マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、欧州通貨が好調な理由について解説していただきます。
英ポンドやユーロは対円で3年ぶりの高値
足もと、欧州通貨が好調です。英ポンド/円は、5月27日の欧米市場で一時156円台を付けました。16年6月のブレグジットに関する国民投票以降の高値、18年2月に付けた156.580円も視野に入っています。一方、ユーロ/円は同じく27日に一時134円台を付けました。これも18年2月以来の高値でした。
コロナの状況改善が背景
欧州通貨が好調な背景は、英国やユーロ圏各国でコロナのワクチン接種が進み、行動制限の解除によって景気回復の本格化が期待されているからでしょう。その点では、米ドルも同様の背景を持っていますが、米ドルはリスクオフ時に選好される安全通貨であること、そしてFRBが他の主要中央銀行以上に長期の金融緩和にコミットしてきたことなどから、欧州通貨に後れをとっていると考えられます。
欧米で新規感染者数が顕著に減少 主要国のコロナ感染状況をみると、英国や米国で新規感染者数が2月以降に大幅に減少しています。感染拡大が続いていた欧州でも、ドイツやイタリアなどで4月後半以降は減少が目立ち始めました(※)。
(※)フランスでも新規感染者数は減少傾向にあるようですが、定義変更のためか統計数値に大きな段差があるため、本稿では言及していません。
なお、日本では5月上旬(GW効果?)に1月のピークとほぼ同水準まで増加した後、若干減少していますが、依然として高水準です。その状況は「世界」全体と大きく差はないように見えます(つまり、上述の主要先進国を除けば、状況はさほど改善していない)。
欧州が英米にキャッチアップ
欧州で最近になって新規感染者数の減少が目立つのは、遅れていたコロナのワクチン接種が急速に進んでいるからだと考えられます。直近で、英国や米国のワクチン接種率は50-60%で、ドイツやイタリアは40%前後です。過去1カ月で英国や米国のワクチン接種率は5ポイント程度しか上昇していませんが、ドイツやイタリアでは15ポイント近く上昇しています。
人口10万人当りの新規感染者数でみても、英国や米国で減少ペースが鈍化しているのに対して、ドイツやイタリアでのここ1-2カ月の減少ぶりが目立ちます。ユーロが対4月以降に英ポンドで比較的堅調に推移している理由の一つでしょう。
日本を覆う先行きの不透明感
ところで、日本では人口10万人当りの新規感染者数で1月末以降あまり変化していません。ただ、変化ではなく直近(5月26日時点)の水準でみれば、日本の新規感染者数は、英国と大差なく、米国やドイツ、イタリアなどに比べるとかなり少ないことがわかります。
つまり、欧米先進国と比べて日本の状況が著しく劣っているわけではありません。ただ、大きな違いがあるとすれば、欧米ではワクチン接種が進んだことでこれまでの新規感染者数の減少傾向が今後も続く、その結果として景気回復が本格化していくと期待できるのに対して、日本では新規感染者数がいつ明確な減少に転じるかが読めないことではないでしょうか。