプログラムの中で、クライアントとの打ち合わせなども重ねながら、学校内のICT化に向けた準備、企画、技術設計に取り組むというものだ。

  • インターンシップに参加した学生が読み込んだ仕様書

  • 学生が作成した資料

プログラムはすべてZOOM上で実施するが、リアルさを徹底的に追求するため、ブレイクアウトルームを活用した「NTT EAST Internship World」という仮想空間を創った。この世界には、学生が起業した会社や参加者同士のコミュニケーションの場となるカフェ・レストラン、個別作業が可能なシェアオフィスの空間も確保している。

  • 「NTT EAST Internship World」のイメージ図

もちろん、ITに詳しくない学生も少なくない。そんな彼らでも遅れを取らずに参加できるよう、初日には研修も実施した。

研修の資料作成に関わった、同社でシステム開発を担当する、ビジネス開発本部の清水つばささんはこう振り返る。

  • NTT東日本 ビジネス開発本部 第三部門 IoTサービス推進担当 清水つばささん

「研修の一番の目的は、学生たちがインターンシップに没入できるようにすること。情報系ではない学生でも最低限の知識が身に付き、一方で、情報系の学生でもプラスアルファの知識が得られるような内容にしました。資料には、私たちが研修や仕事を通じて理解したノウハウを噛み砕いて盛り込んでいます。他社であれば、ひとりあたり4〜5万円を支払って受講するようなクオリティになるよう心掛けました」

  • 実際に使用した研修テキスト

各グループには、清水さんのようなNTT東日本のシステムエンジニア18人が、"先輩社員”として参加。業務の相談に乗ったり、ITに関する知識を補足したりするなど、サポート役も担った。アドバイザーではなく、先輩という立場でグループに加わることでチームとしての連帯感が深まり、学生と社員の間には「絆」も生まれたという。

「このインターンシップを超えるものは今後出会わない」という参加者の声も

ここまでプログラムを作り込んだ甲斐があって、参加した学生たちからは想像以上の反響があったようだ。

インターンシップ終了後に参加者たちが回答したアンケートを見ると、51名の学生のうち50人がインターンシップの内容について「大変満足」と回答したという。

これについて五十嵐さんは、「学生さんたちは立場上、インターンシップの内容に不満があっても、なかなか素直に『不満』とは書けないと思います」と指摘しつつ、「でも、不満がある場合は通常、『大変満足』ではなく『満足』を選ぶことが多い。そう考えると、やはり99%の学生が『大変満足』を選んでくれたのはとてもいい結果だと思います」と主張。

さらに、「ここまで満足度が高かった理由を深堀りしてみると、どうやら5日間で成長を実感できたことがこの評価に繋がっているようです」と話した。

  • NTT東日本の頭文字「N」のハンドサインで、先輩社員らへの感謝を示す参加者たち。ちなみに、左上に表示されている「NNSK」はインターンシップ時に設定した会社名(グループ名)で、"二人三脚”を意味するという

では実際に、アンケートに書かれた学生の声を一部見てみよう。

「学校ではネットワークはやってないが、基礎知識のフォローがあり十分な知識を得ることができた。仕事の大変さも理解できた。今後の就職活動にSEという選択肢を検討するようになった。」

「学校でインプットした知識の活用方法を学ぶことができ、学んでいることに実用性があることを知ることができた。後期の授業の選び方を大きく変えた(社会人として通用するスキルを醸造できる授業にシフトした) 」

「オンライン開催に少し残念な気持ちを持っていましたが、いざ参加するとカフェの設置やヒアリングの際などリアルに忠実に作ってくれてとても良かったです。このインターンシップを超えるものは今後出会わないと思いました」

「他社では体験することはできないと確信するほど充実し達成感があった、今夏一の思い出となったインターンシップだった。何より、社員の方のインターンシップへの熱意に圧倒された」

個別に見てみると、なかなか踏み込んだ感想であることがわかる。確かに、とてもリップサービスとは思えない。あるグループに至っては、"先輩社員”に感謝の色紙を渡してくれたりもしたというのだから、参加者にとっては、それほど充実した5日間だったのだろう。

合言葉は「他企業が実施するインターンシップの"5倍”は上をいこう」

今回のインターンシッププログラムを作り込むにあたって、参考にした企業は「ない」という。

もちろん、さまざまな情報収集は行ったが、五十嵐さんと伊藤さんは「他企業が実施するインターンシップの"5倍”は上をいこう」を合言葉に、とことんリアルで実用的なプログラムを制作。ふたりがプログラムの中身を考えている間は、公私の境界を忘れるほど密に連絡を取り合ったという。

8月に第一期を実施したばかりだが、結果的にいきなり大成功と言えるほど大きな手応えを得られた。

伊藤さんは、「NTT東日本は、情報通信業界のリーディングカンパニーのひとつですが、世の中に『本当のSIerはこうあるべきだ』と示して、初めてリーディングカンパニーなんだと思います」と話し、「NTT東日本が、優秀な人材から選ばれる会社になるためにも、さらに工夫していきたいと考えています」と語った。

第二弾のSEインターンシップは11月下旬~12月にかけて開催が予定されており、すでに募集は始まっている。気になる人はまず、エントリーだけでも初めてみては?