日夜忙しく仕事に励むビジネスマンの中にも、「何かを変えたい」「自分に足りないものは何なのか」「どうすればあと少し前に進めるのか」といった、漠然とした悩みを抱えながら過ごしている人は結構多いはず。そんなもやもやを晴らすきっかけになりそうな、「世界がひろがるアカデミー」が2021年8月に開校する。講師を務めるのは、日常では出会うことができない各界のトップランナー12名。その顔触れはじつに豪華で、文字通り世界が広がる刺激的な体験をすることができそうだ。

  • 「世界がひろがるアカデミー」の発起人であり校長を務める倉本美津留さん(右)、講師の1人・こやまたくやさん(ヤバイTシャツ屋さん・寿司くん、左)

今回、「世界がひろがるアカデミー」の発起人であり校長を務める倉本美津留(放送作家,演出家etc)と、講師の1人・こやまたくや(ヤバイTシャツ屋さん,寿司くん)による対談を前後編にわけて掲載する。前編では、開校のきっかけから、2人の出会い、講義の内容等について語ってもらった。

「世界がひろがるアカデミー」開校のきっかけ

――まず、校長を務める倉本美津留さんにお伺いします。「世界がひろがるアカデミー」は昨年から今年にかけて行われた「人間力最大化計画」がベースになっているそうですが、こうした取り組みをはじめることになったきっかけについて教えてください。

倉本:コロナ禍が始まる直前に立ち上がりかけていた話なんですが、社会の先行きはどうなっていくのかという不安が立ち込めているこんな時代に、なんか自分に出来ることはないかと考えたときに、僕自身さまざまな不安や困難を乗り越えて、面白くも不思議な人生を歩んで来ることができたその一番の要因は、ひとえに人との出会いだなと。出会いたい人にどんどん出会って行き、いろんなスペシャリストとコミュニケーションしていくことで切り開けて来た人生だったなと。そこで、普通なら出会えないようなたくさんのスペシャリストとガンガン出会えてコミニュケーションできるような場を設けることができたら、そこに集ってきた人たちの人生は急激に晴れて来るはずだ!そしてそういう場は自分が今までの出会えてきた凄い人たちに声がけして行けば実現する!それなら自分に出来る!と思い立ったんです。で、昨年度は一年間「人間力最大化計画」と題し「自分が持っているポテンシャルを最大化してもらう」ということを目的に、そのお手本となるような、人間力が最大化してる凄い講師陣に集まってもらいました。多ジャンルのスペシャリストに講義を行ってもらったことで受講生たちは、誰かを目当てに参加したら全然知らないすごい人と出会ってしまうという、普段ならあり得ない体験を連続することによって人間力の最大化が加速する。そんな一年になりました。自分の可能性をなんとか引き出したいという人にとって覿面(てきめん)の効果がありました。

  • アカデミー開校への想いを語る倉本さん

今年度もそのシステムを踏襲しながら、もっと幅広く、何かもやもやしていて、何かもっと自分が生きがいを感じられるものがあるんじゃないか?と漠然と思っている人にとって役に立つ、新しい発見、活路を見いだせる場所に。との思いで「世界がひろがるアカデミー」として開催することになったんです。

二人をつないだのは"5分のテレビ番組"

――さまざまなジャンルから12名の方が特別講師を務めますが、その中でこやまさんに講師を依頼したのはどうしてですか。

倉本:こやま君のようなタイプの講師は、昨年度はいなかったんですよ。前回と違う感じの人にも登場してもらってまた一段と幅広いミックスできたらいいなっていう感覚でお願いしました。

こやま:倉本さんとは、共通の知人を通じて紹介してもらって一緒に飲むことになって、そこからずっとお世話になっているんです。僕はもともと、小学生のときに、倉本さんがやっていた子ども番組をずっと見ていたんですよ。

倉本:それは毎日早朝に放送していた『くらもとみつるとぽんごん』(テレビ東京系)という5分番組で、「当たり前は当たり前じゃない」ということを面白く見せる内容でした。あの番組を見た小学生は絶対将来面白い大人になっているはずだと思ってたんですけど、やっぱり!と(笑)。

