朝日放送所属のアナウンサーとして、スポーツ実況の第一線で活躍してきた平岩康佑さん。彼が日本初の「eスポーツアナウンサー」に転身したのは2018年のことでした。

当時はeスポーツの知名度も高くなく、eスポーツ専門のアナウンサーなど存在しなかった時代です。それでも臆さず辞表を提出し、自らeスポーツ実況事務所「ODYSSEY」を立ち上げ、今では「eスポーツアナウンサーの第一人者」としての地位を確立しています。

今回は、紆余曲折を経て「好き」を仕事にした平岩さんに、ご本人が大切にしている仕事の流儀をお聞きしました。

韓国でeスポーツの試合を初観戦、帰国翌日に辞表を提出!

――まず、アナウンサーという道へ進んだキッカケを教えてください。

最初はニュース番組の報道キャスターになりたかったんです。というのも、学生時代にアメリカに留学していたのですが、当時はちょうど大統領選の真っ只中でした。結局、バラク・オバマ氏がアフリカ系アメリカ人であり有色人種として初の大統領に選ばれたのですが、地元の同級生たちがみんな、すごい熱で選挙に注目していたんですよ。仲間内で集まって討論会をしたり、投票にももちろん行くし。政治に対する空気が日本とはまるで違って、そこで大きく影響されました。

――スポーツアナウンサーのイメージが強かったので、少し意外でした。

ニュースキャスターって、もともとスポーツ実況をやっていた人が多いんです。僕がいた会社は、キャリアの途中からスポーツ実況者に転身することができなかったので、とにかく最初はスポーツ実況にチャレンジしてみようと考えたんです。僕自身はゲームが好きだったので、スポーツすること自体はあまり好きではなかったんですけどね(笑)。

でも、仕事としてのスポーツ実況はとても面白かったです。3年目に夏の全国高校野球でデビューして、プロ野球、Jリーグ、ラジオの箱根駅伝、マイナビABCチャンピオンシップゴルフトーナメントなどでも実況させてもらいました。

――やはり昔からゲームが特別好きだったんですか?

大好きでしたね。前職でも、休みの日は16時間くらいゲームに没頭していましたから(笑)。そんなとき、世界ではeスポーツの波が徐々に来ていて、日本にも2017年の冬くらいに、少しずつeスポーツが話題になってきたんです。僕は2018年、韓国に試合を観に行ったときに胸を打たれちゃって……「これはeスポーツ専門のアナウンサーになるしかない!」と思い、帰国した翌日に会社へ辞表を出しました(笑)

――すごい行動力! それほど大きな刺激を受けたんですね。

韓国にはeスポーツの専用スタジアムがあるんです。僕もそこで観戦したのですが、スタジアムの作りもカッコいいし、応援している人たちの熱量もものスゴい。観客はほとんどがゲーマーで、見た目的にはサッカーファンやクラブ好きな人々とは少し違いますが、彼らも同じ用に声を枯らして応援してたんです。そんなエネルギーを持っていたことに驚いたし、「日本にも潜在的に需要が眠っているはずだ」と感じました。

誰よりも早くeスポーツアナウンサーになりたかった

――しかし、当時はeスポーツ専門のアナウンサーは存在していませんでした。不安はなかったんですか?

むしろ、日本でeスポーツアナウンサーの第一人者になるのが目標だったんです。だから、「急がないと、自分より先にeスポーツアナウンサーになる人が現れちゃう!」と思ってヒヤヒヤしていましたね(笑)。会社を辞めて仕事がなくなるより、行動が遅いせいで別の人がこの道の第一人者になっちゃうほうが怖かったですよ。

――前職の退職後、すぐにお仕事はあったのでしょうか?

それがありがたいことに、僕が仕事を辞めるというニュースがYahoo! ニュースのトップにも載るほど大きく取り上げられたんです。おかげで、初日だけで70件くらい仕事の問い合わせが入りました。当時、eスポーツの試合は週末がメインだったのですが、年内の土日のスケジュールがあっという間に埋まりましたね。

――本当に需要があったんですね。では、今の仕事で一番嬉しかったエピソードを教えてください。

2018年夏、日本中が全国高校野球の100回大会で盛り上がっていましたが、一方では「シャドバ甲子園」も開かれていたんです。これは高校生3人がチームを組んで対戦していく大会なのですが、注目されていたチームが、ある一人のメンバーのせいで負けちゃったんです。その子は試合後のインタビューでも一言も喋れず、とても落ち込んでいました。でも、インタビューを終えて壇上から降りるとき、さりげなく勝者の肩をポンって叩いて握手をしていったんですよ。

――負けたけど、しっかり健闘を讃えたんですね。

eスポーツも他のスポーツと同じように、純粋な勝負の場面や感動的な場面があります。その瞬間を生で見られたときは「この仕事をやっていてよかったな」と思うし、そういう瞬間は絶対に見逃したくないです。

――やっぱりeスポーツを観戦していると、感動することも多いですか?

もちろんです! eスポーツはほとんどがチーム戦ですから、チームワークがよくないと勝てません。だから、どんなにゲームが上手くても、協調性がなければメンバーから外されてしまいます。プレイ中に仲間を助けるシーンなんかはやはり感動的ですよね。

今も衰えない、ゲームを渇望する気持ち

――実際、自分の好きなことを仕事にしてみていかがでしょう?

最初は「好きなことを仕事にしたら、もしかしたら嫌いになっちゃうかもな」とも考えていました。でも、実際はそうならなかったですね。もちろん、会社の経営や業務上のストレスはありますが、ゲームが嫌だと思ったことは一度もありません。

―― では、今の仕事で大変だと感じることはありますか?

やりたいゲームをする時間が取れないことですね。本当に、これが一番の悩みです(笑)。どうしても、仕事に必要なゲームをリサーチがてらプレイすることが多いので。実は「隠居したあとにいつかやるゲームリスト」を作っています(笑)。今はできなくても、余生は絶対にやってやろうと思っています!

――そ……それはものすごい情熱ですね。ゲームはいつから好きなんですか?

小学校3~4年生くらいからです。当時は『スーパードンキーコング』が大好きでした。でも、我が家は中学に上がるまでゲーム機を買ってもらえなくて、わざわざ友達の家に行って遊んでいました。とにかくゲーム機が欲しくて、絵を描くときとかも、僕だけピカチュウやマリオの絵じゃなくて、ゲーム機本体の絵をひたすら描いていましたからね(笑)。

――それほどゲームに飢えていたんですね(笑)

そうなんです。だから、未だに家電量販店のゲームコーナーに行ったときは長居しちゃいますね。海外旅行でも必ず現地のゲームをチェックしていました。今は世界中で同じゲームが買えますが、昔は「洋ゲー」といって、外国では日本とは全然違うゲームが売られていたんです。海外でも3時間くらいゲームショップを物色して、いくつか買って帰国するのが定番でしたね。おかげで、今もゲームを渇望する気持ちは消えていません(笑)