リクオから届いた手紙のようなアルバム『リクオ&ピアノ2』

――『リクオ&ピアノ2』には、今おっしゃった「心の風通し」の良さや、距離感の近さをとても感じましたし、離れたところにいるリクオさんから手紙をもらったような気持ちで聴かせてもらいました。

リクオ:それはうれしいですね。本当にそういうつもりで書いた曲が何曲もあるので。

  • 弾き語りアルバムとしては11年ぶりとなる『リクオ&ピアノ2』は京都の人脈を活かして制作された

――とても心地良く聴ける1枚なんですけど、1曲目の「イマジン」の日本語カバーは聴いたときに衝撃を受けました。ジョン・レノンのオリジナルとも、RCサクセションのカバー(日本語詞:忌野清志郎)とも違う、暗い曲調にアレンジされていますが、どのように考えてカバーしたのでしょうか。

リクオ:やっぱりこのパンデミックの状況が反映されたアレンジになってると思うんですけど、この状況になる前から世の中が不穏な空気に包まれていることを感じていたので、曲に緊張感を持ち込みたいなと思ったんです。ある種の緊張感や内省的な要素をより強く曲に持たせながら、最終的には希望を感じてもらえたらと思ってます。

――前作はカバー曲のみでしたが、今作ではカバー、既存のオリジナル曲、新曲で構成されていますね。

リクオ:前作では自分のルーツを感じてもらえるような作品になればいいなと思っていたんですけど、今作はカバーやオリジナルにこだわらずに作りたいなと思ったんです。普段のライブでもカバー曲を歌う機会が多いので、お客さんの前で演奏するのと近い感覚で、あまりカバーとオリジナルに強いこだわりを持たずにフレキシブルに選曲しました。

  • 『リクオ&ピアノ2』には「イマジン」「満月の夕」などカバー曲も収録されている(PHOTO:渡邉俊夫)

――Theピーズの「実験4号」は以前、〈HOBO CONNECTION〉でもハルさんと一緒に演奏されていましたが、リクオさんは今回スローテンポで歌い上げていますね。

リクオ:これは大好きな曲なんですよ。ハル君との共演で何回か伴奏させてもらったんですけど、いつか自分でも歌わせてもらいたいと思ってました。今回、「ニューヨークの場末のピアノマン」をイメージしてアレンジしました。この曲は僕にとっては“再生の歌”なんです。年齢もあると思うんですけど、“再生”というのが僕の近年のテーマの1つになっているんですよね。無意識のうちにそういうテーマが曲に盛り込まれるようになってきたと思っています。

――「実験4号」は、〈何かまたつくろう 場所は残ったぜ〉という歌詞にもあるように、最終的には希望の歌ですもんね。

リクオ:“49%のネガティブと51%のポジティブ”みたいな曲に感じるんですよ。2%ポジティブが上回ってればいいんじゃないかっていう(笑)。100%ポジティブってありえないし、そういう曲はあんまりリアリティがないなと思うんですけど、ハル君が書くギリギリポジティブっていう表現がリアルだし、人間のダメさ加減というか、誰でもボチボチな生き物なので(笑)。それがリアルに表現されているなと思います。この曲を聴いていると、ハル君の人に対するまなざしが優しいなって思うんですよね。

――これまで歌ってきたカバー曲で言うと、「満月の夕」は今回初めてレコーディングされていますね。この曲はいろんな方が歌っていますが、リクオさんはこの曲にどんな思いがありますか。

リクオ:この曲が生まれたときに自分も立ち会っているという意識があって。阪神淡路大震災が起きた数週間後から、作詞した中川敬君のバンド、ソウル・フラワー・ユニオンがチンドンスタイルで毎日のようにボランティアで被災地の避難所などに演奏しに行っていて、自分も時々同行して演奏に参加させてもらっていたんです。そういう体験の中から「満月の夕」が生まれているので、この曲が生まれる現場を体験しているんですよね。歌詞は中川敬と山口洋の2つのヴァージョンがあるんですけど、僕は当時、被災地に近い大阪に住んでいて現場に出向いていたこともあって、中川君のバージョンで歌わせてもらっています。 2人とは、それぞれと散々ツアーで全国を回ってきた仲で、彼らとはライブで必ずこの曲をやるんです。なので、今のところ僕の生涯の中で最もたくさん伴奏した人の曲です(笑)。

