新型コロナウイルスの感染拡大に伴って緊急事態宣言が発令され、テレワークが市民権を得て、多くの人の自宅が仕事場となりました。当初は、自宅で生産性が確保できるのかと懸念されていましたが、結果として、起きてから寝るまでが働く時間となったテレワーカーの働きすぎが課題となりました。在宅勤務は、「常時オン」の状況を作りだし、健康やウェルビーイングに悪影響となる可能性があります。

2020年3月に発表されたGallupの調査によると、フルタイムでリモートワークを行う従業員の76%が燃え尽き症候群を経験していることがわかっています。2020年10月には、オフラインで働く従業員よりも、完全にリモートワークで働く従業員のほうが燃え尽き症候群を経験しているという調査結果も発表しています。

  • 新型コロナウイルスによるパンデミックが発生した後、フルタイムでリモートワークをする人が燃え尽き症候群になる可能性が高まっている 資料:Gallup

デジタルウェルネスを考える

テレワークの拡大とともに、企業は従業員にいつでもどこでも安全に働ける環境を積極的に提供しました。デスクトップを閉じても、スマートフォンで常にメールやメッセージを確認できる状態は、働き方を柔軟にしつつ生産性を確保することに成功しました。しかし一方で、従業員を「常時オン」にしてしまう原因の一つになります。

精神科医アンデシュ・ハンセン氏が執筆した書籍『スマホ脳』という本が世界的ベストセラーになりました。同氏は同書において、脳科学的見地から、スマートフォンが脳に与える影響に警鐘を鳴らしており、スマートフォンと睡眠障害の関係性に言及しています。1日1時間の睡眠不足は些細なことに思えるかもしれませんが、従業員の疲労度やストレスレベルに与える影響は決して小さくありません。

「ついついスマートフォンで、メールを確認してしまう」といった、些細なことが従業員の健康に影響している可能性は否定できないのです。

QuartzとCitrixが行ったデジタルウェルネスに関する調査では、デジタルウェルネスを「ユーザーの心身の健康と調和して機能する理想的な状態」と定義しています。それは、ポジティブな従業員体験のための重要な要素です。しかし、この調査によると現実はそれとはかけ離れた状態になっています。

デジタルウェルネスを阻害するものは何か?

テレワークを実現するにあたり、企業にはさまざまなテクノロジーが導入されました。しかし、テクノロジーの採用に関連して何かしらの不満や影響が生じることがあります。Quartzの調査では、起こり得る3つの重要な結果が指摘されています。

  • 絶え間ない通知や連絡、アプリケーションの切り替え
  • 「常時オン」の必要性
  • 意思決定の疲労 - 圧倒的な数のツールとシステム

Quartzの調査の回答者の67%は、「常時オン」が健康やウェルビーイングに大きな悪影響を与えていると考えています。

コロナ収束後はハイブリッドな働き方が広がると予測される今、従業員が常にONになってしまわないよう、デジタルウェルネスを考慮した働き方を推奨するべき時期に差し掛かっています。

企業は従業員にウェルネスを優先する「許可」を与えよ

従業員が自分の健康やウェルネスを優先し、新しいことに挑戦する「許可」を与えるというコンセプトは、ハイブリッドワークに移行する際に重要になります。透明性をもって明確にメッセージを伝えることが大切です。

リーダー自身が積極的に休憩を取っている姿を見せることも、有効的な手段になります。チャットツールなどで、リーダーやマネジャー、もしくは経営層が「休憩をとります」と発信するなど、ささやかな事で、従業員は「休憩をとっても良いんだ」という気持ちになります。

例えば、LinkedInは燃え尽き症候群を避けるために、年初に世界中の社員に1週間の有給休暇を与えました。このような形で、「休んでもいいんだよ」というメッセージを送り続けることが重要になってきます。

燃え尽き症候群の回避に向け、テクノロジーの使い方の見直しを

デジタルウェルネスはテクノロジーの諸刃の剣であり、私たちを苦しめるものであると同時に、大きなウェルネス効果をもたらすものでもあります。そこで、私たちがどのようにテクノロジーと関わり、どのくらいの時間を費やしているかを把握する必要があります。これにより、テクノロジーとの関係やそれに伴う行動を変えることが可能になります。まずは、テクノロジーの使い方を見直す「きっかけ」を企業が提供することが必要です。

最近では、デジタルウェルネスを支援するためのテクノロジーを導入する企業も見受けられます。従業員がテクノロジーを何時間使っているかをモニタリングし、使いすぎの従業員に働きすぎを警告することも可能です。テクノロジーデザインの中心には常に人がいるべきです。テクノロジーが人を圧倒してはいけないのです。

生産性だけでなく、効果についても語る必要性

「席に座っていることが重要」という概念から脱却するには、長時間労働のプレッシャーや生産性ではなく、アウトプットや個人の総合的な効果に焦点を当てる必要があります。

今は産業化の時代ではありません。私たちは機械の歯車ではなく人間であり、活動よりも結果が重要です。企業が従業員に期待していることを明確にし、各自の自律性に任せてそれを達成させ、従業員が正しい行動に集中できるようにすることが重要なのです。

今回のパンデミックでは、自宅でも効率よく仕事ができることがわかりました。今後、さまざまな変化が生じる可能性もありますが、デジタルウェルネスはその中心となるべきものです。

休憩やダウンタイムを福利厚生に組み込む

休憩やダウンタイムは、従業員の福利厚生に欠かせないものです。従業員が定期的に休憩を取るようにすることで、疲労が仕事のパフォーマンスや集中力、記憶力などに及ぼす悪影響を軽減することができます。

もし、従業員がテレワーク中の休憩時間の過ごし方に迷ってしまっている場合は、「栄養価の高いランチを作る」「運動する」「瞑想する」「その他のセルフケア活動を行う」など、福利厚生を通して健康的な習慣を提案してください。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE本部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。