コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。
本稿では、The Breakthrough Company GO (株式会社GO)の代表取締役である、三浦崇宏氏にインタビューを行った。PR/クリエイティブディレクターとして活躍し、『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』などの著書でも知られる同氏は、コロナ禍でどのようなマネジメントを行ったのだろうか。
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コロナ禍でGOが行ったマネジメント
2020年4月7日に7都府県に対して発令され、4月16日に対象を全国に拡大した緊急事態宣言。これによって、多くの企業は新型コロナウイルスへの対策を余儀なくされた。これに対してGOでは「感染対策のマネジメント」「働き方のマネジメント」、そして「感情のマネジメント」を進めたという。
GOでは発令以前の2~3月から対策を進めており、産業医によるオフィスの点検を受け、規模を鑑みた出社人数の制限、体温測定とマスク着用の義務付けを実行していったという。これが「感染対策のマネジメント」だ。
「独自の対策ではなく、医療顧問の意見を反映させた感染対策です。これは経営者側の責任としてやらねばならないことですよね。病気になったら病院に行って医者の意見を聞くように、社会で問題が起こっているのであればその問題に詳しい専門家に聞かないといけません」
そして、出社しない社員にはリモートワークを推奨した。これが「働き方のマネジメント」だ。GOでは、シェアオフィス・コワーキングスペースを提供するサブスクリプションサービス「HafH (ハフ)」の利用を推奨し、働き場所を確保。さらに2021年ごろから、群馬県前橋市の「SHIROIYA HOTEL (白井屋ホテル)」を借りており、ワーケーションをしたいという要望にも対応しているという。
だが、こういった新型コロナウイルス感染予防を行うと、当然コミュニケーションは出社時よりも難しくなる。人と人が会う機会が減り、マスクやWeb会議によって人の表情が読みにくくなるからだ。これに対して三浦氏が行った「感情のマネジメント」とはどのような内容だろうか。
「『ありがとう』と『ごめんね』をちゃんと言おう、という話はしましたね。対面で仕事をしていたら、社員をきつく叱っても、その後『さっきは厳しく言ってごめんな、でもお前には期待してるんだよ』みたいなフォローもできました。でもコロナ禍ではそんなことできないわけですよ。オンライン上で『お前、ちゃんと考えろ』と言ったら、そのキツい言葉しか残らないんですよね」
リモートワークにおけるやりとりでは、オンラインで成果物が提出されても、その成果物に対する指示に終始しがちだ。これは指示する側からしたら楽な状況だが、される側にはわだかまりが残る可能性がある。このような積み重ねがコミュニケーションの妨げにならないよう、『ありがとう』と『ごめんね』を重視すべきというのが三浦氏の持論だ。
このほかにも、朝9時に全体の業務や体温を共有したり、発令直後は毎朝ヨガ教室を開いたりといった試みも行ったという。
「経営者が一番気にしなくてはいけないのは、用がないときの表情です。対面であれば表情を見て『調子はどう?』と声もかけやすいですが、オンラインではこういった感情のマネジメントが難しくなるんです。業務や体温の共有、ヨガ教室などをやったのも、これを可視化するためと言えます」
会議中に雑談をするふたつの目的
「感情のマネジメント」は、社内のコミュニケーションを円滑にするための方法ともいえる。そのために欠かせないのが雑談であり、「会議中の雑談」と「日常の雑談」で、それぞれ異なる効果があるという。
「まず、会議中の雑談は『脳の準備体操』と『リーダーの目線共有』というふたつの目的があります」と三浦氏。
「会議には『アイデア開発の会議』『意思決定の会議』『情報共有の会議』とさまざまなパターンがありますが、GOでは『アイデア開発の会議』は可能な限り対面でやるようにしていました。表情の解像度低いとアイデアに対する参加者の反応がわからないからです」
1時間以内にベストな結論を出さなければいけない過酷で知的な作業、それがアイデア開発の会議だという。1時間以内にゴールを見つけて、そこにたどり着かないといけない。間に合わないのであれば、せめてゴールを見つける必要がある。そのために必要なのが、雑談によるひとつめの目的、「脳の準備体操」だ。