こやま:はははは(笑)。影響を受けてます、完全に。月~金で朝6時40分からやっていて、めちゃくちゃシュールなんですよ。

倉本:僕が今やってる『シャキーン!』(NHK Eテレ)のもとになっているような番組でした。

こやま:絵が全部おかしいんです。ぽんごんというキャラクターがいるんですけど、口から言葉をゲロみたいに吐き出すんですよ、朝の番組なのに(笑)。全部がおかしいんです。シュールなんですけど、ギリギリ伝わるシュールさというか。そのへんのさじ加減にすごく影響を受けたと思います。

倉本:僕は僕で、ヤバTっていうヤバいバンドがいるっていうことを知り合いの10代のシンガーから教えてもらって、MVを見たんです。それはドローンを使ったMVだったんですけど、絶対こんな使い方したらあかんやんっていうドローンの使い方をしていて(「ヤバみ」https://www.youtube.com/watch?v=329F4L9ATcw)。シンプルでストロングでおもろいことするバンドやなあと思ったんです。それで映像も作ってると知って岡崎体育君のMVとかを見たときに、「これは新しい表現者が出てきたな」と思ったんですよね。それで覚えておいたら、あるとき友だちから電話がかかってきて「今ヤバTのこやま君と飲んでるから来ませんか?」って。

ヤバイTシャツ屋さん - 「ヤバみ」Music Video

こやま:呼んでくれたんですよ。

倉本:「ああ、最近に気になってたわ!」って行ってみたら、「“ぽんごん”好きでした」って言われて、「えぇ~!?」と思って。「出た!ぽんごんチルドレン!」。

こやま:ははははは(笑)。

倉本:「これを待ってたんや!」って。最近おもろいやつが出てきたなと思ったら、やっぱりその番組を見てたという(笑)。僕の中ですごく腑に落ちたというか、ありがたかったです。そんな出会いなんですよ。

こやまさんが講義で伝えたいこと

――運命的な出会いですね(笑)。満を持してご一緒される感じですけど、こやまさんは講師のお話を聞いてどう感じました?

こやま:まあ、めったにない機会ですし、倉本さんからのご依頼ですし、何かしら喋れることはあるかなと思って。こちらとしてもありがたいと思いながら、今取り組んでます。 倉本:やったことがないことをやってもらうことになると思うんですけど、やったことがないことをやって切り開いてきた人だと思うんです。だから、この僕のムチャぶりをどう切り開いてくれるのかなって思います。自由にやってほしいですね。

――現時点で、具体的にどのような講義内容をお考えでしょうか。

倉本:こやま君には、90分の講義を2回やってほしいんです。1回目と2回目の間には1~2週間あるので、1回目の終わりぐらいに課題を出してもらって、それを2回目に持ってきてもらって講師が評価するのが定番な形です。だいたい1回目の授業は、どのようにして今の自分があるのかみたいなことを話してもらってます。こういう局面でこんなことをしてきたとか、こういうことが大事だった気がするとか。例えば自分の作品を見せながら、「このときはこんなことを考えながら作ったんです」とか。そういうことで、「こういう人がこういう生き方をしてここにいるんだ」ということを受講者が感じて、質疑応答とかもしながら進めて行く。それだけでもかなりクリエイティブになっていくと思いますが、もちろん、そんな形じゃなくても全然いい。

こやま:以前、筑波大学で落合陽一さんの生徒さんたちに向けて講義をしたことがあるんですよ。そのときは「セルフプロデュース力」みたいなところに重点を置いて喋った記憶があるんです。そのへんやったら、結構喋ることがあるんかなって。

倉本:それはうちの講座にピッタリだなと思う。自分のことを客観的に見てセルフプロデュースできるかどうかっていうのはすごく大事なことなので。それは俺も知りたい。教えて欲しい(笑)。

  • 気になるこやまさんの講義内容とは?