――もうオリジナルと同じぐらい、演奏してきたわけですね。今回、改めてレコーディングで歌ってみていかがでしたか。

リクオ:改めてむずかしい曲だなって思いました。2人の歌を聴きすぎているので、自分はどう歌うかという着地点を見つけるまでの道のりがあったし、イメージがある程度できて、そこにまだ自分が近づけていないもどかしさもあったり。ちょっと神経質過ぎるかもしれないけれど、それぐらい自分にとっては思い入れのある曲だったので。やっとこのレコーディングを通して、自分なりの「満月の夕」を、完璧じゃないにしろ表現できたんじゃないかなと思います。

――これはもう、民衆の歌ですよね。

リクオ:本当に、みんなが歌うべき、歌ってほしい歌なんですよ。僕が勝手に敷居を高くしてしまってるだけで(笑)。

今の自分の思いと、社会の状況が自然にリンクした作品

――新曲の「短編映画」で〈前と少し違う歌に聞こえるけど〉というフレーズがすごく印象に残りました。これは世の中の状況の変化と共に歌ってきたリクオさんならではの表現ではないでしょうか。

リクオ:ありがとうございます。僕もそのフレーズが好きなんです。振り返ってみると、年代ごとに書いている曲が随分変わってきているなと思っていて。この曲はたぶん、50代以前には書くことがなかったと思うんですよ。この歳になって過去のことを振り返ったりする時間が増えてきたんですけど、そのことは決して悪いことだと思っていないんです。自分が過去の記憶と共に生きているような気がしていて、その過去とのつながりの中で今の自分があるという意識が強くなっている気がします。この曲も、そういう意識が反映されているんじゃないかなって、今話していて思いました。

――歌だけでなく、ピアノにも年齢を重ねたからこその円熟味があるというか、素晴らしい演奏を聴くことができます。「バータイム・ブルース」がすごく好きなんですけど、これは20代、30代の頃にはなかなか弾けないピアノなんじゃないですか。

リクオ:そうですね。これは、酔っぱらって体が横揺れしてるイメージをリズムにしたんです。「バータイム・ブルース」はピアノと自分の歌が一体化しているような感じでレコーディングできたかなと思っていて。それも一発録りの良さですね。

――「かけがえのない日々」は聴く人にとっての大切な人を思い浮かべるような、とても感動的な曲です。

リクオ:これも年齢だと思うんですけど、年を重ねてあの世とこの世の距離感が近づいてくるような感覚があるというか。もう会えなくなった人とか、過去の記憶と共に生きている自分に気付くときがあるんです。この曲は、自分でも何が歌いたいのかよくわからないままに曲を書いていたんですけど、僕なりのレクイエムなのかなと思っています。

――この1枚が出来上がって、リクオさんにとってどんな作品になりましたか。

リクオ:今の自分の思いと、社会の状況が自然にリンクした作品になったと思います。弾き語りというスタイル自体が、僕の表現のベーシックなので、装飾の少ない正直な表現ができたんじゃないかなと思います。

――2021年10月16日に京都信用金庫QUESTIONビルで、『リクオ&ピアノ2』発売記念イベントを開催するとのことですが、これはどんなイベントなんですか。

リクオ:新しい試みで、屋上と8階のキッチン付きのホールで2元中継のライブを行います。京都信用金庫QUESTIONビルは京都の市街地の中心にあるんですけど、ロケーションが最高なんですよ。初めての試みが多いので、ワクワクどきどきという感じです。音楽そのものを楽しんでもらうだけじゃなくて、京都の街の空気感とか景色も一緒に味わってもらえるイベントにしたいと思っているので、是非楽しみにしていてください。