「雑談はストレッチなんですよ、運動と一緒ですよね。また心理的安全性も生まれます。例えば、偉い人が『この商品は黄色だ!』と言ったら『そうですね』と同意せざるを得ない空気が流れる場合もあるでしょう。でも最初にたわいもない雑談をしておけば、本題に対しても屈託なく意見を述べやすい雰囲気が作れます」
さらにふたつめ「リーダーの目線共有」は、リーダーの世界観を皆に伝え、会議の方向を導くことが目的だという。
「例えば、ある映画を見たときに『最高に面白かった』という見方もあれば『僕的にはすごく不愉快だった。もっとこういう観点がほしかった』という見方もあるわけです。『僕はこういう視点で世の中を見ている』と、リーダーの持つ世界観をあらかじめ伝えておくことで、これからの会議をどういう方向で考えるべきか、うっすらと教えることができます」
日常の雑談が生み出すふたつの価値
また三浦氏は「日常の雑談にはふたつの価値がある」と述べる。
「基本的にアイデアは、あさっての方向からやってくるんですよ。自分の視界の外から出てくるものが良い成果を生み出すために必要だったりします。例えば僕の書籍『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』という本を売るための話し合いをしたとします。チーム内のアイデアが煮詰まっている状況でも、別チームの女性の『そういえば、今度あの飲料が黄色いパッケージを出すらしい』という雑談がきっかけで、『この本の表紙は黄色いし、飲料とコラボしようよ!』というアイデアが生まれるかもしれません」
自分の視点にないものがすれ違って生まれる可能性がある。つまり「チーム外の視点を得られること」が、日常の雑談が重要であるひとつ目の理由だ。
「もうひとつは、『人間性の把握と、絆の強化』です。目的のある会話だけだと人はなかなか仲良くなれません。『時間があるならメシ行こうよ』『週末なにしてた?』といった会話によって絆は強化されていきます。絆というととても抽象的ですが、経営者の立場から見ると"組織の力"なんですよね」
例えば、誰かが休んだときに「なんだよあいつ、休みやがって」と考える組織と「あいつが休んでるから、その分まで頑張って安心させよう」と考える組織ではパフォーマンスが大きく異なるだろう。。
「組織の人間の仲というのは、経営者にとって自分の健康のようなものです。絆の強化が組織のパフォーマンスを高めるので、雑談は可能な限りしてほしいですね」
新しいことを最初に始めた人には先行者利益がある
コロナ禍によって対面コミュニケーションに大きな制限を受けたビジネスパーソン。とくに昨年入社した方は、緊急事態宣言が明けたのちも、どうに人と接すべきか悩む方も多いだろう。
「対面で研修も受けられず、打ち合せにも参加できず……『君たちは厳しい時代に生まれて大変だと思う、がんばって!』という言葉を送る人もいますが、僕は全くそう思いません。これからリモートワークは当たり前になるでしょうし、仕組み自体はとても良いことだと思っています。僕自身はWeb会議が大嫌いなんですが(笑)」
そして、若いビジネスパーソンに向けて次のようなメッセージを贈る。
「みなさんは『厳しい時代の真ん中に生まれた』のではなく、『新しい時代の一期生』なんです。3~4年経ったらWeb会議も当たり前になっているでしょうから、それを最初に始めた先行者利益が必ずあるはず。『新しい時代の一期生だから一番得をしているんだ』と考えてほしいですね」
4月5日に発売された『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』は、三浦氏の著書では初となる対談集だ。新時代のリーダーともいうべき10代から70代までの9人と「対話」することで、令和という新時代を覆う「大物にはなりたくないが、何者かにはなりたい」という雰囲気の正体を探っている。コロナ禍の時代、そしてこれからのコミュニケーションについてさらに深く考えたい方は、こちらもぜひご一読いただきたい。
■三浦氏が考える「ウィズコロナで感じた3つのこと」前編はこちら
書籍『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』
革命的クリエイターが、9人の新時代のリーダーたちと、令和を生きる難しさと苦悩、それを乗り越え、成長するヒントを求めた「対話」の時間をまとめた1冊。The Breakthrough Company GO代表取締役、PR・クリエイティブディレクター 三浦崇宏氏著、集英社より上梓されており、価格は税別1,650円。