そんな小林製薬、消費者のニーズにピッタリフィットする製品を続々と出し続けられる秘訣は、一体どこにあるのだろうか。

「のどぬ~るスプレー」「ガスピタン」といった医薬品から、「熱さまシート」のような衛生雑貨や「消臭元」などの日用品まで、幅広い製品を手掛ける小林製薬。名称を聞いてイメージがふくらむ製品名や、「こんなアイデアがあったのか!」と驚くような製品を多岐に渡って開発している。 そんな小林製薬、消費者のニーズにピッタリフィットする製品を続々と出し続けられる秘訣は、一体どこにあるのだろうか。

実は小林製薬では、全社員がアイデアを出しあうイベント、その名も「全社員アイデア大会」を毎年一度開催しているという。小林製薬のユニークなアイデアの源泉を探るべく、8月下旬、同社の創立記念日にあわせて開かれた「全社員アイデア大会」に参加した。

  • 小林製薬「全社員アイデア大会」の様子 ※2021年はオンラインで実施

開発担当でなくても、アイデアが製品化するかも!?

小林製薬の「全社員アイデア大会」は、小林製薬創立100期を記念して2014年からスタートしたイベントで、「売れるアイデアを創出する」ことを目的に見直しを重ね、2021年の今年は8回目の開催を迎える。名前の通り同社で勤務する全社員が製品アイデアを出す大規模な大会で、2020年には2,854件のアイデアがエントリーされたという。

そしてこの大会のアイデアから、実際に製品も開発されている。2020年4月に発売された、低気圧などで不調を感じる方に向けた漢方薬『テイラック』は、2017年の第4回大会で出たアイデアが元になっているという。

雨が降ったり台風が来る前、どよ~んと頭が痛重くなる感じの悩みのための医薬品だが、このアイデアは、お客様相談室に所属する、自身も同じ悩みを持つ社員の方が発案されたそう。実際にお客様相談室にも『テイラック』に関する感謝のメッセージも寄せられたという。

普段生活する中で、こんな製品があったら便利なのに……と思うことはあっても、実際に企画開発をする身ではないと、あくまで妄想で終わってしまうものだが、「全社員アイデア大会」はまさに同社のスローガン「あったらいいなをカタチにする」可能性がある取り組みだ。

その「全社員アイデア大会」、今回小林製薬の広報・IR部で行われる大会に参加した。なお、昨今の状況を鑑みて、昨年と今年はオンラインで実施されている。果たしてどんなアイデアが出てくるのだろうか。

「それがあったか~!!」が続々のアイデア大会

今回参加させてもらったのは、小林製薬の広報・IR部 広報2グループのアイデア大会。当然ながら、普段は製品の企画開発をしているわけではなく、全員広報のお仕事をされている方々のチームだ。

なお、今回は1部署6名の大会に参加させてもらったが、基本的には 同じ日に、3,400名以上いる小林製薬の全社員が各部署に分かれて「全社員アイデア大会」を行っている。しかしこの大会、開催して終わるではなく、さらに先がある。

  • 「全社員アイデア大会」の大会フロー

部署でひとつのアイデアを提出し、9月には開発担当事業部へ渡され選考、そこを通過すると開発担当事業部の担当者がついてブラッシュアップされる。11月にはパッケージデザイン案を作り、12月には社長・経営陣へのプレゼンテーションを実施、プレゼンに合格したアイデアはその後開発担当事業部に引き継がれて、市場性の調査や技術検討が行わる。そして最終的に前述の「テイラック」のように製品化を目指していくという。

仕事をしているなかで「アイデアを出そう」と言われても、結局出すだけ出して気づけばどうなったかわからない……なんてことは往々にしてあるが、この「全社員アイデア大会」は、いち社員のアイデアが本当に製品化する可能性もある、夢の詰まった大会だ。

発表時間は1人15分。アイデアを発表した後、質疑応答やより良いアイデアにするためのブラッシュアップが行われる。

6名が参加し、6つのアイデアのプレゼンが行われたが、いずれも「実家に帰って父と会った時に気づいたこと」「一緒に暮らす娘の悩み」といった家族の行動から着想したアイデアや、「歯磨きが面倒だな……」「お好み焼き屋に行ったあとのニオイに困ったので、根本的な解決ができないか?」といった日常の小さな気づきがもとになっている。