こやま:今、メジャーデビューしているんですけど、デビューするまでは全部自分たちでやってたし、今も世に出るものは全部1回僕を通してから出してるんです。映像とかも自分で作っていて、バンドとは別にやってる寿司くんも、全部自分で作って自分で売り込むというか、ヴィレッジヴァンガードにグッズを卸したりしていて。そういうノウハウみたいなものはあるので、そのへんは面白いかなと思います。

倉本:めっちゃ面白いですね。なんかやっぱり僕よりも2世代若い感じなんですよね。僕なんかは、何屋かようわからんような生き方をしてきて、それがいいのか?悪いのか?みたいな感じで来たんやけど、これからの時代は何屋かわからへん人たちが作って行くものだと思っていて。今の話を聞いていて、こやま君はその代表選手だと思うんですよね。面白くて人に伝えられそうなものなら、ジャンルを問わずして何でもやるっていうのが、若い人たちに増えてきていると思うんです。そういうことをど真ん中で語れるのは、今回の講師の中でもこやま君だと思うので。俺も聞きたいもん、どうやって生きてきたのか(笑)。

こやま:僕は、「決して就職するものか」と思って生きてたので(笑)。

倉本:それ俺も一緒。それって大事やね(笑)。

こやま:自分でやっていくしかないなっていう。

倉本:逃げも隠れもできへんところに自分を持って行くみたいなところやもんな。

二人にとっての「世界が広がる」経験

――そういう生き方を貫くと、壁にぶつかるようなこともあるんじゃないかと思います。そういう経験があるとして、お2人はそんなときどう突破してきたのでしょうか。

こやま:僕はすごく楽観的やったので、「なんとかでもなるだろう」って思いながらやってきました。あんまり、「うまくいかへんなあ」とか、へこんだりすることはなかったですね。

倉本:へこむということをあんまり意識しないというところが、もともとあるのかもしれないね。僕なんかは、パワハラ全盛時代の人間やから、若い頃は言うことを聞かへんと当たり前のように殴られたり蹴られたりするわけですよ(笑)。でもやっぱり人の言うことを聞いてそのまんまやるということがもともと苦手やからこうなったので、言われたことをそのままできなくても、「できへんことの方が意味があんねん」っていう風に見せるしかないなという感じで、そのために試行錯誤してきたんです。そんなにへこまんで来れたこやま君はええ時代におんねんなって(笑)。

こやま:ははははは(笑)。

倉本:僕はへこまされたし、むちゃくちゃやったけど、「クソー、おまえより絶対おもろいこと考えてんぞ、俺は!」とか、そんな感じで戦いながらも上手いこと人を巻き込みながらやってきましたね。

  • 二人が語る「世界が広がる」経験

――「世界が広がる」経験も、その都度してきたわけですよね。

倉本:もちろんです。やっぱり人との出会いが大きいですね。出会いたい人にも積極的に近づいていくし。出会いたい人とはほとんど出会えたんちゃうかな、ぐらい。出会いたい人が、全然知らない自分と会ったときに、「ああ、面白いね」と思われるためには、その人に面白いと思われる部分をちゃんと自分なりの感覚的でわからんとダメじゃないですか?そこで出会うと次に繋がっていくし。今回の講義で一番大事なことは、1年間いるだけでいっぺんにすごい人たちとガンガン出会えることなんです。僕も、「誰とどこで出会ってその人と何を始めるか」という、それしかない感じでずっとやってきているので。こやま君は、人との出会いってどう?

こやま:学生のときから、コミュニケーション能力が人より低いと思っているんです。学生の頃から、アニメとかMVとか映像を作っていたんですけど、映画のチームとかってほんまにすごい人数のスタッフを入れてコミュニケーションをとらないとできないじゃないですか?

