新型「GR 86/BRZ」の企画とデザインはトヨタ自動車が主導したが、BRZについていえば、スバルらしさが随所に感じられる仕上がりとなっている。差別化の苦労やデザインの差による走りの違い、こだわった部分などについて、スバルのデザイナーに話を聞いた。
すべてが大変だった
BRZのデザインを担当したスバル 商品企画本部 デザイン部の佐藤正哉さんは、トヨタとの共同開発について「こんなに大変だとは思いませんでした」と笑う。
「スバルのクルマでありながら、一方でトヨタのクルマを作るということですので、2つの会社で同じことを平行してやるわけです。まずこれが大変でした。もうひとつは文化がやはり違うので、例えばデザインをここで決定するというタイミングや開発すべき要件も違ったりします。のそういったところのすり合わせも含め、全てが大変でした」
もう少し具体的に尋ねてみると、「トヨタはデータ主体で進めていくのに対し、スバルはどちらかというと、ある部分はモデルを作って進めていこうとする。そんな違いがありました」とのこと。つまり、トヨタはデータ上で設計を進めていくのに対し、スバルは現物を作ってみて、そこからデータを起こすというやり方の違いがあったのだ。
「最初はデータでやっていましたが、スバルのクレイモデラーから『この部分は分かりにくいので、モデルを作った方が早い』という声が上がることもありました。そこでトヨタのデザイナーに常駐してもらい、現場でクレイモデルを作ったり、その近くに端末を置いたり、場合によっては設計の人にも来てもらって、図面を開きながら作業をすることでコミュニケーションを取っていきました」
凝縮感を実現するために
さて、スバルでは新型BRZのデザインをどのように進めていったのか。佐藤さんは「現行型の良さを維持しながら、なおかつ2代目として、トヨタとスバルで作るFR独特のプロポーション(凝縮感など)をどうやって表現するかを話し合いました」と振り返る。そこで、スバルとしては久しぶりにトライしたのがAピラーの造形だった。
「Aピラーをフェンダーの中に入れて、フェンダーと切り離しました。スバルの場合、Aピラーはフードにつなげることが多いのですが、そうするとキャビンが小さく見えなくってしまうので、今回は切り離しました」
リア周りではライセンスプレートをバンパー位置に下げた。バンパー上の塊感を表現するためだ。この意匠は初期段階から取り入れたいと考えていたそうだ。
バッジを変えるだけでは「BRZ」にならない
GR 86とBRZの差別化について、佐藤さんはこう語る。
「結果的に、スバルのデザインキーワードである『ダイナミックソリッド』や『ボールダー』など、フロント周りのデザインアイデンティティを採用しましたが、方向性は同じです。例えば4WDの場合は、タイヤが四隅にあって踏ん張るという形があり、FRの場合はリアがちゃんと踏ん張っていなければいけません。そこでの違いは特にありませんでした」
「最初はいいものをひとつ作ってバッジを変えるくらいの考えで進めていましたが、『ファンクショナルマトリックスグリル』などGR独自の考え方が織り込まれてきました。そうすると、バッジを変えてもスバルになりません。そこで商品企画に協議をしてもらい、いまの形に合うようなフロント周りのデザインを始めたのです」
新しいヘキサゴングリル
ここからBRZ専用のデザインを始めたわけだが、まずはスバルのデザインアイデンティティを採用し、FRらしさを表現すべくフードには前進感のあるボリュームを持たせた。
「GR 86と比較すると、例えばヘッドライトの位置はBRZのほうが少し低く、かつ広く見えます。ボクサーエンジンを搭載しているので、それを表現するために低くてワイドに見えるようにしました」
デザイン手法としては、「ボンネットの先端がグリルにかかるように」している。それを受け止めるヘキサゴングリルには新機軸を取り入れた。その理由は。
「そのまま六角形のグリルを入れてしまうと、単なるグラフィックになり、形と合わなくなってしまったのです。そこで、ボディ側の形がとても綺麗なのと、かなりの力感、塊感があるので、それをきちんとグリルが受け止め、新しいBRZ像をきちんと伝えられるよう、ヘキサゴングリルの角の比率を見直しました」
グリル内のフィンは当初、4本だった。しかし、「少しうるさくなってしまう」ことから3本とし、きちんと開口を見せる造形とした。グリル下のロワー部分はボディ同色にすると「単純に抜けてしまう」ので、色を変えるとともに、グリルをちゃんと受け止める形とし、センター部分にも特徴づけをしてきっかけを作り、変化をつけたという。
その結果、「前から見ても横から見ても新しいヘキサゴングリルと調和していながら、力強さと新しいスバル像を見ることができる」現在の形に決まったそうだ。
空力シボはスバルの提案
フロントバンパー左右にあるエアインテークの空力シボは、スバルの提案だ。「シボ」といえば見た目のもので、例えば革にあえて皺を寄せた「革シボ」などが知られているが、今回はシボに機能を持たせたという。例えば競泳用水着を鮫肌にすることで記録が伸びるように、「クルマの空力にも使えないかと考えたところから開発がスタートしました」と佐藤さん。実際に走って評価してみたところ、「これは行ける」となったそうだ。
「最初は空力でしたが、操安性にも効果があることが分かりました。それらを両立させるため、GR 86は水平に、スバルは20度角度を付けました」
つまり、BRZの方がハンドリングに振ったことになる。
実は佐藤さん、このシボに関しては当初、懐疑的だったようだ。
「当然、実験部隊はプロですから違いが分かるでしょう。しかし、我々にも分かるのかなと思っていました。そんな折、試作したフィルムをテストコースに貼りに行ったデザイナーが実際に乗ってみたところ、全く違ったとのことだったので、それならやろうということになったんです。我々と同じデザイナーに違いがわかるのであれば、一般のお客様にもわかってもらえると考えました」
GR 86とBRZの基本となるデザインは共通だが、それぞれが込めた思いは少し異なる。GR 86は今後のGRに共通するモチーフを取り入れ、BRZはデザインアイデンティティをベースモデルに合わせてリデザインした。さて、貴方はどちらがお好みですか。