働き方改革の影響を受け、私たち日本人の働くことへの意識は少しずつ変化しています。多くの企業が生産性を保ちながら、長時間労働の是正、多様な働き方の実現、非正規雇用の格差の改善に努め、従業員に適切なワークライフバランスを提供できるように努めてきました。しかし、コロナ禍で急遽導入されたテレワークで、再びバランスが崩れ始めています。

当初は、通勤時間もなくなり、生産性が高いと思われたテレワークも、長期化するにつれてさまざまな課題が浮き彫りになりました。オフィスで連続して会議を行う場合、会議室から会議室に移るために移動時間が必要でしたが、テレワークでは移動することなく会議を続けて行うことができます。

その結果、小さなブレイクタイムがなくなり、一日中立て続けに行われる会議のせいで自分の仕事が終わらないだけでなく、疲弊して会議が終わった後も集中することができないといった経験をしたビジネスパーソンは多いと思います。ビジネスパーソンに人気のある匿名ネットワーク「Blind」の調査によると、従業員の4分の1以上(27%)がビデオ会議の間に「集中しようとしても、集中できない」と回答しています。

テレワークを実施するにあたり、従業員のパソコンには多くのアプリケーションがインストールされました。メッセージアプリだけでも数種類、複数のコラボレーションツールやファイル共有のソフトウェア、一緒に働く相手に合わせてさまざまなツールを使いこなす必要があります。Citrixが行った調査「Work Your Way」によると、64%の従業員が、新型コロナウイルス感染症の発生前よりも多くのコミュニケーションツールやコラボレーションツールを利用していると回答し、71%が「仕事がより複雑になった」と回答しています。

  • ハイブリッド/分散型勤務を促進するために、どのようなツールやアプリを導入しているか? 資料:「Work Your Way」

また、マイクロソフトの年次調査「Work Your Way」では、以下のような結果が出ています。

  • 2021年2月に送信されたメール件数は昨年同月より400億件以上増加(世界)
  • 会議に費やされる時間が2倍以上に増加(世界)
  • 就業日において日本の従業員の48%(世界39%)がより疲労を感じ、45%(世界42%)がストレスを感じている。

従業員は燃え尽きている

自宅に仕事環境が整っている状態でもワークライフバランスを整えることはとても難しく、常時仕事モードになっている状態が続いてしまいます。また、自分の仕事がどのように評価されているかが分からないまま、続くテレワーク化で従業員はより頑張ろうと心掛けることで、オーバーワークに拍車がかかっています。

また、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の7月号のテーマは「バーンアウトの処方箋」でもあり、記事によると、HBRの支援を受けて行った調査において、46カ国1500超人らの89%が「ワークライフが悪い方向へ向かっている」、85%が「ウェルビーイングが低下した」回答したそうです。

そんな中、注目されているのが従業員のWell-beingを保つための取り組みです。Well-beingとは肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態のことです。そして、もし誰かが働きすぎて疲れ果てているとしたら?必要なのは休むことです。疲れ果ててしまう前に休みを取り、Well-beingを保つことが重要です。

スマートフォンやインターネットが当たり前の社会で育ってきたY世代やZ世代(18~39歳)は特にWell-beingへの意識が高く、Citrixが行った意識調査「Born Digital Effect」では、Well-beingを経営課題の重要要素と捉えている経営層は73%だったのに対し、デジタル世代の83%が自分がリーダーになった時は従業員のWell-beingを優先すると答えました。

デジタルに常に触れてきた世代だからこそ、デジタルから切断することが必要なことを体感で知っているのかもしれません。いつでも、どこからでも働けるようになったからこそ、私たちは意識して「つながらない」時間を作り、Well-beingへの意識を高めていく必要があります。

Googleがメディテーションを推奨し、人々がキャンプに勤しむ理由は?

オフィス勤務では、仕事の間の過ごし方で細かな休憩が取れていました。雑談や、会議室の移動の間のちょっとしたリフレッシュがない、テレワーク環境では空いた時間を業務に充ててしまいがちです。生産性は上がります。しかし、そのような環境で新しいアイデアやひらめきが起こるとは思えません。

必要なものは一通りそろっている現在、企業はより革新的なサービスやビジネスモデルを生み出すために奮闘しています。しかし、従業員が常にオーバーワーク状態ではそれも実現できません。行き先が不透明なVUCA時代と言われる今、企業が競争力を保つには、スピードを落とさず、過度なストレスを避けながら、いかにしてイノベーションを生むことができるのかを考えなければいけません。

それには、テクノロジーにより向上した生産性や柔軟な働き方で生まれた余白の時間を、仕事で埋めるのではなく、積極的に休みを取るように従業員を促すことが第一歩となるでしょう。

そのことを理解しているからこそ、Googleは積極的にメディテーションを導入し、「キャンプは人間性を回復する」と提唱するSnowPeakがキャンピングオフィスを提供しているのではないでしょうか。

  • SnowPeakが提供しているキャンピングオフィス

このような流れを受け、昨年のパンデミックが流行した際、企業では、ビデオ会議システムを使ったWell-beingの盛り上がりも見せ、チームビルディングの一環として、バーチャル飲み会、ストレッチ、ヨガ会などが開かれましたが、1カ月も立たないうちにオンラインイベントは楽しいものではなくなり、今や下火になってしまっています。そして、燃え尽き症候群が働く上での課題として顕在化する一方です。

Well-beingを継続するカギは、経営層からのメッセージの出し方です。経営層がWell-beingを大切であると本気で捉え、ビジネス戦略の一部として、自社の最終損益にメリットをもたらすものと認識した上で、従業員の関心や活動を後押しすることが大切です。そして、イベントの企画者は、エンターテインメント性も取り込みながら、リモートワークで日々変化している個人の生活や働き方の関心を先取し、その関心にあった内容のプログラムを展開します。

シトリックスでは、このような方法で、経営者と企画者の双方向でプログラムを構造化させることにより、インパクトが強化され、昨年からほぼ毎月1回の従業員エンゲージメントプログラムを継続しています。このように綿密な計画と検討を重ねたプログラムは、非常に多くの従業員が参加をし、従業員のコミュニティづくりを深めることができています。

また、Well-beingは個人の問題ではなく会社全体の問題として取り組むことで、従業員は罪悪感なく休むことができます。企業が成長するにおいて、働き方改革と同時に休み方改革を行い、休みに対する考え方も変えていくターニングポイントに私たちは立たされています。長期休暇の季節、罪悪感なく楽しむことが後に仕事の成果につながるのかもしれません。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE本部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。