倉本:それをとらないとできないもんね。

こやま:でも僕はそれができへんから、できるだけ1人でやろうと思ったんです。誰かの協力が必要なときもできるだけ身近な人に頼んで、できるだけ少人数でやろうと思って、ほんまに小規模で。アニメとかも全部基本的に自分でやって、でも絵と声の部分は自分でどうしようもできないから本当に身近な友だちに協力してもらったり、あとは全部1人でこそこそやって。MVも基本1人でカメラ持って行って全部自分で準備して撮って。あとはアーティスト側のスタッフの人に手伝ってもらったりとか。後輩を連れていくにしても1人2人とかで、すごく小規模な中でじゃないと、できなくて。今のバンドも、3ピースなんですけど、たぶんこれ4人になったら無理やなと。

倉本:ははははは(笑)。

こやま:最小限の3人やから、うまくできてんのやろなみたいな。岡崎体育君も、もともとバンドをやっていたんですけど、そういうのが苦手で1人でやることにしたと言っていて。そういうところは似てるなと思いますね。でもやっぱり、こうやって色々やることの規模が大きくなっていくうちに、関わってくれる人の数が増えて行ってるんですけど、それは自分のコミュニケーション能力を越えたところで関わってくれてる気がするので。上手くやってもらってるなって思います。自分が人を集めて何かをやるっていうのは、あんまり上手にできひんなって思います。

倉本:なるほどね。岡崎体育君との出会いは大きかったのかなって思うんだけど、どういう友だちなの?

こやま:もともと、僕が「寿司くん」というアニメをネットに上げていて、それを偶然見てくれたんです。僕はエゴサーチをよくするんですけど、「寿司くんにMV撮ってほしいな」って、岡崎体育がまだTwitterフォロワー300人とかのときに呟いていて(笑)。それでYouTubeにアップされてた曲を聴いたら面白くて、ライブを観に行ったんです。そしたら、中学校が一緒だったことがわかって、部活も同じだったんですよ。ライブはお客さんちょっとしか呼べてないんですけど、めちゃくちゃ面白くて。それを見て「これはちゃんとMVを作って世に出した方がいい」と思ったんです。

倉本:完全にプロデューサーになってるよね。でもやっぱり、人に会いに行くっていう行動を起こしているわけですよ。

こやま:そうですね。自分でできる範囲の行動はちゃんとするんですよ。そこかもしれないですね。

倉本:そうか、じゃあ岡崎体育を見出したのはこやま君やったんや(笑)。

こやま:そこまで言うのはおこがましいですけど、わりと早めに見つけた感じはあると思います。

倉本:「この人はこうした方が良く見える」というのは、やっぱりプロデュース能力だよね。

――「世界がひろがるアカデミー」を受講する人の中にも、コミュニケーションが苦手という人がいるのではないでしょうか。

倉本:いると思いますよ。「人間力最大化計画」に来ていた人たちも、コミュニケーションが苦手そうな人ばっかりでしたから。それをなんとかしたいっていう。

こやま:苦手なりになんとか、世に出ていく方法を掴みたいというか。

倉本:そうそう。本当にきっかけになれると思うんですよ。例えば今回集まってくれた生徒さんが、もしかしたらこやま君が「こいつなんとかしなかったらもったいないな!」って思う人になれるかもしれないわけですよ。たぶん、こやまくんは面白いなと思ったらほっとけない質だと思うから。僕もそんな人間です。おせっかいなんです。まあ、だからこんなことやってるんですけど。

一同:(笑)。

倉本:でも、僕もこれからの人たちとも出会いたいから若い人たちにたくさん来てもらいたいと思うし、年齢関係なくまだ目覚めてない人でもいいし、何か刺激を与え合う場所にできたらなと思います。

――前回は、世代や職業など、どんな方々が参加していたんですか?

倉本:クリエイティブを目指す人が半分ぐらいで、あとは何かもやもやしてるっていう人たち。でも何か自分がやりたいという感覚を、小さくても全員持っていましたね。その時は「最大化」がテーマでしたから、それを最大化するための考え方とか、自分の立ち振る舞いをどうしたらよいのかっていうヒントはしっかり掴んで行ってくれたと思います。だから、コミュニケーションが苦手なこやま君がなんでこういう人物になったのかっていうのは、すごくヒントになると思うんですよ。それはみんな吸収したいところなんじゃないかなと思います。

~後編につづく~

●information
「世界がひろがるアカデミー」
2021年8月開校、2021年9月授業開始
※9月以降、原則隔週第2・第4水曜日19:00講義開始予定