またブラッシュアップをする際は、「この製品技術を活用できるかも?」「あの製品の売り上げが好調だから、ニーズがあるかもしれない」「自分もこんな悩みを聞いたことがある」など、自社製品で得た知見や自身の体験をもとに、アイデアをより良くする意見が続々と出て盛り上がる。普段から小林製薬の製品を深く理解するだけでなく、広くアンテナを張っている様子がうかがえた。

6人全員のアイデアを発表した後は、忖度は一切なしの投票制でひとつのアイデアを選ぶ。選ぶ基準は「実現性があるか」「将来性があるか」「ターゲットのボリュームがあるか」、そして「製品化したら売れそうか」。選ばれたアイデアは再度全員でブラッシュアップし、次のステップである開発担当事業部の選考へ進む。最初は一人が出したアイデアでも、部署全員が関わり、さらに開発担当者が入っていき……と専門知識を持つチームメンバーが入っていき、最終的に社長や経営陣へ提案される。

部署でのブラッシュアップでは、配合する成分から、使ってもらうシーンの想定、パッケージデザインのイメージや販売価格まで、より具体的な内容に落とし込んでいく。傍でその様子を見ていると「このまま発売できるのでは!?」と思ってしまいそうな勢いだ。今回のプレゼンで出た商品が、いつか店頭に並ぶかもしれない。

「全社員アイデア大会」その狙いとは?

この「全社員アイデア大会」は今年で8年目を迎えるが、社員全員が関わる、まさに全社を挙げてのイベント、その狙いはどこにあるのだろうか。アイデア大会を運営するグループ統括本社 経営企画部 経営戦略グループの田之畑大二郎さんに話を伺った。

――小林製薬では、社員の方がアイデアを提出する「全社員提案制度」も導入されています。「全社員提案制度」と「全社員アイデア大会」の立ち位置に違いはありますか?

田之畑さん:「全社員提案制度」は、1982年からスタートし40年近く続いている、いつでも誰でも新製品のアイデアや業務の改善案について提案できる制度です。毎月行うことで、アイデアを発想するトレーニングとしての意味もあります。年に1度の「全社員アイデア大会」は、その成果を提案する本番のような場ですね。

  • 国内に限らず、中国や米国の現地法人でも「全社員アイデア大会」は行われている

――「全社員アイデア大会」、社員の方からの反応はいかがでしょうか?

田之畑さん:大会後はアンケートを行うのですが、「『全社員アイデア大会』を行うことは、小林製薬グループにとって重要だと思う。」 という社員は8割という結果が出ています。小林製薬は風通しの良い社風が特徴ですが、まさにその社風を体現したイベントですね。

また、小林製薬は「"あったらいいな"をカタチにする」というブランドスローガンのもと、世の中にない新しい製品を作り続けて市場を創造しています。この大会や制度を通して世の中のニーズや変化の兆しについて考える習慣を身につけ、まだ誰も見つけていないニーズを見つけ出すきっかけになっていると考えています。

――普段の生活をする中で気づいたことが、アイデアの源泉になるんですね。例えば昨年はコロナ禍の影響を受けて生活様式が大きく変わりましたが、その年によって出るアイデアの傾向はありますか?

田之畑さん:昨年はやはり新型コロナウイルスに関連するものが多かったですね。例年は分野を問わずまんべんなく出てくる印象です。小林製薬は医薬品から芳香剤などの日用雑貨まで手掛けているので、出てくるアイデアも多岐に渡ります。

――単なるイベントではなく「売れるアイデアを創出する」ことが目的の大会ですが、今後の展望はありますか?

田之畑さん:実際に発売に至った製品は『テイラック』が初めてなので、今後はより多くのアイデアを製品化し、世に出すことを目指しています。そしてアイデア大会から生まれた製品が世間にどのような影響をもたらすのか、またお客さまの声のフィードバックも得ていきたいですね。発売を通して「自分のアイデアが人の役に立った」という成功体験を積み上げていきたいです。

また、生活の中での困りごとはひとりひとり違います。全社員がアイデアを出すこの大会は、多様性のある、ダイバーシティにそぐったイベントと言えるでしょう。社員の様々な視点を合わせていくことで、より良い製品を作って行けると考えています。


"あったらいいな"と求めるものだけでなく、「そういえばこの悩み、あった!」と意識できていなかった悩みに気づいたり、「こんなアプローチもあるのか!」と驚くことも多い小林製薬の製品。消費者のニーズにハマるヒット製品を次々生み出す源泉は、年に一度の「全社員アイデア大会」、そして毎月の「全社員提案制度」を通して、すべての社員が日々考える習慣をつけること、そしてそのアイデアを提案できる同社の風土にありそうだ。