両者1勝1敗の成績となった

第80期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)の2回戦、▲稲葉陽八段-△藤井聡太二冠戦が6月3日に関西将棋会館で行われました。深夜1時9分まで続いた激闘を165手で制したのは、稲葉八段でした。この結果、両者のリーグ成績は1勝1敗となりました。


第80期順位戦B級1組リーグ表

角換わり腰掛け銀の将棋となった本局。稲葉八段の攻め、藤井二冠の受けという構図で指し手が進んでいきます。藤井玉は5四に引っ張り出された上に、周りには金銀がいない孤立状態になりました。しかし、これがなんと前例もある定跡手順。昼休に入るまでに67手も進むハイペースの進行となりました。

昼休明けに指された藤井二冠の手によって、局面は未知の領域に突入します。藤井二冠は不安定な玉形ながらも歩を用いて反撃。持ち時間が6時間の順位戦らしい、両者一手一手に時間を使うじっくりとした展開となりました。

難解な押し引きの末、優位に立ったのは稲葉八段でした。7六に打った角が大活躍。飛車を取らせる間に、この角を軸にした攻めで藤井玉を追い詰めていきます。

しかし、簡単に土俵を割らないのが藤井二冠です。B級1組1回戦では、三浦弘行九段相手に劣勢に陥るも、逆転勝利を収めています。また、直近の対局である永瀬拓矢王座との叡王戦も大逆転で制しました。

当然、稲葉八段も藤井二冠の逆転術を警戒していたのでしょう。優勢になっても丁寧な指し回しを続けます。金をタダで捨てる藤井二冠の勝負手△6三金にも応じず、馬を自陣に引いて守りを重視。さらに金を自陣に投入して、逆転の糸口を与えません。

ところが、手堅いだけでは勝てないのが将棋の怖いところです。手堅く、手堅く指しても、いつの間にか逆転されてしまうことがあるのが将棋です。手堅い指し回しのつもりが、手が委縮していただけだったということもあります。決めるべきところで決めに行かなかったがために、形勢がひっくり返るというのはよく見る光景です。

その点、本局の稲葉八段の攻守の切り替えは見事でした。藤井二冠が自陣の飛車を攻めに活用し、藤井陣の守りが薄くなったタイミングで反撃に出ます。飛車で王手をした後、ばっさりと角を切ったのが好手でした。これで藤井玉の守りは一気に弱体化しました。

稲葉八段は豊富な持ち駒を活用して、藤井玉を着実に寄せていきます。先ほどまでの手堅い受けの効果で、稲葉玉は安泰。攻めに専念することができました。

藤井二冠は金銀を自玉付近に投入して粘りますが、稲葉八段の上下からの攻めは強烈。ついに受けがなくなり、165手目を見て投了を告げました。

この勝利で稲葉八段は2戦目で今期B級1組の初勝利を挙げました。1期でのA級復帰に向けて大きな勝利。順位が1位なのも心強いところです。

一方、敗れた藤井二冠も1勝1敗の成績となりました。また、順位戦での連勝が22でストップ。順位戦通算で2つ目の黒星となり、通算成績は40勝2敗になりました。

藤井二冠の粘りを振り切って勝利した稲葉八段。写真は対局開始前のもの(提供:日本将棋連盟)
藤井二冠の粘りを振り切って勝利した稲葉八段。写真は対局開始前のもの(提供:日本将棋連盟)